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G20首脳の集合写真からバイデン大統領が消えたハプニングが意味すること

富坂聰拓殖大学海外事情研究所教授
(写真:ロイター/アフロ)

 華々しい首脳外交が南米大陸で繰り広げられた。

 11月14日から17日までは、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議がペルーの首都・リマで、続く17日から19日までは、G20(金融・世界経済に関する首脳会議)リオデジャネイロ・サミットが、ブラジル南東部の商業都市・リオデジャネイロで開催された。

 いずれの会議にも世界で大きな影響力を有する国のトップが集まる。

 ジョセフ・バイデン米大統領にとって、これは最後の首脳外交になると地元メディアは報じた。

 そのためか、APECでもG20でも、アメリカの存在感の低下は顕著で、政権末期のレームダック化を指摘する報道も少なからず目についた。

 アメリカと対照的に存在感を示したのが中国である。

 その変化を如実に示したのが、2つの首脳会議で撮影された集合写真だ。

後列に立つバイデン大統領

 まずはAPECの集合写真。

 中国の習近平国家主席と主催国・ペルーのディナ・ボルアルテ大統領が1列目の真ん中に陣取っている写真だが、その近くには本来いるはずのバイデン大統領の姿が見当たらないのだ。

 通常、こうした集合写真ではアメリカの大統領が真っ先に目に飛び込んで来るものだが、目を凝らして見ないと分からなかった。

 立っていたのは後列、向かって右から2番の位置だ。

 各国首脳の立ち位置は、主催国の意向が反映されるので、アメリカのポジションが固定されているわけではないとはいえ、やはり違和感は拭えなかった。

 さらに驚かされたのが、リオのG20で撮られた集合写真だ。

 最初に配信されてきた写真を見たとき、やはりバイデン大統領の姿を探さなければならなかったのだが、どれだけ探しても見つからなかった。

 いったい何が起きていたのか。

 実は、集合写真を撮るために各国首脳が集まったとき、バイデン大統領とカナダのジャスティン・トルドー首相、イタリアのジョルジャ・メローニ首相が話し込んでいて、集合に遅れてしまったのだ。

 だが、それだけなら「待って撮ればよい」だけの話だ。しかし主催国・ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、なんと3人を待たずに先に撮影を済ませてしまったのだ。

発展途上国はアメリカを必要としない?

 結局、3人がそろった後に写真は撮り直されたのだが、1枚目の写真は各国メディアで大きな関心を呼ぶことになった。

 この顛末を面白がって報じた米公共放送サービス「PBS」は、番組の中で、ブラジルのルーラ大統領がバイデン大統領を待たなかった理由を、「『1枚の写真は、千の言葉にも値する』と言われますが、グローバル・サウスの国々は、いまやアメリカを必要とはしていないようです」と皮肉たっぷりに解説したのである。

 アメリカを必要としていない、というのはいかにも言い過ぎだが、相対的に中国の影響力が強まったという印象は、会議を通じて共有されたのではないだろうか。

 APECの主催国・ペルーのボルアルテ大統領は、中国の協力で建設されたチャンカイ港のオンライン開港式に、習主席と並んで出席し、中国との良好な関係を強調した。

 そのチャンカイ港について、チリのガブリエル・ボリッチ大統領は、習主席との首脳会談のなかで、わざわざ触れ、「おめでとう」と言葉を発している。

 チャンカイ港はアジアと中南米を結ぶ門戸として期待される大型の港だ。その恩恵はペルーにとどまらない。

 ボルアルテ大統領は「ペルーと中国による『一帯一路』共同建設という壮大なプロジェクトは、ペルーが国際的な航運・貿易センターの構築という目標に向けて重要な一歩を踏み出したことを示した」と鼻息が荒い。

 中国によるグローバル・サウスの取り込みは、アメリカの裏庭にまで、着実に浸透しているようだ。

拓殖大学海外事情研究所教授

1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退後、『週刊ポスト』記者、『週刊文春』記者を経て独立。ジャーナリストとして紙誌への寄稿、著作を発表。2014年より拓殖大学教授。

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