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音羽山親方が見据える未来と相撲道への思い

中西正男芸能記者
相撲への思いを語る音羽山親方

 現役時代から強さとともに実直な性格に定評があった鶴竜力三郎さん(38)。6回の優勝を経験して21年に引退し、今年音羽山親方となりました。指導者として見据える相撲の未来、そして相撲道への思いを語りました。

自分も変わる

 親方という立場になり、教えることが生活の中心になりました。そこで常に考えているのが自分も変わっていかないといけないということなんです。

 教える中で自分も成長していく。これがないとダメだと思いますし、現役の頃は強さを目指す中で相撲道を歩んできましたけど、これからは教えるという道で自分を鍛えていくんだなと感じています。

 人それぞれに適した教え方、より伸ばせる教え方があると思いますので、そことしっかり向き合っていくことから始めています。それぞれに合った指導法を見抜く。そこから才能を見抜く。それがこちらの仕事だと思いますので。

 自分が現役の頃は、自分で考えて、工夫して、どんな相撲が合っているのかを見つけるようにやってきました。人によって合うものは本当に違うし、いかにそれを見つけられるか。これが強くなる大きなポイントだとも思うんですけど、そこを教えることができたら自分がやってきたことの意味があるのかなとも考えています。

「相撲道」の意味

 最初、日本に来たときはまず関取になるのが夢だったし、もうここまで来たんだからやるしかない。その思いだけでした。関取になったら仕送りもできるし、親孝行もできると思って、とにかくそこだけを目指してやりました。

 相撲の世界に入った頃はまだ十代で、当然、周りは先輩ばかりでした。なんなら自分のおじいちゃんくらいの方々もたくさんいらっしゃる。179センチ66キロだった体もどんどん大きくなっていきましたけど、それ以上に精神年齢というか、人間的に大きくしていただいたと本当に思います。

 相撲は単なる競技ではなく相撲道ですから。ただただ強くなればいいわけじゃない。人間的にいかに成長するかが大切です。ここは本当に大切なところだと考えています。

 壁は数え切れないほどありましたけど、それでも続けてきた理由は本当に単純なことです。日本にやってきた時に感じた「やるしかない」という思いが常にあったから。成功あるのみ。一人前になるしかない。その覚悟だけです。

 あと、日本の人のすばらしさ。ここも本当に感じました。空港に着いた瞬間から、全てがきれい。トイレもきれい。道もきれい。本当にびっくりしました。そして、海外から来た自分たちに対して、応援してくれる。「頑張ってね」と言ってくれる。もちろん、いろいろな考えの方もいらっしゃるとは思いますけど、自分としては「こんなにみなさんやさしくしてくれるんだ」と感激しました。

強いものに立ち向かう

 相撲にもいろいろな考えがあるんだと思いますけど、ウチの部屋の方針は「どれだけ強くなっても兄弟子を立てる」です。番付がどうであれ、先に入った人を尊重する。それをウチの部屋では徹底してやろうとしています。

 番付が下でも先輩はしっかりと立てる。そうなると、その先輩も後輩を立てるようになる。ほとんどの力士は若いうちに廃業して、相撲とは別の人生を歩みます。そこを見据えた意味でも、そういう人間関係を築いておけば、長い人生、良い関係でいられる。それが人生の役にも立つ。そう思うんです。相撲をやっている時だけが人生ではないですから。

 ただ単に強くなればいいということだと、それが先輩を軽視することや偉さを勘違いすることにもなってしまう。その関係性からは後に良いものが生まれにくいだろうなと。

 もちろん実力の世界ですから、強いことは大事だし、勝たないとダメなんです。だけど、人間として成長することも強くなることと同じだけ大切。ここは徹底的に弟子に教えることだと思っています。

 強くなることは大切ですけど、強くなって自分より番付が下の人間をいじめていてどうするんだと。そんなことをしている時間があったら、自分より強いヤツに立ち向かっていけよ。それをしなくて、強くなんてなれないよというのも自分の経験から思う部分なんです。

 これを弟子に教えるということは、その考えを持った弟子が次に人を教える立場になった時に、またその考えを教えてくれるはずです。ウチの部屋はこの方針をかたくなに守る。そこにブレはないようにやっていこうと思っています。

 親方になって一番変わったことですか?そうですね、稽古しなくなったことですね(笑)。もちろん技は直接教えないといけないし、身をもって教えることも大切なんですけど、今は自分が強くなること以上に、教えるということを鍛えないといけませんから。

 まだ始まったばかりですけど、これからはその道をしっかり歩んでいきたいと思っています。

(撮影・中西正男)

■鶴竜力三郎(かくりゅう・りきさぶろう)

1985年8月10日生まれ。モンゴル出身。2001年に来日し、井筒部屋に入門する。05年に十両に昇進。2014年、第71代横綱となる。21年に引退。現役時代は身長186センチ、体重154キロ。通算成績は785勝497敗231休。幕内優勝6回。23年に年寄「音羽山」を襲名し、音羽山親方となった。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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