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ヨガは「ホット」のほうが効果的か

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 古代インド発祥のヨガは約5000年の歴史があるといわれ、身体運動や自然な呼吸とともにリラクゼーションや瞑想(メディテーション)、精神的な安静などをもたらす(※1)。

痛みを和らげるヨガ

 強いストレスを和らげ、不安や悲嘆といった感情を緩和するヨガには、リウマチ患者の痛みを緩和させ、精神的に安定させる作用があることがわかっている。リウマチの痛みは患者本人にしかわからないことが多いが、女性のリウマチ患者にヨガをしてもらったところ、HAQ(Health Assessment Questionnarie)というリウマチ患者のQOL(クォリティ・オブ・ライフ)を評価するアンケート指標が向上したという(※2)。

 また、ヨガをすることで、バランス感覚が養われ、身体の柔軟性や筋力もアップさせるようだ。同時に、心血管疾患などを予防する可能性もあるらしい。それは血圧や心拍数を安定させ、肺活量が増加し、呼吸機能や循環器系の機能を改善させるためではないか、と考えられている。

 ただ、ヨガに対して過信は禁物だ。ヨガと心血管疾患の予防についてのメタアナリシス(※3)によれば、多少の効果はあるが、あくまでも補助的な役割として考えるべきとしている。

 歴史が古いからかヨガには世界中に多種多様な流派があり、それぞれ独自の理論や技術を提唱し、市場競争の結果、対立流派を否定するような論争に発展する場合もある。こうした混乱状態により、ヨガが過度に神秘化され、科学的な効果をわかりにくくさせているのも事実だ。

ホットヨガに異論反論あり

 例えば、いわゆるホットヨガについて、通常のヨガより効果があるという意見もあれば、高温多湿状態で行うヨガに特別な効果はないという主張もある。

 ホットヨガの一種であるビクラム・ヨガ(Bikram Yoga)で年代別にホットヨガの効果を比較した研究(※3)によれば、体重や体脂肪率、血圧、空腹時血糖値などで有意な変化はなかったが、短期間のホットヨガでは若い世代で動脈硬化が改善され、高齢者ではインスリンの抵抗性がアップしたという。だが、ビクラム・ヨガについては、ランダム化比較試験(Randomized controlled trials、RCTs)ではない研究も多く、これまでなかなか評価がつかなかった(※4)。

 ビクラム・ヨガというのは、近年、日本や欧米で広がっているハタ・ヨガ(hatha yoga)の26のポーズと2つの呼吸法を組み合わせた方法で、摂氏40.5度、湿度40〜60%という環境の中で行われるヨガだ。米国ではヨガの研究(ランダム化比較試験)が多いが、なぜかこのビクラム・ヨガについて論文が多く発表されている。おそらく、それは一般的なホットヨガとして広く行われていることと、とかくスキャンダラスに批判されがちな創始者のキャラクターのせいかもしれない。

 必ずしもホットヨガ、イコール、ビクラム・ヨガではないが、ホットヨガについての最新研究(※6)では、高温多湿状態で行わない普通のヨガと比べ、少なくとも心血管疾患の予防に特に効果向上はみられなかったという。米国のテキサス州立大学の研究者は、以前の研究でビクラム・ヨガについて単独で調べたことがあったが、今回の研究では普通のヨガと比較してみた。

 日常的に運動をしない健康な男女52人(40〜60歳)を摂氏23度(14人、室温)と40.5度(19人、高温)、何もしない(19人)の3群にランダムに分け、90分のエクササイズを週3回、12週間行ってもらった。心血管疾患の予防指標は、血管内皮機能を計る血流依存性血管拡張反応検査(flow-mediated dilatation、FMD)を使い、体脂肪率は二重X線吸収法(DXA法)を使って調べた。

ヨガ自体に懐疑的な研究者も

 その結果、高温のビクラム・ヨガ群のほうが体脂肪率が低くなったが、血管機能はむしろ室温でのビクラム・ヨガ群のほうがより改善されたという。つまり、ヨガには心血管疾患の予防の可能性があるが、それは室温に関係しない、ということになる。

 この研究者は、高齢者が高温多湿の状態でヨガをすることに対して警告を発しているが、ビクラム・ヨガに限らず、ヨガ自体の効果について懐疑的な研究者も多い。

 確かに、リウマチなどの痛みや精神疾患の緩和など、精神的心理的な状態の改善に効果があるという研究があるが、彼らはフィジカルな面に対する影響については、様々なバイアスや勘違い、母数の少なさなどが介在して正確な評価ができないのではないか、といっているわけだ。

 ヨガをして気持ちいいと感じる理由には発汗作用もあるだろう。汗をかくことで何となく体脂肪が減ったように感じることもある。

 ただ、サウナに近い高温多湿の状態で発汗するのは当然だ。ヨガ自体、発汗が主な目的ではないのだから、ホットヨガの効果をあまり過信しないほうがいいだろう。また、高齢者は特に要注意だ。

※1:Amber W. Li, et al., "The effects of yoga on anxiety and stress." Alternative Medicine Review, Vol.17, Issue1, 2012

※2:Pamela R. Bosch, et al., "Functional and Physiological Effects of Yoga in Women with Rheumatoid Arthritis: A Pilot Study." Alternative Therapies, Vol.15, No.4, 2009

※3:Holger Cramer, et al., "Effects of yoga on cardiovascular disease risk factors: A systematic review and meta-analysis." International Journal of Cardiology, Vol.173, Issue2, 170-183, 2014

※4:Stacy D. Hunter, et al., "The Effect of Bikram Yoga on Arterial Stiffness in Young and Older Adults." The Journal of Alternative and Complementary Medicine, Vol.19, No.12, 930-934, 2013

※5:Zoe L. Hewett, et al., "The Effects of Bikram Yoga on Health: Critical Review and Clinical Trial Recommendations." Evidence-Based Complementary and Alternative Medicin, Volume 2015, Article ID 428427, 13, 2015

※6:Stacy D. Hunter, et al., "Effects of yoga interventions practised in heated and thermoneutral conditions on endothelium-dependent vasodilatation: The Bikram yoga heart study." Experimental Physiology, DOI: 10.1113/EP086725, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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