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普通の会社員が夢を叶えるための「いつやるの?今じゃないでしょ!」理論

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
普通のサラリーマンから著者になる方法について考えてみる(写真:アフロ)

いきなり、お詫び。怪しい情報商材、有料セミナーみたいなタイトルになってしまった。普通に無料に読めるので安心して頂きたい。

普通の会社員から夢を叶えるための方法について書こう。

例えば、著者デビューするために。

実は以前、All About社の「じぶん学校(現在は終了)」というスクール企画で「普通の会社員から著者になる方法」という講座を担当していたことがある。同社はもともとはリクルートグループだったので、江幡社長始め、お世話になった方が多数おり。ご縁があって、ここで講座を担当していた。

編集者にプレゼンする機会や希望者の個別面談含めて5〜6回シリーズで3万円弱だった(言うまでもないが、これが全額、私に入るわけではない)。この手の著者養成講座は20〜30万円くらいかかる上、プレゼン大会や懇親会は別途費用がかかったり、さらにはデビュー後にブックエージェント料としてマージンがかかったりする。自分で言うなという話だが、良心的な料金だったと言えるだろう。

おつきあいのある編集者さんにお願いして、審査員をして頂いていた。本当、無理なお願いをしていたのだが。私自身、教えるのも審査員をするのも楽しんだ。

過去の参加者(1シリーズ15名〜20名程度)のうち、各シリーズで1、2名はデビューしていたりする。デビューには至らないが、ライターやセミナー講師として売れっ子になった人もいる。このスクール企画自体、社会人のための教養講座的な感じなので、必ずしもプロ志向の人だらけではない。習い事感覚できていた人も多数いた。打率は悪くないのではないかと思う。特に最近は豊作だ。講座を受講していた時期から数年経った今になって、デビューが決まったという報告をよく受けたりする。

その時に、教えていたノウハウの一つをお伝えしよう。

それは

「いつやるの?今じゃないでしょ!」理論

である。

思えば、3年前の2013年は、流行語が大豊作の年だった。この年の「ユーキャン新語・流行語大賞」は・・・。

「今でしょ!」

「お・も・て・な・し」

「じぇじぇじぇ」

「倍返し」

の4つが年間大賞に選ばれた。

どれも、今使うと恥ずかしい言葉だらけだ。ぜひ、会社や飲みの席で使って見て欲しい。天空の城ラピュタ並みに、プカプカと浮いてしまうことだろう。

この中でも比較的残っているのは「今でしょ!」だろう。

ただ、この言葉を否定するつもりはないが、「著者になりたい」とか、もっと言うと、何かあって夢を叶えたいと思っている人のうちの多くには「今なの?」と問いかけたい。

これが「いつやるの?今じゃないでしょ!」理論である。

検討するべきことが3つある。

  1. 本当に今がベストなのか?
  2. 今やるべきことは別のことでは?
  3. やりたいこともいいけど、期待されていること、できることを考えようよ

この3点が大切なのだ。

相変わらずネット上の意識高い系エントリーには、やりたいことは今すぐやろう的なものがある。よっぽどの実力や意欲がある人はそれでもいい。なんせ、若さは有限だ。今日より若い日はない。やりたいことを今すぐやることを別に強くは否定しない。

とはいえ、よっぽどその時がベストなタイミングだと言いきれない場合は、やったとしてもしょぼいものになりがちだ。なんせ、成功するための力も足りなかったりする。消耗するだけだったりする。だから立ち止まって「本当に、今すぐやるべきなのか?」と問いかけてみるのだ。毎年、受験する日がある程度決まっている大学入試や資格試験とは違うのだ。

そして、今やるべきことは夢に向けた大胆なチャレンジではなく、そのための足場固めだったりする。著者を目指す人にありがちなのは、書きたい本の企画自体は面白いのに、それを書ききる力、売るための力が伴わない人だ。読者がお金を払ってでも読みたい場合は、その著者のプロフィールに説得力が必要だ。

一時、流行ったセルフ・ブランディング(笑)によって自分を大きく見せることも可能だが、そういう人は長続きしない。なりたい自分に対して、足りない要素を探し、「経験の貯金」をするのだ。

今はダメでも、期待されていることを考えつつ、数年で実績作ったら、チャンスあるよねってことだ。本業の仕事そのものだとか、ネットの記事で実績つくるとか、まあ色々デキることはあるわけだ。

さらに「やりたいこと」だけでなく「期待されていること」「できること」で考える。その方が、早い。「やりたいこと」はあとで、成功しやすい状態になったあとでやるのもありだ。それは別にやりたいことを諦めるという行為とはイコールではない。

受講生によく言っていたのは・・・。(自戒も込めて)書きたいことの押し付けなんて、何の意味もないんだよ、ということだった。価値観の押し売りだったり、単なる自分語りだったりする。

「今すぐやりたいのに、編集者、出版社はわかってくれない!」

みたいな話になりがちなのだが、いやいや冷静に考えて、価値ないだろという話になる。

やや自分語りだが、私は幼い頃から著者になるのが夢だった。

そして、33歳の時に、本当に普通の会社員から著者になった。

「普通じゃないだろ」というツッコミがありそうだが、キャラが濃いのと、思想が偏っているのと、美形な他は普通だった。同じ会社に勤めていた人たちからは「あいつは大した実績がない」とか未だに叩かれたりもする。

私が強烈に「著者になりたい」と思ったのは2006年の春だった。大手企業の採用担当になった際に、現状の就活や採用に関する怒りがマックスになったのだった。以前、広報を担当していた時にお世話になった編集者と、彼のもとで本を出した中川淳一郎君と3人で飲んだ時に、「就活の本、書きたいです」と言ったら、いつも笑顔で優しい編集者に鼻で笑われて、説教された。

「常見君、今の君に何が書けるの?」と。

編集者の一言には正直、腹がたったが、言っていることは何も間違っていなかった。悔しさを胸に、がむしゃらに目の前の仕事をしていたら、チャンスが向こうからやってきた。最も、その後も苦労したのだけど。

結局、その1年半後には単著デビューし、これまでの30冊以上、累計約50万部書いてきた。

すでにデビューしていた中川君もその後、『ウェブはバカと暇人のもの』で大ブレークし、新たなステージに行った。

さらに数年後、その編集者に取材して頂いた時、なんというか互いにじわっときたのだった。

というわけで、下積みはあなたを裏切らないということなのだ。

世に出ることが簡単になったかのように思える時代だからこそ、自分の売り時、そのための「経験の貯金」を意識するべきなのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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