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寒い冬がちょっと好きになる話

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
北海道・羊蹄山と冬景色(撮影:磯 弘史氏)

水道管の凍結、車の立ち往生に、インフルエンザの大流行――。今冬の日本列島はたびたび大寒波に覆われ、さまざまな問題が起きています。特に1月下旬には数十年来ともいえる強烈な寒気が到来し、各地で最低気温の記録が塗り替えられました。気象庁によると、3月初旬にかけても大雪や低温が予想されるということです。

気象庁発表の一か月予報
気象庁発表の一か月予報

今冬の厳しい寒さには、さぞや多くの人たちが物憂げな気持ちでいることでしょう。というのも、インターネットの調査によると、日本人の約半数が最も嫌いな季節に冬を選んでいるからです。どうやら日本人は寒さが苦手なようですね。

しかし低温に関する専門家の研究を集めてみると、冬はある意味で、体にも心にも良い季節であることがわかってきます。その例をまとめてみました。

<ダイエットに最適>

体は寒さを感じると、体温を一定に保とうと熱を作りだします。その結果、冬季はわずかながら基礎代謝が上がるといわれています。

さらに米ユタ大学のAskew教授によると、震えるような寒さの時は、筋肉の収縮・弛緩作用によって、基礎代謝が顕著に高まるのだそうです。その消費カロリーは15分で100キロカロリーとも、はたまた1時間分の運動に相当するともいわれています。

<愛が深まる>

また、冬は気になる相手と近づける絶好のチャンスともいえそうです。

Hong教授とSun教授の論文によれば、寒い室内にいた人は、暖かい所にいた人に比べ、鑑賞したロマンス映画をより高く評価する傾向があったようです。その理由としては、気温が低いと心理的にも温かさを求めるようになり、人恋しさが増して、人との結びつきを強めようとする傾向があるからだとしています。

これを裏付けるように、レンタルビデオ店のロマンス映画の貸出し本数は、気温が低いときのほうが多かったようです。

<レアな結晶の世界>

さらに冬は雪や氷の「インスタ映え」する世界を作り出します。

近頃、気象庁気象研究所主導で「#関東雪結晶 プロジェクト」という、雪の結晶をマクロレンズで撮ってSNSなどに投稿する企画が行われ話題になっています。肉眼で見れば雪はただの小さな塊ですが、拡大してみると、こんなにも美しい世界が広がっていたのかと感心させられます。

雪結晶の写真家として知られるベントレーも、その昔、冬の到来をこう表現しています。

「数限りない有機の生命に満ち溢れた季節が終わり、結晶性の無機の世界に変わった。木々の茂みの美しさ、花の華麗な彩り、秋の鮮やかな紅葉は消えたけれど、それらにも劣ることなく、雪や氷の夢幻の季節がやってきた」

出典:「気象の散歩道 花信風」安斎 政雄著 東洋経済新報社

いっそのこと冬を楽しんでみるのもいいかもしれません。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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