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過去40年で最悪の干ばつ ソマリアで深刻すぎる食糧危機

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
ソマリア 栄養失調の検査を受ける国内避難民の子供(写真:ロイター/アフロ)

「収穫もできず、家畜も死んで、私は子供たちを連れて40度の炎天下の中を歩いた。途中、3歳の息子が私のローブを引っ張って、食べ物と水を懇願したが、あげられるものは何もなかった。息子は死んでしまい、私たちは遺体を地面に埋め、歩き出した」 

(6月11日ニューヨークタイムズの記事、筆者意訳)

これがアフリカ東部の国、ソマリアの凄まじい現状です。記事によれば、彼らはその4日後に救援キャンプにたどり着いたものの、まもなくして8歳の娘も栄養失調で亡くなったそうです。

豊かに見える地球ですが、それはごく限られた場所だけで、数限りない多くの人々が飢えの苦しみのどん底にいます。

ソマリアの現状と「飢きん」

アフリカ東部では、ここ40年間で最悪とも言われる干ばつが発生しています。

現在ソマリアでは、総人口の半分にあたる約800万人が干ばつの影響を受け、そのうち100万人が水や食糧を求めて家を追われています。

今後数週間のうちに、国連が「飢きん(※)」を宣言する可能性があります。

飢きんの宣言が出されるのは非常に稀なことですが、ソマリアでは10年ほど前にも宣言が出され、その時は26万人が死亡、うち半数は5歳以下の子供でした。

干ばつの背景

大干ばつの一因には、長引くラニーニャ現象があります。

ラニーニャとは、ペルー沖の海水温が低くなる現象で、発生すると世界各地の天候に影響が及びます。アフリカ東部では海から吹き込む東風が弱まって、雨が降りにくくなることが多いようです。

そもそもソマリアは乾燥地帯ですが、雨季があります。ところがラニーニャ現象も相まって、ここ数年間、雨季でも雨が少ないそうです。

NOAA出典の海水温の平年差の図に筆者加筆
NOAA出典の海水温の平年差の図に筆者加筆

追い打ちをかける出来事

干ばつに追い打ちをかけたのが、イナゴの大発生です。

下は2年前の様子ですが、大食いで凶暴なイナゴが、視界を遮るほど大量に発生し、せっかくできた農作物を一気に食い荒らしてしまいました。昨年末の収穫量は、平年の8割減というデータもあります。

実はイナゴの大発生の一因も天候にありました。2019年にアフリカ東部に接近したサイクロン「キャー」が一気に大雨を降らせたことで大繁殖してしまったのです。

”世界一危険な国”

このように大凶作や害虫被害により食糧価格が高騰しているうえに、武装組織が妨害を行って、せっかく集まった国際支援の輸送も困難になっているそうです。ソマリアは、武装組織に海賊も横行する「世界一危険な国」として知られています。

NPO法人のアクセプト・インターナショナルによれば、若者が食糧難から、生きるためにテロ組織に加入したり、勧誘されるケースが増加しているといいます。

ウクライナ政府の支援

こうした現状の中、小麦の大量支援のニュースが飛び込んできました。支援するのは、ウクライナです。

9月、ウクライナ政府はソマリアとエチオピアに、小麦5万トンを支援すると表明しました。そしてその輸送船と費用を、ドイツとフランスが負担することも決定したようです。

世界でもっとも困難に直面している国の一つが、他国の人々を思い、支援を行っている。そのような出来事が世界で起きていることを、私たちはもっと知る必要があるのではないでしょうか。

※「飢きん」とは…

食糧が極度に不足し、飢餓や栄養失調、コレラなどの病気が組み合わさって、死亡率が大幅に上昇すること。宣言が出される基準は、人口の2割以上が極度の食糧不足となり、子供の3割以上が急性栄養失調を患い、10,000人中、毎日2人以上が死亡すること。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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