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なぜ「ホワイト企業」という言葉に、多くの人は違和感を覚えるのか?

横山信弘経営コラムニスト
ホワイト企業=優良企業? (写真はイメージ)(写真:アフロ)

■「ホワイト企業」だからって銀行融資の審査が甘くなりますか?

「ホワイト企業じゃなくて、優良企業への就職を考えたら?」

と、ある就活生に私がアドバイスしたところ、混乱しているようでしたので、

「就活生はホワイト企業って言葉を使うかもしれないけど、社会人になったら、誰も使わないこと知ってる?」

と質問してみました。すると、さらに驚いていたのです。

「世間知らず、と言われないように、もう少し経営のこと、ビジネスのことを勉強してから、社会に出ようね」

「ホワイト企業」という言葉が、お茶の間にも浸透してきました。若者の定着率が高く(離職率が低い)、やりがいを感じられるような職場、ワークライフバランスが整っている企業を「ホワイト企業」と呼ぶようですが、この言葉に違和感を覚える人はとても多い。とくに、経営というものをよく知っている人ほど、この言葉は使いません。

そもそも、若者の定着率が高く、ワークライフバランスが整っている職場だからといって、銀行融資の基準が甘くなることはありません。

なぜか? 

その理由を説明できないと、ホワイト企業に就職したいという就活生は「世間知らず」と言われることになります。転職エージェントや報道に振り回されないことが大事です。

■「ホワイト企業」とは何なのか? 改めて考える

恒常的に長時間労働を課し、とくに若者の離職率が高い企業を「ブラック企業」と呼びます。その存在を問題視した政府が対策に乗り出したことで「ブラック企業」という名称はずい分と世間に広まりました。

このブラック企業という言葉に、違和感を覚えることはありません。ブラック企業は淘汰されるべきです。

ただ、バレンタインデーのお返しにホワイトデーがあるのと同様に、ブラック企業と対極の存在を「ホワイト企業」と呼ぶのは、いかがなものか。「ブラック」もあれば「ホワイト」もある、というように、何でもかんでも言葉を反転させて定義づければいいってもんじゃありません。

最初、この言葉が出てきたとき、就活生を迷わすだけだから、テキトーな言葉遊びはやめろ。と思っていたのですが、まさかここまで定着するとは想像もしていませんでした。

だいたい、学校でイジメをする子を「ブラック生徒」と呼んだら、イジメをしない子を「ホワイト生徒」と呼ぶのでしょうか。そんなことをしたらほとんどの生徒がホワイトになってしまうので、無理やり「学校行事に自ら率先して協力する生徒」「困っている子に積極的に声を掛ける生徒」とかの基準を作ることになるのでしょう。違和感ありありです。

「ホワイト企業ランキング100」なるものが毎年公表されるほど、「ホワイト企業」も一般的な名称となりつつあります。社会システムを正しく理解していない学生たちに妙な「物差し」を与え、判断基準にバイアスをかけるだけです。やめてもらいたい。

■ 離職率が低ければいいのか? ノルマが緩ければいいのか?

ホワイト企業の定義の一つに「離職率」「ワークライフバランス」があります。若者の離職率が低ければいいのか? ワークライフバランスが整っていればいいのか? 離職率を減らすことを目標にするなら、誰でもできます。ワークライフバランスを整える職場にしようとするもの一緒。簡単です。

そもそも、そのようなことを支援する経営コンサルタントが存在しますか? ほとんどいません。なぜなら、誰でもできることだからです。簡単だから、需要がないのです(あったとしても、講演のオファーがあるだけです)。

多くの経営コンサルタントは、「いい会社」「優良企業」になってもらいたくて、財務や人事、労務、マーケティング……といった切り口で企業を支援します。離職率を落とすことを目標にしたり、ノルマを緩くする支援をする経営コンサルタントなど存在しません。

先述の「ブラック生徒」「ホワイト生徒」の話に戻せば、イジメをしない生徒が「ホワイト生徒」になる、ということでしょうか。それを目標にするなら、学校の先生はとてもラクです。本来は、成績が優秀で、スポーツがよくできて、クラスをまとめあげ、困っている子にも手を差し伸べるような思いやりのある生徒が「優秀な生徒」ではないでしょうか。そういう生徒に育てるのは簡単ではないから、学校の先生は日夜頭を悩ませているのです。経営も同じです。

■「ホワイト企業」の定義は「優良企業」の定義と異なる

それにしても、なぜこのような「ホワイト企業」という言葉が登場したのでしょうか? 

「ブラック企業」を敵対視する専門家が、経営とは何か? ビジネスとは何か? を知らず、感情的に作った造語が、知らず知らずのうちに広まったせいではないかと私は考えています。

財務が健全で、長期にわたり、安定的に収益を出せるビジネスモデルがあり、社会に貢献している企業が、優良企業です。まず、そのような優良企業になることが大切です。

集合ベン図を描けばわかるでしょう。

就活生は、「優良企業でかつホワイト企業」に就職することを、めざせばいい。かなりの狭き門でしょうが。

難しいようであれば、せめて「優良企業」に就職できるよう、がんばってください。

若者の定着率が高く、ワークライフバランスが整っているけれども、財務状況が悪く、ビジネスモデルも脆弱な会社など、いくらでもあります。「ホワイト企業ランキング」の中にも、多数含まれています。

このあたりの頭の整理ができない人は、やはり経営がわかっていません。経営をまず、勉強すべきです。

■ まとめ

まだ社会を多く知らない「就活生」が、就職先を選ぶひとつの物差しにもなっています。

ですからあえて私は言いたい。「ホワイト企業」の定義など忘れてください、と。「ホワイト企業」の定義は、真に従業員のやる気を向上させ、長きにわたって社会に貢献させるようなものになっていないのですから。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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