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「米国が来る前に中国は台湾侵攻を終える」と書いた論文のリアル

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
習近平主席(写真:ロイター/アフロ)

 中国は最近、台湾に対して不穏なシグナルを発し続けている。習近平(Xi Jinping)国家主席は台湾問題の解決に強い意欲を見せ、攻撃的になっているようにもみえる。米スタンフォード大のオリアナ・スカイラー・マストロ研究員が米外交誌フォーリン・アフェアーズに寄せた論文には、台湾海峡をめぐる情勢に対する危機感がにじみ出ている。

◇「台湾統一は習近平氏のレガシー」

 中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」が2016年に台湾問題に関する世論調査を実施したところ、本土住民の70%近くが「武力による台湾統一」を強く支持し、37%が「3~5年後に戦争を起こすのがベストと考えている」という結果が出た。

 習主席は、中国でのナショナリズムを煽り、中国共産党の主流派に台湾強奪の議論を浸透させている――という。「かつて中国の指導者は、台湾を軍事的に占拠することは幻想だと考えていた。だが、今は現実性のあるものとみている」と指摘する。

 論文は「中国の台湾侵攻が差し迫っているわけではない」という見方に傾く一方で「1世紀近く続いた(中国国民党と中国共産党による)内戦を終わらせるために、武力行使の可能性を真剣に考える時期に来ているのではないか」との認識も示す。

 習主席は近年、統一に向けて前進するよう公然と呼びかけている。2017年には「中華民族の偉大な再興を実現するためには、民族の完全な統一が必要である」と発表し、2019年にも「統一は中国の夢を実現するための要件」と繰り返した。

 論文には次のような見方も記されている。

「中国の学者や戦略家によると、習主席は台湾統一を自身のレガシーにしたいと考えている」

◇90年代の台湾海峡危機を教訓

 台湾では自身を「中国人」と考えたり、台湾が本土の一部であることを望んだりする人はさらに少なくなっている。2020年1月には、中国と距離を置く民進党の蔡英文(Tsai Ing-wen)総統が再選された。

 一方で中国は同年6月、香港に対する統制を強化する「国家安全維持法」(国安法)を制定し、香港民主化運動を率いてきた団体を実質的に消滅させた。「一国二制度」は将来の平和的統一に向け、台湾にとって魅力的なものになるはずだった。だが、中国本土の対応でその形が変わり、台湾住民は今、「拒否することが正しい選択」とはっきり主張するようになった。

 米中関係が緊張するにつれ、中国は台湾の防空識別圏侵入など軍事行動を加速させている。論文は「習主席にとって、米軍に対抗できるだけの軍事力を持つようになった今、何としても事態の先鋭化を避けなければ、というわけではないのは明らかだ」と指摘する。1990年代半ばの台湾海峡危機の際、米国が軍事力を展開したことで、中国は手を引いた。「次はそうならないようにと、(中国は)その後25年間かけて軍の近代化を進めてきた」とも指摘する。

◇四つの作戦

 論文は「中国が台湾掌握に向けて準備している主要な作戦」として次の四つを挙げている。

(1)ミサイル攻撃と空爆を組み合わせ、台湾の軍人や政府関係者、民間人の武装解除を迫り、中国の要求に従わせる

(2)封鎖作戦。海軍の空襲からサイバー攻撃まで、あらゆる手段で台湾を外界と切り離す

(3)周辺に展開している米軍にミサイル攻撃・空爆し、紛争の初期段階での米国による支援を困難にする

(4)島しょ上陸。水陸両用で台湾を攻撃する

 論文は(1)~(3)について「ほとんど議論はない」とみる。つまり「米国が各地の基地を強固にする努力も、台湾のミサイル防衛システムも、世界で最も進んだ中国の弾道ミサイルや巡航ミサイルには太刀打ちできない」というわけだ。中国は、台湾の主要インフラを迅速に破壊し、石油輸入やネットアクセスを遮断し、それを無期限に続けることができるとも指摘する。ただ(4)については「成功が保証されているとは言い難い」という見解だ。

 論文は、米国防総省と米ランド研究所が最近実施した「戦争ゲームの結果」として、次のような一文を紹介している。

「台湾をめぐって米中が軍事衝突した場合、数日から数週間で中国が全面的な侵攻を完了し、米国が敗北する可能性が高い」

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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