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肌寒くなっても「ダニ」による感染症には要注意

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 マダニは、その辺の野山や藪などでごく普通に見られる節足動物だが、日本紅斑熱やダニ媒介性脳炎、マダニ媒介SFTS(重症熱性血小板減少症候群、Sever fever with thrombocytopenia syndrome)などの感染症を媒介する。

日本紅斑熱により静岡県で2人が死亡

 日本紅斑熱は、日本紅斑熱リケッチアという病原体を持つマダニにかまれると感染する。潜伏期間は2〜8日。高熱や発疹が現れ、重症化して死に至ることもある。

 静岡県によれば、今年の9月に沼津市など県東部で5人が日本紅斑熱に感染した。そのうち70代と80代の女性2人が死亡し、静岡県は、野山や畑などへ入る際には肌を露出せず、虫除けスプレー(ディート含有)などを使うよう警戒を呼びかけている。ちなみに、日本紅斑熱の患者は今年(2017年)、全国ですでに256人に達している(10月5日時点)。

 また、ダニの一種であるツツガムシもリケッチア症を媒介する。時候の挨拶などで「つつがなく」という表現をするが、この表現から名付けられたのがツツガムシだ。ツツガムシの幼虫に刺されることで発症するツツガムシ病は、山形県や秋田県、新潟県などの北陸から東北地方で発生する風土病として知られていたが、戦後に別の種類の新型ツツガムシが現れ、北海道など一部を除いて全国で見られる病気になっている(※1)。

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ツツガムシ(ダニ)の幼虫。ヒトなど温血動物に吸着し、その幼虫がリケッチア(真正細菌の一種)を持っていたときにツツガムシ病に感染する。:Photo by Abcd Efghijk

 新型のツツガムシ病は1980年代から急増し、一時は年間1000人近くも発症する感染症になった。最近になって患者はこの半分以下になっているが、これまで発生していなかった沖縄県でも2008年に初めて患者が発生している。2016年12月に宮古島で亡くなった60代男性がツツガムシによるツツガムシ病が原因とわかり、沖縄県でツツガムシ病による初めての死亡例となったことで沖縄県も注意を呼びかけている

ダニによる多様な感染症

 ダニ媒介性脳炎の潜伏期間は7 〜14日で、まずインフルエンザのような発熱、頭痛、筋肉痛が1週間程度続くという第一期の症状が出る。この症状は、1週間より短かったり、症状がない場合もあるようだ。

 ダニ媒介性脳炎の場合、熱がひいてから2〜3日間は症状がなくなるが、その後、痙攣、眩暈、知覚異常などの中枢神経系症状を引き起こす第二期となる。脳炎や髄膜脳炎髄膜炎となり、感覚障害などの後遺症が残る場合もあり(35〜60%)、致死率は1〜5%とされている。

 マダニ媒介SFTSの潜伏期間は6日〜2週間だ。その後、発熱や食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器系への悪影響などを引き起こす。頭痛、筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節腫脹、皮下出血や下血などの出血症状などが起きることもあり、致死率は6.3〜30%だそうだ。2016年には、SFTSウイルスに感染した野良ネコに噛まれた50代の女性が、SFTSを発症して亡くなっている。

低温や乾燥、飢餓に耐えるダニ

 この厄介な節足動物ダニについて、まだわからないことが多い。我々ヒトやネズミ、ウサギなどの宿主から発する二酸化炭素を感知し、潜んでいた藪の中から飛び移ってくる。ダニの研究にはこうした宿主が必要なので、ダニを生かし続けておくのが難しく研究にはかなり困難が伴うようだ。

 ダニは白亜紀の恐竜などの血を吸っていたことが化石の痕跡からわかっている。また、容易に越冬し、最長で6年の寿命があるようだ。マイナス18℃程度でも生存でき、乾燥や飢餓にもよく耐えるタフな生物でもある(※2)。

 また、気候変動の影響により、ダニも活発化し、それまでよりも種類や数を増やし、分布エリアを広げている。ダニから媒介される感染症は、我々ヒトだけではなくほかの宿主の野生生物も病気にさせるが、気候変動による野生生物の増減とダニによる感染症の相関関係により、これらが相互に影響し合う(※3)。そしてそれは新たな人獣共通感染症の出現などの形となって、我々ヒトにも影響を与えることになる。

 実際、英国でもダニ媒介感染症が増えており、気候変動との関係が取りざたされている。温暖化などにより、標高の高い場所でも宿主が存在できるようになり、それにつれてダニも高所で活動できるようになっていること、また温暖化などによりダニの宿主が多様化していることも影響しているようだ(※4)。

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マダニの生活環。宿主となるのはネズミやウサギ、シカ、タヌキなど。気候変動により、これらの生物の活動範囲が広がり、ヒトの居住圏と重複したりするようになっている。国立感染症研究所「マダニ対策、今できること」より。

 国立感染症研究所のHP「マダニ対策、今できること」によれば、ダニに刺されないためには、野山や畑、藪などへ入る際、虫除けスプレーなどを使い、肌を露出しないことが大切となる。感染症の原因となる病原体を全てのダニが持っているとは限らないが、刺されたと感じたり刺し口があったりして上記潜伏期間中に発熱や発疹などの症状が出たら、早期に医療機関などを受診して適切な治療を受けるべきだ。

 また、野山などへ入った後、自宅へ戻る前に衣服をよく払い落とし、付着したダニを持ち込まないようにする。帰宅後は衣服をすぐに洗濯し、自身もシャワーなどを浴びることが重要だ。マダニは肌寒くなる初冬の頃まで活動する。農作業やレジャーなどで野山や畑、草むらなどへ入る際には十分に気をつけたい。

※参考:国立感染症研究所のHP

※1:小川基彦ら、「わが国のツツガムシ病の発生状況─臨床所見─」、感染症誌、75:359-364、2001

※2:Andrew J. Rosendale, Megan E. Dunlevy, Alicia M. Fieler, David W. Farrow, Benjamin Davies, Joshua B. Benoit, "Dehydration and starvation yield energetic consequences that affect survival of the American dog tick." Journal of Insect Physiology, Vol.101, 39-46, 2017

※3:Titcomb G, Allan BF, Ainsworth T, Henson L, Hedlund T, Pringle RM, Palmer TM, Njoroge L, Campana MG, Fleischer RC, Mantas JN, Young HS, "Interacting effects of wildlife loss and climate on ticks and tick-borne disease." Proceedings of The Royal Society B, Biological Science, 13;284(1862). pii: 20170475. doi: 10.1098/rspb.2017.0475. 2017

※4:Lucy Gilbert, "Altitudinal patterns of tick and host abundance: a potential role for climate change in regulating tick-borne diseases?" Oecologia, Vol.162, Issue1, 217-225, 2010

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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