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ピーナッツアレルギーに対する新しい治療法「経皮免疫療法」の可能性と課題

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【ピーナッツアレルギーに対する経皮免疫療法の効果】

ピーナッツアレルギーは、子供に多くみられる食物アレルギーの一つです。ピーナッツを食べると、じんましんや呼吸困難などのアレルギー症状が出現し、ひどい場合にはアナフィラキシーショックを起こして生命の危険もあります。

現在、ピーナッツアレルギーの治療法としては、ピーナッツの除去食療法が一般的です。しかし、除去食は子供の食生活の質を下げてしまうデメリットがあります。また、誤ってピーナッツを口にしてしまうリスクも避けられません。

そこで注目されているのが、ピーナッツアレルギーに対する「経皮免疫療法」です。これは、ピーナッツタンパクを含んだパッチを皮膚に貼ることで、体をピーナッツに慣らしていく新しい治療法です。

今回発表された研究では、4~11歳のピーナッツアレルギー児356人を対象に、ピーナッツタンパク250μgのパッチ(ピーナッツパッチ群)またはプラセボパッチ(プラセボ群)を1年間貼り続け、治療効果を比較しました。

その結果、ピーナッツパッチ群の35.3%が、プラセボ群の13.6%よりも有意に多くピーナッツに耐性をつけることができました(p<0.001)。ピーナッツアレルギーの重症度が下がったのです。

ただし、治療効果の差の95%信頼区間下限が事前に定めた15%の閾値を超えなかったため、主要評価項目は未達となりました。

それでも、一定の治療効果が認められたことから、ピーナッツアレルギーの新しい治療選択肢として期待されます。日本でも同様の研究が進み、保険適用となることを願います。

【経皮免疫療法の利点と安全性】

ピーナッツアレルギーの経口免疫療法や舌下免疫療法と比べ、経皮免疫療法には大きな利点があります。

まず、ピーナッツを直接口に入れる必要がないため、アレルギー反応を起こすリスクが低いことです。実際、今回の試験でも、重篤な有害事象の発生率はピーナッツパッチ群で4.2%、プラセボ群で5.1%と、ほとんど変わりませんでした。

また、パッチの貼付を忘れる心配が少なく、アドヒアランス(治療の順守率)が高いのも特徴です。試験では両群とも98.5%と高いアドヒアランスが得られました。

安全面の課題としては、貼付部位の皮膚反応が挙げられます。ピーナッツパッチ群の95.4%、プラセボ群の89%に皮膚の発赤、腫れ、かゆみなどが生じました。ただ、多くは軽度から中等度で、治療を中止するほどではありませんでした。

皮膚バリア機能が弱いアトピー性皮膚炎の子供では、より皮膚トラブルが出やすい可能性もあります。事前にパッチテストを行い、皮膚の状態を見極める必要がありそうです。

【本研究結果の意義と今後の課題】

本研究は、ピーナッツアレルギーに対する経皮免疫療法の有効性を示した初めての大規模臨床試験です。用量を250μgに設定し、思春期前の子供に1年間治療を行うことで、ピーナッツ耐性獲得に一定の効果があることが分かりました。

一方、主要評価項目を満たせなかったのは悔やまれます。治療期間が12ヶ月では不十分だったのかもしれません。より長期の治療でどこまで効果が上がるのか、検討が必要です。

また、今回の試験では、過去に重篤なアナフィラキシーを起こした子供は除外されました。今後は、こうしたハイリスク群に対する安全性の確認も大切になるでしょう。

いずれにせよ、ピーナッツアレルギー患者と家族にとって、経皮免疫療法は福音となる可能性を秘めています。誤食のリスクが減れば、子供も保護者も食事に関してずいぶん気が楽になるはずです。

ピーナッツアレルギーに悩む子供たちが、いつか給食や友達とのお菓子パーティーを心から楽しめる日が来ることを願っています。治療法の進歩に期待したいと思います。

参考文献:

Fleischer DM, et al. Effect of Epicutaneous Immunotherapy vs Placebo on Reaction to Peanut Protein Ingestion Among Children With Peanut Allergy. JAMA. 2019;321(10):946-955.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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