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食塩の取りすぎはアトピー性皮膚炎のリスクを高める?最新の研究結果とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

アトピー性皮膚炎は、世界中で有病率が上昇しており、子どもの最大20%、成人の4~5%が罹患していると言われています。イギリスでは、高齢者の8%がアトピー性皮膚炎を抱えているというデータもあります。アトピー性皮膚炎は全身性の炎症性疾患であり、さまざまな健康問題や心理社会的な問題と関連しています。生活習慣や環境因子がアトピー性皮膚炎の有病率や活動性に大きく影響していますが、発症や持続に関与する具体的な要因についてはまだ十分に解明されていません。

ファストフードの多量摂取は、思春期におけるアトピー性皮膚炎のオッズを20%、重症アトピー性皮膚炎のオッズを70%増加させることが、国際的な子どものぜんそくとアレルギーに関する研究(ISAAC)で明らかになっています。ファストフードに多く含まれる過剰な食塩(ナトリウム)が、アトピー性皮膚炎と関連している可能性があります。ナトリウムMRIを用いた新しい研究では、体内のナトリウムの大部分が皮膚に蓄積されており、皮膚ナトリウムが自己免疫疾患や慢性炎症性疾患(アトピー性皮膚炎を含む)と関連していることが示されています。少数例の研究ですが、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部のナトリウム量は、健康な対照者と比べて30倍も高いことが報告されています。

【食塩の過剰摂取とアトピー性皮膚炎の関連性を示す大規模研究】

イギリスのバイオバンク(UK Biobank)の大規模な横断研究では、215,832人の成人(37~73歳)を対象に、尿サンプルから24時間尿中ナトリウム排泄量を推定し、アトピー性皮膚炎との関連性を調べました。その結果、24時間尿中ナトリウム排泄量の推定値が1g増加すると、アトピー性皮膚炎の診断オッズが11%(調整オッズ比1.11、95%信頼区間1.07-1.14)、活動性アトピー性皮膚炎のオッズが16%(調整オッズ比1.16、95%信頼区間1.05-1.28)、重症度の上昇オッズが11%(調整オッズ比1.11、95%信頼区間1.07-1.15)高くなることが明らかになりました。一方、NHS(国民保健サービス)が推奨する1日6g(ナトリウム換算で約2.3g)以下の食塩摂取量を守っている人では、アトピー性皮膚炎のリスク上昇は見られませんでした。

米国のNHANES調査の13,014人を対象にした検証コホートでも、24時間の食事を思い出してもらう方法で推定した1日あたりのナトリウム摂取量が1g多いと、現在のアトピー性皮膚炎のリスクが22%高くなることが確認されました(調整オッズ比1.22、95%信頼区間1.01-1.47)。

これらの大規模な疫学研究から、食塩の過剰摂取がアトピー性皮膚炎の有病率や活動性、重症度と関連していることが強く示唆されました。食塩摂取量を減らすことは、アトピー性皮膚炎に対する費用対効果が高く、リスクの低い介入策となる可能性があります。

【食塩がアトピー性皮膚炎に影響を及ぼす生物学的メカニズム】

過剰な食塩摂取がアトピー性皮膚炎に影響を及ぼす生物学的メカニズムについても、次第に解明が進んでいます。ナトリウムは皮膚に蓄積すると、炎症を引き起こすTh2細胞への移行を促進する「イオンチェックポイント」として機能することが明らかになっています。また、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部では、健康な人と比べて皮膚ナトリウム濃度が30倍も高いことが報告されており、過剰な皮膚ナトリウムがアトピー性皮膚炎の炎症環境を形成している可能性があります。

ナトリウムは、自己免疫疾患や慢性炎症性疾患の原因となることが、ナトリウムMRIを用いた研究で示されています。ナトリウムが皮膚に蓄積すると、浸透圧ストレスによって炎症性サイトカインの産生が誘導され、炎症反応が惹起されます。また、過剰なナトリウムは、皮膚のバリア機能を低下させ、抗原の侵入を容易にすることで、アレルギー反応を促進する可能性もあります。これらの基礎研究の知見は、食塩の過剰摂取がアトピー性皮膚炎の病態形成に直接関与している可能性を裏付けるものです。

【アトピー性皮膚炎の予防・管理における食事中の塩分制限の重要性】

アトピー性皮膚炎の予防や症状管理において、食事中の塩分制限は重要な役割を果たします。イギリスの研究で示されたように、NHS(国民保健サービス)が推奨する1日6g(ナトリウム換算で約2.3g)以下の食塩摂取量を守ることで、アトピー性皮膚炎のリスク上昇を防ぐことができます。日本では、厚生労働省が1日当たりの食塩摂取の目標値を男性8g未満、女性7g未満に設定しています。アトピー性皮膚炎の予防・改善のためには、加工食品やファストフードの摂取を控え、新鮮な食材を使った自炊を心がけるなど、日々の食生活から塩分を控えめにすることが大切です。

また、定期的な皮膚科受診により、症状のモニタリングや適切な治療を受けることも重要です。アトピー性皮膚炎の症状は個人差が大きく、悪化と寛解を繰り返すことが特徴です。医療従事者と連携しながら、きめ細やかな生活指導やスキンケアを受けることで、症状のコントロールを図ることができます。ストレス管理やスキンケアなど、包括的なアプローチを通して、アトピー性皮膚炎患者のQOL向上を目指すことが重要です。

食塩の過剰摂取は、アトピー性皮膚炎の発症リスクを高め、症状を悪化させる可能性があることが、大規模な疫学研究で明らかになりました。また、基礎研究からは、過剰なナトリウムが皮膚に蓄積し、炎症反応を惹起するメカニズムが示唆されています。アトピー性皮膚炎の予防や管理において、食事中の塩分制限は費用対効果が高く、リスクの低い介入策として期待されます。医療従事者と連携しながら、バランスの取れた食生活や適切なスキンケアを心がけることで、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールし、QOLの向上につなげていきましょう。

参考文献:

Chiang, B. M., Ye, M., Chattopadhyay, A., Halezeroglu, Y., Van Blarigan, E. L., & Abuabara, K. (2024). Sodium Intake and Atopic Dermatitis. JAMA Dermatology. https://doi.org/10.1001/jamadermatol.2024.1544

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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