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乾癬の原因遺伝子とIL-23経路の関係とは?最新の研究動向

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【乾癬の発症メカニズムとIL-23/IL-17経路の関与】

乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患で、世界人口の1~3%が罹患していると言われています。患者の生活の質(QOL)への影響は、がんや糖尿病といった重大な疾患に匹敵するほど深刻です。乾癬の発症には遺伝的要因が大きく関与しており、特定の遺伝子変異が乾癬のリスクを高めることが明らかになってきました。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、これまでに80以上の乾癬感受性遺伝子座が同定されています。中でもIL-23受容体(IL-23R)、IL-12B、IL-23A、STAT3、TYK2などの遺伝子が注目されており、IL-23/IL-17シグナル伝達経路の活性化が乾癬の病態形成に重要な役割を果たしていることが示唆されています。

IL-23は樹状細胞やマクロファージから産生されるサイトカインで、ナイーブT細胞からTh17細胞への分化を促進します。Th17細胞やγδT細胞、自然リンパ球(ILC)などから産生されるIL-17は、ケラチノサイトの増殖や炎症性サイトカインの産生を誘導し、乾癬の特徴的な表皮肥厚や炎症反応を引き起こします。また、IL-23はIL-22の産生も促進し、表皮の過形成に関与します。

IL-23/IL-17経路の活性化には、STAT3やNF-κBといった転写因子が重要な役割を果たしています。IL-23受容体からのシグナルはJAK2とTYK2を介してSTAT3を活性化し、IL-17やIL-22の産生を促進します。一方、TNF-αやIL-17、IL-36などの刺激はNF-κBを活性化し、IL-23の産生を誘導します。このようなポジティブフィードバックループが、乾癬の慢性化や炎症の持続に関与していると考えられます。

GWASで同定された乾癬感受性遺伝子の多くは、IL-23/IL-17経路に関連する分子をコードしています。例えば、TRAF3IP2はIL-17受容体のアダプター分子であるACT1をコードし、CARD14はNF-κBシグナルを調節しています。また、IL-36RNやIL-36γの遺伝子変異は、IL-36シグナルの過剰活性化を介してIL-23産生を促進することが示唆されています。

【乾癬治療薬の進歩と課題】

乾癬の治療は、IL-23/IL-17経路を標的とした生物学的製剤の登場により大きく進歩しました。IL-12/23p40サブユニットを阻害するウステキヌマブは、以前の全身療法と比べて高い有効性を示しました。さらに、IL-23p19サブユニットを特異的に阻害するグセルクマブ、リサンキズマブ、チルドラキズマブは、ウステキヌマブを上回る効果を発揮しています。

一方、IL-17A阻害薬のセクキヌマブやイキセキズマブ、IL-17受容体阻害薬のブロダルマブも優れた臨床効果を示しています。これらの薬剤は発症早期から高い奏効率を示す一方で、休薬後の再発リスクが比較的高いことが課題となっています。

IL-23阻害薬とIL-17阻害薬を比較すると、IL-23阻害薬の方が休薬後の寛解期間が長い傾向にあります。これは、IL-23がIL-17の上流で働くサイトカインであり、より根本的な病態制御が可能であることを反映していると考えられます。一方、IL-17阻害薬は即効性に優れ、重症例への使用に適しているとされています。

各薬剤の特性を理解し、患者の病態や治療歴、併存疾患などを考慮した上で、最適な治療薬を選択することが重要です。また、治療反応性が不十分な場合や、二次無効例に対する対策も求められます。新規薬剤の開発や併用療法の検討など、さらなる治療選択肢の拡大が期待されます。

【遺伝情報に基づくテーラーメイド治療の可能性】

乾癬の発症や治療反応性には個人差が大きく、その背景には遺伝的要因が関与していると考えられます。実際、HLA-Cw*06陽性の患者ではウステキヌマブの効果が高いことや、IL-23R変異がチルドラキズマブの効果と関連することが報告されています。また、TNF-α阻害薬の効果には、TNF-α、IL-17F、IL-17RA、TNFAIP3などの遺伝子多型が影響を与える可能性が指摘されています。

このような知見を活用し、患者の遺伝情報に基づいて最適な治療薬を選択するテーラーメイド医療の実現が期待されます。治療反応性を予測するバイオマーカーの開発は、無効な治療を避け、早期から最適な治療を提供する上で重要でしょう。

ただし、現時点ではエビデンスが十分とは言えず、さらなる研究の蓄積が必要です。遺伝子多型と治療効果の関連を明らかにするためには、大規模な前向き研究や機能解析による検証が不可欠です。また、遺伝情報の取り扱いには倫理的な配慮も求められます。患者への適切な説明と同意取得、個人情報の保護など、慎重な対応が必要となります。

将来的には、遺伝情報に基づく乾癬の層別化医療が実現し、個々の患者に最適な治療が提供できるようになることが期待されます。遺伝的リスクに応じた発症予防策の提案や、合併症リスクを考慮した全身管理など、より精度の高い乾癬診療が可能となるでしょう。テーラーメイド医療の実現は、乾癬患者のQOL向上と医療資源の効率的な活用にもつながるものと期待されます。

乾癬は皮膚のみならず、関節症状や心血管疾患、メタボリック症候群といった全身性合併症を高率に伴う疾患です。早期からの適切な治療介入により、皮膚病変のコントロールと全身管理を図ることが重要です。

参考文献:

Biomolecules (IF: 4.08; Q1). 2024 May 3;14(5):548. doi: 10.3390/biom14050548.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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