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シワやシミだけじゃない!アトピー性皮膚炎が全身の老化に与える影響と対策

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【アトピー性皮膚炎と老化の関係性】

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹を主症状とする慢性の炎症性皮膚疾患です。近年、高齢者のアトピー性皮膚炎が増加傾向にあり、老化との関連性が注目されています。

研究によると、高齢のアトピー性皮膚炎患者では、皮膚バリア機能の低下や免疫系の変化など、加齢に伴う皮膚の変化が見られます。角層の水分量減少や、角層細胞間脂質の組成変化、皮膚表面pH の上昇などが、バリア機能低下の要因とされています。これらの変化は、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる原因となっています。

また、アトピー性皮膚炎は全身の老化にも影響を及ぼすことが明らかになってきました。慢性的な炎症状態が、心血管系や神経系など他の臓器の老化を促進する可能性があるのです。炎症性サイトカインの増加や酸化ストレスの亢進が、全身の老化プロセスを加速させると考えられています。

さらに、高齢者のアトピー性皮膚炎では、若年者とは異なる臨床的特徴が見られます。湿疹は体幹や四肢伸側に広がりやすく、苔癬化(皮膚が厚く硬くなること)が顕著であることが特徴です。また、血清IgE値や末梢血好酸球数が正常範囲内であることも多いとされています。

アトピー性皮膚炎と老化の関係性を理解することは、高齢化社会において非常に重要だと考えます。適切な治療とケアにより、アトピー性皮膚炎の症状をコントロールし、全身の健康維持につなげていくことが求められます。高齢者特有の病態を踏まえた診療アプローチが必要不可欠です。

【アトピー性皮膚炎が全身に与える影響】

アトピー性皮膚炎は、皮膚だけでなく全身に影響を及ぼす可能性があります。例えば、心血管系では動脈硬化や高血圧のリスクが高まることが報告されています。慢性炎症に伴う血管内皮機能障害や、脂質代謝異常との関連が示唆されているのです。

また、骨密度の低下によって骨粗鬆症を引き起こしやすくなるとの研究結果もあります。炎症性サイトカインが骨代謝に影響を与え、骨吸収を促進すると考えられています。アトピー性皮膚炎患者では、ビタミンD不足も骨密度低下の一因となり得ます。

神経系への影響も懸念されています。アトピー性皮膚炎患者では、認知機能の低下やアルツハイマー病発症リスクの上昇が示唆されているのです。慢性炎症が脳内の老化プロセスを加速させる可能性があります。さらに、不眠や抑うつなどの精神的な問題を抱えやすいことも知られています。

加えて、アトピー性皮膚炎は腸内環境にも影響を与えます。腸内細菌叢の乱れが、皮膚バリア機能の低下や炎症の悪化につながる可能性があるのです。腸管バリアの機能不全により、アレルゲンや毒素の体内侵入が促されるとの見方もあります。

このように、アトピー性皮膚炎は全身の老化や健康に多大な影響を及ぼし得ます。皮膚症状だけでなく、全身の健康管理という観点からのアプローチが重要となります。

【アトピー性皮膚炎の悪化を防ぐ方法】

高齢者のアトピー性皮膚炎悪化を防ぐには、まず皮膚の保湿を徹底することが大切です。加齢により皮膚の水分量が減少し、バリア機能が低下するため、こまめな保湿により乾燥を防ぎましょう。入浴後は速やかに保湿剤を塗布し、皮膚の水分を保持することが重要です。

また、適度な運動と十分な休養を心がけることも効果的です。ストレスは皮膚炎の悪化要因の一つとされているため、リラックスできる時間を作るようにしましょう。

生活環境にも気を配る必要があります。室内の湿度を一定に保ち、刺激の少ない衣類を選ぶことも大切です。また、ダニやカビなどのアレルゲンを減らす工夫も効果的でしょう。

定期的な皮膚科受診も欠かせません。症状の変化を医師と共有し、適切な治療方針を立てることが大切です。外用薬や内服薬の調整、スキンケア方法の指導などを受けられます。重症例では、生物学的製剤の使用も検討されます。

高齢者のアトピー性皮膚炎は、老化との関連性が深いことが明らかになってきました。皮膚だけでなく全身への影響を理解し、適切なケアと治療を行うことが重要です。皮膚科医と連携しながら、症状のコントロールと健康的な日常生活を目指していきましょう。

<参考文献>

- Chen, P. Y., et al. "Association Between Atopic Dermatitis and Aging: Clinical Observations and Underlying Mechanisms." Journal of Inflammation Research (2024)

- Napolitano, M., et al. "Considerations for managing elderly patients with atopic dermatitis." Expert Rev Clin Immunol. (2024)

- Thyssen, J. P., et al. "Comorbidities of atopic dermatitis-what does the evidence say?." J Allergy Clin Immunol. (2023)

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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