ヤマハvsホンダ、全日本ロード&鈴鹿8耐に16年ぶりのメーカーワークスチーム対決!
4月7日(土)8日(日)、ツインリンクもてぎ(栃木県)で開幕する「全日本ロードレース選手権」に国内オートバイメーカーのワークス対決が帰ってくる。ホンダワークス「Team HRC」が2018年シーズンからの参戦を表明。既に2015年から参戦しているヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」がホンダを迎え撃つことになった。
複数ワークス対決は16年ぶり
今季から同選手権の「JSB1000」(排気量1000cc)にホンダCBR1000RRWで参戦する「Team HRC」。ライダーに2017年王者の高橋巧、監督に世界選手権での優勝経験を持つ宇川徹という体制で10年ぶりに国内最高峰レースにカムバックする。リーマンショックの影響で2008年を最後に途絶えていたワークス活動の再開は国内ロードレース界にとって大きなニュースだ。
一方でヤマハは2015年からワークス体制でJSB1000クラスと鈴鹿8耐に参戦し、中須賀克行が2015、16年にチャンピオンを獲得。2017年、全日本王座は逃したものの、中須賀と若手の野左根航汰が合わせて7勝をあげる強さを見せた。また、国内メーカーが最も力を入れる夏の「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(鈴鹿8耐)では2015年から2017年までヤマハワークスが3年連続の連覇を達成。まさにヤマハが国内ロードレース界を席巻する黄金時代となっている。
「ホンダvsヤマハ」といえば、かつて両社は1980年代には国内のオートバイブームの中でシェアを争い、その仁義なき闘いは「HY戦争」と形容された。レースの世界でも、現在のMotoGPに当たるロードレース世界選手権の最高峰「500ccクラス」に参戦していたヤマハワークスに対抗し、1982年からホンダワークスが参戦。一方、ホンダワークスが席巻していた「鈴鹿8耐」には1985年からヤマハワークスが参戦するなど両社の対決はレースでも大きな見所でもあった。
現在もロードレース世界選手権(MotoGP)ではチャンピオン争いを展開するホンダとヤマハだが、国内選手権や鈴鹿8耐で両社のワークスチームが対決するのは2001年以来17年ぶりのこととなる。2002年はホンダワークスとスズキワークスの対決があったため、国内レースで複数メーカーのワークスチームが戦うのは16年ぶりのこととなる。
昔とは違うファクトリーチーム
オートバイレースの世界ではワークスチームは「ファクトリーチーム」と呼ぶことが多い。意味は全く同じで、メーカー直属のチームを指す。日本人の感覚からすると「ファクトリー(factory)」という英単語には町工場も含めた工場のイメージを抱いてしまうが、英語のfactoryは大量生産を行う大規模工場という意味があり、factory teamは「生産メーカーのチーム」ということになる。
対する小規模チームは「プライベートチーム(プライベーター)」と呼ばれ、自分たちでワンオフもののオリジナルバイクを作ったり、バイクメーカーの製品をベースに独自のモディファイを施したマシンで戦うチームを指す。いくら独自のアイディアを駆使しようとも「プライベーター」が「ワークスチーム/ファクトリーチーム」を撃破することは容易なことではない。会社の規模が違いすぎて、メーカーがレースに投下する予算とは大きな隔たりがあるからだ。
プライベーターが自分たちの挑戦としてレース活動をする一方で、メーカーはプロモーションと次世代製品に活かすための技術開発に主眼を置く。参戦に対する意味合いがそもそも異なっており、メーカーは当然、政治的な力も絶大だ。国内レースや鈴鹿8耐のように市販オートバイをベースにしたレースでは、メーカーはバイクそのものの開発データを所有し、必要ならば、市販バイクの仕様を変えてしまうことだって可能となる。そうなってしまっては、簡単にプライベーターがメーカーに勝つことはできない。
景気が良く、プロモーションにつながる環境下ならメーカーワークスが対決する華やかなレースを楽しめる。しかし、それがうまく機能しない時代にはメーカーはあっさりと撤退または規模を縮小するのが常だ。メーカーが頑張りすぎて予算を大量に投下するとレースに対するコストが高騰してしまうことも懸念される。
国内レース界では2003年に最高峰クラスのマシンをそれまでの排気量750ccの市販バイクベースから排気量1000ccへと変更する移行期に、改造範囲を限定した「JSB1000」クラスを設定。コスト高騰を招く、ワークス/ファクトリーチームでの参戦は禁止された。2000年代前半は国内のオートバイ市場が縮小していた時代であり、4ストローク化する世界選手権「MotoGP」に国内4大メーカーが力を入れていたため、メーカーは国内のレース活動をメーカーとしての参戦ではなく、有力プライベーターやバイク販売店に委託する形態へと変化させていったのである。
時代の変化に合わせ、2007年から「JSB1000」にワークス/ファクトリーチームの参戦が可能と改められ、ホンダワークス「Team HRC」が参戦したが、リーマンショックによる不景気でホンダは国内のワークス活動を全て休止。ヤマハが2015年に国内ワークス活動を再開するまで長くワークス不在のシーズンが続いていた。
そして今年、ホンダとヤマハのワークスチーム対決が再び勃発することになるが、今は昔とは少々違う。異なる点はチームに関わるスタッフだ。社をあげてワークス活動を行なっていた昔とは異なり、現在のワークスチームには現場だけ携わる外部委託の専門スタッフが多い。レースの仕事は年々細分化され、より専門的な知識と経験が必要とされることが理由の一つ。その一方で、長時間労働になりがちなレース現場の仕事は、大メーカーでは労働時間の観点からも若手の社員に託すのが年々難しくなってきている。そんな理由から外部の人材に委託するケースが増えているわけだ。
かつてとは参戦の形態こそ異なるが、レース用マシンの開発自体は社内で行うことがほとんど。データの解析能力、試作部品のテストなどワークス/ファクトリーチームが持つ力は昔と変わらず絶大だ。
互いに負けられないワークス対決
ヤマハが新型YZF-R1投入を機にワークスチーム「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」を参戦させ、「鈴鹿8耐」を三連覇したことで、ついにホンダも「Team HRC」(ホンダレーシング)としてのワークス参戦を決断した。両チームは全日本JSB1000で争うだけでなく、当然、夏の「鈴鹿8耐」でも優勝を争う。今季のワークス対決は夏が一つの山場と言えるだろう。
「鈴鹿8耐」の体制は明らかになっていないが、全日本JSB1000は「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」が中須賀克行と野左根航汰の2台体制。対する「Team HRC」は高橋巧の1台体制だ。そして両社の対決はコース上ではライダーの戦いであるが、もう一つ、名ライダーの監督による勝負であることも忘れてはならない。ヤマハの吉川和多留、ホンダの宇川徹だ。
近年のヤマハワークスの躍進の陰には、常にアドバイザーとして中須賀と野左根を支える吉川監督の献身的なケアがあった。全日本ロードレースの最高峰クラスで2度のチャンピオン経験を持つ元トップライダーだからこそできるライディングに関するアドバイス、メンタル面でのケアなど様々な部分でワークスライダーの声を聞き、時に気持ちを高ぶらせ、ヤマハを勝利へと導いていった立役者だ。
一方でホンダの宇川監督は「鈴鹿8耐」で5度の最多優勝記録を持つレジェンドライダーである。「Team HRC」のワークスライダーとして国内でタイトルを獲得し、世界選手権へ。そして夏には「鈴鹿8耐」で5回も勝った。特に「鈴鹿8耐」はホンダが最も高いプライオリティを置くレースの一つであり、まさにホンダの逆襲を率いる闘将として最も相応しい人物だろう。近年は「鈴鹿8耐」でもホンダ系のトップライダーに対するアドバイスやケアを行っていた宇川だが、監督としてチームをどうまとめていくか注目が集まる。
おそらく「鈴鹿8耐」に向けてホンダ、ヤマハ両陣営は難しい日程を調整しながら世界選手権クラスのライダーを招聘してくることになるだろう。そんな中で、カワサキのトップチーム「Kawasaki Team Green」は昨年2位の渡辺一馬、レオン・ハスラムに加えて3年連続のスーパーバイク世界選手権王者、ジョナサン・レイの起用を発表。カワサキはフルワークスではないが、最もプライオリティの高いワークスライダーを招聘したのである。ホンダ、ヤマハはワークスとしてそれ以上のインパクトと戦力が求められる。国内のロードレースは夏に向けて早くもヒートアップし始めた印象だ。
4月7日(土)、8日(日)に2レース制で争われる全日本「JSB1000」の開幕戦。テストではヤマハワークスが好調。ホンダワークスは高橋巧のトレーニング中に負ってしまった怪我の回復具合とテスト不足が気になるところだ。夏に向けて流れを掴むのはヤマハワークスか、ホンダワークスか、それともカワサキ、スズキのトップチームか。手に汗握る2018年シーズンがいよいよ幕を開ける。
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