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「トランプと李在明」はそっくり! 李在明代表も大統領選への再挑戦の道が開かれた!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
トランプ前大統領と李在明代表(労働新聞と共に民主党のHPから筆者キャプチャー)

 韓国の第22代国会議員選挙(総選挙)は野党第1党の「共に民主党」(民主)が定数300議席のうち過半数を大きく上回る175議席を獲得し、大勝した。与党「国民の力」(国民)(108議席)に圧勝したことで民主党内では李在明(イ・ジェミョン)代表のリーダーシップが再評価されているようだ。

 李代表は2022年3月の大統領選挙で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に敗れ、次はないと見られていたが、どうやら3年後の大統領選挙の「民主」の最有力候補に再浮上したようだ。そうなると、尹大統領に0.7ポイントの僅差で惜敗した李代表のリベンジへの道のりは4年前の米大統領選でバイデン大統領との激戦で敗れながらも今年11月の米大統領選挙に再チャレンジするトランプ前大統領と酷似していると言えなくもない。

 考えてみると、不思議にもこの二人には幾つか共通点がある。

第一に、トランプ前大統領も李代表も国会議員を経ず、最初の大統領選挙に挑戦していたことだ。(李代表が国会議員になったのは大統領選の後である)

第二に、「共和党」も「共に民主党」も野党に転落したものの議会では共に多数を支配していることだ。

第三に、共に「司法リスク」を抱えていることだ。

 トランプ前大統領には「ホワイトハウスの機密文書持ち出し疑惑」、「連邦議会襲撃事件への関与疑惑」、「大統領選中の不倫の口止め料疑惑」や脱税など様々な疑惑があり、起訴もされている。

 一方、李代表にも京畿道知事時代の「大庄洞土地開発疑惑(超過利還収放棄の背任容疑)」と「弁護士代納疑惑(城南FCに後援金を出した企業に特恵を与えた疑惑)」、城南市長時代の「柏峴洞特恵疑惑(虚偽事実公表容疑と用途変更利益提供疑惑)」と「FC不法後援金疑惑」などがある。この他にも大庄洞土地開発を巡る「虚偽発言疑惑」や「北朝鮮不正送金疑惑」などがあり、起訴もされている。

第四に、そうした事情から両人とも遊説の最中に裁判所に出頭しなければならないハンディを抱えていることだ。

 トランプ前大統領はスーパーチューズデーの前日に議会襲撃事件を巡る初公判(ワシントン連邦地裁)に出廷していたが、李代表も選挙期間中に何度も裁判所に出頭していた。そのうち1回は投票日(4月10日)の前日、遊説最終日だった。この日は、朝から夜6時頃まで裁判所に足止めされていた。

最後に、二人とも政敵には過酷で、容赦をしないことだ。

 トランプ前大統領がアメリカ議会襲撃事件を巡る弾劾訴追で賛成に回った10人前後の共和党下院議員らの裏切りに激怒し、中間選挙では刺客を送り込み、何人かを落選させたことは周知の事実である。李代表もまた、政敵には残酷なほど冷淡である。

 昨年、国会で北朝鮮に対する不正送金に関与した疑惑で逮捕状が請求されていた李代表の逮捕同意案が無記名投票の結果、予想に反して賛成多数で可決されたが、「民主」から約30人の造反者が出た。そのほとんどが「反李在明派」とみられていた。

 李代表は今回、「反李在明派」の多くを公認しなかった。そのうえ、反旗を翻し、党を飛び出した李洛淵(イ・ナギョン)元代表らの選挙区に刺客を送り込み、1人を除き、全員を落選させた。

 党の大統領候補指名を李代表と競った、首相経験もある李洛淵氏は新党「明るい未来」を結成し、出身地の全羅南道光州市(光山区)から出馬したものの13.8%しか取れず、76.1%の「民主」の候補に大敗し、屈辱を強いられた。

 李洛淵氏と行動を共にした4選議員の洪永杓(ホン・ヨンピョ)元院内代表(京畿道・富平市乙)や薛勳(ソル・フン)議員(京畿道・富川市乙)も「明るい未来」から出馬したが、いずれも得票率は一桁(8.1%、6.1%)にとどまり、惨敗した。

 与党「国民」から立候補した当選3回の金榮珠(キム・ヨンス)国会副議長(ソウル・永登浦甲)も、当選5回の重鎮の李相珉(イ・サンミン)議員(京畿道・大田市)も41.7%対54.5%、37.19%対59.76%と、「民主」の候補に大差を付けられ、屈辱を舐めた。

 さらに李代表の逮捕同意案に賛成したことを明かしていた趙應天(チョ・ウンチョン)議員(京畿道・華城市)と李元旭(イ・ウォンウ)議員(京畿道・南陽市)の両人は保守系の「改革新党」から出馬したが、同じように血祭りにあげられ、「民主」の候補にそれぞれ16ポイント、21ポイントの大差で苦杯を喫し、再選を阻止されている。

 唯一、当選できたのは「国民」の候補に56.9%対43.1%で勝った「明るい未来」の金鍾民(キム・ジョンミン)議員だけだ。「民主」の候補が途中でリタイアしたことによる勝利だった。

 「民主」造反者の落選は狂信的な李代表支持者らによる「背信者」「裏切者」扱いの凄まじいキャンペーンの影響によるものであることは言うまでもない。

 振り返れば、李代表が2021年に「民主」の大統領候補に選出されたのは歯に衣を着せぬ発言が大衆受けしたからだ。換言すれば、李在明氏もトランプ氏同様にアジテーターなのである。

 「朴槿恵(パク・クネ)元大統領や財閥の総帥らを拘束して、法は万人の平等であることを示さなければならない」とか「政経癒着し、労働を弾圧し、中小企業を苦しめる財閥を解体させなければならない」等等で、その訴えは「サイダー」のように溜飲を下げるものだった。

 また、国民の反日感情を刺激し、煽るのも得意だった。

 「大韓民国は解放後も既得権を維持していた親日勢力の反発により親日残滓を清算する機会を失ってしまった。その負を我々は今も引きずっており、忘れたと思ったら毒キノコのように生えてくる過去史に関する妄言もまた親日残滓をきっちり清算できなかったことにある」と発言し、最近では福島原発の処理水の海洋放出に反対していた。

 一連の発言が余りにも過激なため韓国のマスコミはかつて李在明氏を「韓国のトランプ」と呼んでいた時期もあった。

 もし、トランプ前大統領がカムバックし、来年トランプ政権が発足し、その2年後の大統領選挙で仮に李前代表がリベンジを果たすようなことになれば、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記にとっては願ったり叶ったりである。従って、今は何もせず「鳴くまで待とう時鳥」の心境かもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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