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増え続けるサラダ専門店から見える現代の食トレンドとは?

山路力也フードジャーナリスト
「Sweet Garden」(代官山)はSNS時代にマッチしたビジュアル。

サラダは肉の添え物でしかなかった

 2015年頃より、都内を中心に「サラダ専門店」の新規出店が増えている。サラダ専門店はその名の通り、サラダが主役のお店。主にテイクアウトユースが中心だが、レストランスタイルでイートイン出来る店も少なくない。そして毎年のようにブームやトレンドがあり、サラダのスタイルも年々変化し続けている。

 サラダの歴史を調べると古代ギリシャ時代にまで遡る。「herba salata(塩を振ったハーブ)」と呼ばれた、野草に塩をふった料理がサラダのルーツではないかと言われている。「サラダ(salad)」という言葉は塩を意味する「sal(サル)」が語源であるというのはよく知られた話だろう。

 その後、生野菜が茹で野菜になったり、野菜の種類が増えたり、ドレッシングやマヨネーズなどの発明があったり、サラダは進化し続けてきた。生野菜を食するという意味において、日本のサラダのルーツは一説には「煉瓦亭」(銀座)でカツレツに添えられた「キャベツの千切り」だとも言われている。いずれにせよ、サラダは古来より主食ではなく副食、添え物であった。

脇役のサラダが主役へ

自分好みの食材を選ぶ「カスタムサラダ」は、サラダ専門店の多くで人気を集めている。
自分好みの食材を選ぶ「カスタムサラダ」は、サラダ専門店の多くで人気を集めている。

 脇役だったサラダが主役になったのは、1930年代のアメリカである。野菜の他に鶏肉やベーコンなどをたくさん盛りつけた、ボリューム感のある「コブサラダ」は、カリフォルニアで生まれてアメリカ全土に広がり、今は世界各国のレストランで食べられるようになった。

 ここ数年のサラダブームのきっかけは、2014年頃にニューヨークで流行した「メイソンジャーサラダ」だろう。アメリカの家庭で古くから慣れ親しまれていた、瓶詰め用の「メイソンジャー」に思い思いの野菜を入れて楽しむ新しいスタイルのサラダは、見た目も華やかで可愛らしく携帯性も高いことから、元々サラダ好きのニューヨーカーたちに刺さった。このジャーサラダのブームは日本にも伝わり、2015年頃は多くのレストランでジャーサラダを食べる光景が見られた。

 また、それまでのサラダはせいぜいドレッシングをチョイス出来る程度で、基本的にはお店が決めた野菜を食べるのが当たり前だったが、ジャーサラダの場合はその組み合わせが自由に選べる「カスタムサラダ」スタイルも人気を集めた。自分の好きな食材や、自分の身体に必要な栄養素を選ぶというシステムは、サラダの可能性を無限に広げていった。

「健康」「SNS」がブームを牽引

 この2015年あたりから、日本のサラダブームは加速した感があるが、その背景には「健康志向」と「SNS」という二つのキーワードが見えて来る。主役になったサラダに求められたのは「機能性」であった。サラダで食事を完結させるためには、ボリュームだけではなく栄養バランスも重要になってくる。特に生野菜だけのサラダでは摂り辛い「タンパク質」や「脂質」を鶏肉などの素材を入れることで補完。満足度が高くヘルシーなサラダは健康志向の時代とマッチした。また完全食となったサラダがあったからこそ、サラダ専門店という業態も生まれたと言えるだろう。

 またサラダに限らず、現代の外食を語る上で「インスタ映え」という言葉は欠かせなくなっている。「Instagram」や「Facebook」「twitter」などのSNSで拡散する料理写真の数々。レストランなどで料理を撮影する光景は当たり前になった。そこでメニューに求められることは「可愛らしさ」「綺麗さ」「インパクト」である。縦長の透明なガラス瓶に層を織りなすカラフルな野菜が詰め込まれたジャーサラダは、まさに「インスタ映え」するサラダだった。

 ダイエットや健康志向に沿ったイメージ、そしてSNS時代にマッチしたビジュアル。今の時代、サラダが注目を集めるのも当然と言えるだろう。そして昨年、今年に入って新たなサラダのトレンドが生まれ、個性的なサラダ専門店の出店が加速度的に増えている。さらにコンビニの惣菜コーナーでも数年前と比べるとサラダの種類や量が多くなっている。さらに今年2017年はサラダ専門店の出店ラッシュ。間違いなく今は過去最大のサラダブームなのだ。

野菜を細かく刻んだ「チョップドサラダ」

「メッザルーナ」と呼ばれるカット用の包丁で野菜をカットするチョップドサラダ。
「メッザルーナ」と呼ばれるカット用の包丁で野菜をカットするチョップドサラダ。

 2015年頃より注目を集めているのが「チョップドサラダ」。その名の通り具材を細かくカット(chopped=刻まれた)したサラダのことで、スプーンで気軽に食べられることから人気を集めている。ニューヨークでブレイクしたあとに日本にも上陸。ここ数年日本にも多くのチョップドサラダ専門店が登場している。

 チョップドサラダは「メッザルーナ」と呼ばれるカット用の包丁で、野菜を細かく刻むことによりたっぷりの野菜を簡単に取れることが特徴。細かく刻まれた具材はボウルでドレッシングと馴染ませるので、野菜とドレッシングの一体感が高い。また「ラップサンド」スタイルでハンディに食べ歩くことも可能だ。

「CHOPPED SALAD DAYS」(二子玉川)は連日行列が出来る人気店に。
「CHOPPED SALAD DAYS」(二子玉川)は連日行列が出来る人気店に。

 2017年4月、二子玉川にオープンした「CHOPPED SALAD DAYS」は、店名の通り「チョップドサラダ」の専門店。オープンしてまだ数ヶ月だが、オフィスワーカーや子連れのママなどで早くも連日行列が出来る人気を誇っている。

 自分で好みの素材を選べる「カスタムサラダ」の他、ヒジキ、厚揚げ、五穀米などをミックスしたビーガン対応の「Hijiki Seaweed」など、お店のおすすめの組み合わせの「シグネチャーサラダ」も充実している。ボウルに入ったチョップドサラダをスプーンですくって食べるスタイル。すべてのサラダをラップサンドに変更出来るのも、特に男性客に人気が高い。

必要な栄養素が摂れる「パワーサラダ」

「Sweet Garden」(代官山)はカラフルなビジュアルで拡散力抜群。
「Sweet Garden」(代官山)はカラフルなビジュアルで拡散力抜群。

 また、昨年後半より話題になっているのが「パワーサラダ」だ。パワーサラダとは日常不足しがちな「ビタミン」「ミネラル」の他、「タンパク質」「食物繊維」「脂質」などの必須栄養素を一つのサラダで摂ることが出来る機能性の高いサラダのこと。

 2017年4月、代官山にオープンした「Sweet Garden」のサラダも栄養価や機能性に注目をした設計。鶏ハムと焼き豆腐が入った「プロテインプレンティ」は、ボウル1つで一日に必要なタンパク質を摂ることが可能。また野菜よりも栄養価の高いとされる「エディブルフラワー」を用いた色鮮やかなサラダは、SNSで映えるビジュアルで一気に拡散して注目を集めた。

「GOOD LIFE FACTORY」(広尾)のサラダはボリューム満点。
「GOOD LIFE FACTORY」(広尾)のサラダはボリューム満点。

 2017年5月、南青山にオープンした「GOOD LIFE FACTORY」は、「ラ・ボエム」「モンスーンカフェ」などを手掛ける「グローバルダイニング」による、初のサラダ専門店。レストラン業態を得意とする同社だけに、サラダの表現方法も実に多様だ。

 カスタムサラダの他にも、デトックスやリラックス、プロテイン補給や鉄分強化など、目的に合った素材が組み合わせられたシグネチャーサラダが充実。酵素玄米やキヌアなどの「スーパーフード」に肉や魚なども使って、ボリュームがありヘルシーなサラダを提案。酵素玄米の上にたっぷりの野菜とビーフステーキが乗る「パワーチャージ」は、ボリューム感もありインパクトも十分。

 見た目にもカラフルで楽しくSNS映えし、身体に必要な栄養素も摂れてヘルシー。さらにテイクアウトが可能でカジュアルに楽しめる。進化した今のサラダ専門店のスタイルは、現代の食トレンドを見事に反映しているのだ。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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