九州で大雨特別警報・防災に有効な孫との情報交換
大雨特別警報が発表
令和元年(2019年)8月28日の九州北部は、日本海の低気圧から対馬海峡を通って中国大陸に延びる前線により記録的な大雨が降っています(図1)。
南からの暖かくて湿った空気と、北からの乾いた冷涼な空気が前線上で衝突し、線状降水帯ができたためです。
このため、気象庁では、8月28日5時50分に佐賀県と福岡県、長崎県に大雨特別警報を発表し、
「特に土砂災害警戒区域や浸水想定区域などでは、土砂崩れや浸水による何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高く、直ちに命を守るために最善を尽くす必要のある警戒レベル5に相当する状況」
と呼びかけました(図2)。
また、その約1時間後、7時から気象庁の梶原靖司予報課長が緊急記者会見を行い、詳しい状況を説明しました。
九州3県の特別警報は、ともに28日14時55分に解除となりましたが、8月27~28日の48時間降水量は、長崎県平戸市で516ミリ、佐賀県佐賀市で426.5ミリなど、平年8月の2倍以上の降水量を観測しました(図3)。
沖縄と九州南部を除くほぼ全国で大雨が降りましたが、九州北部の雨量が突き抜けています。
教訓を引き継ぐのは孫?
個人的な経験です。
平成20年(2008年)に静岡地方気象台で台長をしていましたが、そのとき、狩野川台風50周年シンポジウムに参画したときの話です。
狩野川台風は、昭和33年(1958年)9月26日夜に伊豆半島をかすめ、27日0時頃神奈川県三浦半島、1時頃東京を通過した台風22号のことです。
伊豆半島では狩野川の氾濫などで1000名以上が亡くなるなど、大災害が発生しました(全国の死者・行方不明者は1269名、図4)。
沼津河川国道事務所が中心となって当時の被災者から体験談や資料を集めたのですが、10年前の40周年シンポジウムのときは口が重くて協力的でなかった人たちが、50周年では、びっくりするくらい協力的で、ぜひ後世に残して欲しいと貴重な資料を託されたとのことでした。
あらためて、災害の痛手を乗り越え冷静に伝えるには時間がかかると感じました。
となると、災害の悲惨体験を役立つ教訓として語り継ぐ相手は、災害のトラウマを持つ可能性のある子どもより、何も知らない孫ではないでしょうか。
孫世代の力
気象庁では、防災情報の充実に努めていますが、その情報がテレビなど時間や掲載スペースの制約があるマスメディアで、そのまま伝えられているわけではありません。
例えば、気象庁のホームページには、危険度分布が掲載されており、拡大してゆくと目的とする場所の危険度分布が詳しくわかりますが、これをマスメディアで報じるのは無理です(図5)。
国土交通省の河川情報など、国の機関の地方自治体の情報も同様のことが言えます。
つまり、マスメディアで報じられなくても、インターネットで取りに行けば、膨大な役立つ情報が得られる時代になっていますが、多くの高齢者にとっては苦手なことです。
親世代にとっても、インターネットの活用が苦手な人が少なくありませんが、孫世代では生まれた時からの環境で得意分野です。
孫世代が離れた所に住む、おじいちゃん・おばあちゃんの危険度をチェックし、危ないとなったら「大丈夫?」と電話してみてはいかがでしょうか。
「孫が言うので半信半疑で避難したが、早めに逃げていて良かった」ということがあるかもしれませんし、何事もなくても時折心配してかけてくる孫の電話は、孫の成長も感じられて嬉しいと思います。
長引く大雨
九州北部の特別警報は解除となりましたが、大雨警報は継続されており、今後、秋雨前線が停滞するため、8月31日までは大雨警報は発表される可能性があります(図6)。
大雨期間が長引くことで、土中に含まれる水分が多くなり、土砂災害の危険性がどんどんあがります。
インターネットで詳細な情報を入手し、離れて住んでいるおじいちゃん・おばあちゃんに電話してみませんか。
そして、過去の災害経験をきいてみませんか。
孫との情報交換は防災に有効と思います。
図1の出典:気象庁ホームページ。
図2、図5の出典:気象庁報道発表資料。
図3、図6の出典:ウェザーマップ提供。
図4の出典:饒村曜(平成5年(1993年))、続・台風物語、日本気象協会。