シャーガーC初参戦の横山武史。現地入りして気付いた父の助言の意味と現在の心境
シャーガーC参戦で初めて英国へ
現地時間8月6日、イギリスのアスコット競馬場でシャーガーカップが行われる。
世界中から実績を残した騎手を招待して、着順に応じたポイントで覇を競うイベント。ほぼ毎回、日本からも選出されるが、今年これに選ばれたのは横山武史騎手とクリストフ・ルメール騎手。2人は4日の朝、アスコット競馬場を訪れ、プレスカンファレンスに参加した。
「アスコットどころか海外で乗ること自体が初めてです」
やや緊張した面持ちでそう語ったのは横山武史。騎手デビュー6年目でまだ23歳ながらエフフォーリアとのコンビで皐月賞(GⅠ)、天皇賞(秋)(GⅠ)、有馬記念(GⅠ)を勝つなど、昨年だけでGⅠを5勝。今年も8月4日時点で79勝を挙げ、関東リーディング1位、全国でも2位の活躍をみせており、順当な選出といえた。
この日、行われたプレスカンファレンスでは現地の各テレビ局から何度もカメラを向けられ、その度にほぼ同じ質問が繰り返されたが、覚えたての英単語を時折、混ぜながら答えた。そして、一つインタビューが終わる度に苦笑しながらコーラを喉に含み、言った。
「競馬の方が楽です。緊張して、喉が渇きます」
そんな緊張をほぐしてくれたのが、ルメールの存在だ。ある局のインタビューでは、2人で呼ばれ「イギリスの文化をどこまで知っているか?!」と、現地ではポピュラーな飲食物を次々出され、まるで実験台のように飲み食いをさせられた。時に日本人の舌には合わないようなモノも出されたが、ルメールが一緒にいてくれたお陰で、表向きの対応をする事なく、素を出して顔をしかめてみせ、現地スタッフの笑いを誘った。
また、別の局が用意した1ポンドコインを転がしてフォークにさせるか?というゲームでは、途中で投げ出す事なく、成功するまで15分もコインを転がし続けた。こういった元来の負けず嫌いの性格は、競馬でも良い方に活かされているのだろう。
父に言われた言葉の意味に気付く
その後はチームメイトとなるK・マカヴォイ(オーストラリア)やJ・コレット(ニュージーランド)らと挨拶をかわした後、今度はルメールと共に馬場をゴール付近から最終コーナーまで、軽く歩いた。
「アップダウンは見るからに激しいけど、聞いていたよりも芝丈は短いし、意外と整備されていますね」
百聞は一見にしかず。自らの目と体で真実を知る。これこそが体験であり、体験の多さはそのままヒキダシの多さにつながり、武器になる。そんな思いを彼はすぐに感じたか、次のように口にした。
「明日はコースを一周走ってみます。早く競馬に乗りたいと感じたし、海外初騎乗すらまだですけど、すでに色々乗ってみたいと思うようになりました」
そして、2001年のシャーガーカップに出場している父・典弘から以前、言われたという言葉を続けた。
「『海外へ行って、そのままずっと乗ってこい』って言われた事がありました。どういうつもりで言ったのか分からなかったけど、こうやって実際に見てみて『知らない世界をいっぱい見て来い』という意味だったのかな?って思えるようになりました」
そんな思いが強くなったのか、勝ちたいレースは?という問いには次のように答えた。
「日本のダービーは勝ちたいですけど、イギリスのダービーも勝ちたいと思うようになりました!!」
さて、シャーガーカップでは5頭に騎乗する。E・ダンロップやM・ボッティ、C・フェローズといった一流調教師の馬への騎乗も決まったし、5倍前後のそれなりに人気になりそうな馬も2頭ほど当たった。「1つは勝ちたいね?」と声をかけると、真剣な表情で、横山武史は答えた。
「全部勝つつもりでいます」
先述した通り武史が海外で騎乗するのは今回が初めて。しかし、幼い頃、父に連れられて家族でフランスを訪れた事はあった。当時、私は現地で典弘に誘っていただき、皆で食事をしたが、武史はいかにもいたずら坊主という感じでしかなかった。しかし、現在の彼にそんな面影は一つもない。シャーガーカップは日本時間の明晩、幕を開ける。横山武史の活躍を期待しよう!
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)