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開城の事務所爆破「ワームビア方式で北朝鮮に賠償請求せよ」の声――韓国・拉致被害者家族も同調

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
南北共同連絡事務所爆破を伝えるテレビ映像(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

 北朝鮮による開城・南北共同連絡事務所の爆破に対し、韓国側で「北朝鮮側に損害賠償を請求すべきだ」との声が上がっている。その手段として、米国人大学生のオットー・ワームビア氏(北朝鮮に抑留され死亡)の両親が進める「北朝鮮秘密資金の差し押さえ」方法(参考資料:北朝鮮の秘密資金25億円を暴いたワームビア氏遺族の執念「死ぬまで北朝鮮政権崩壊に力を尽くす」)を活用すべきだとの見解が示され、韓国の拉致被害者家族も同調する動きを見せている。

◇「憲法上、開城は韓国の領土」

 韓国紙・朝鮮日報によると、北朝鮮が16日に爆破した南北共同連絡事務所と、一部損壊した開城工業団地総合支援センターの建物には、韓国の税金707億ウォン(約62億3800万円)が使われているという。

 韓国内では北朝鮮に損害賠償を請求すべきだとの意見が出て、統一省関係者も17日に「今後、適切な方法で『応分の責任』を追及したい」と述べている。

 現時点で韓国政府は▽南北が共同宣言(2000年)に基づいて取り交わした「投資保証に関する合意書」▽北朝鮮の国内法「開城工業地区法」に明記された「韓国の財産に対する北朝鮮の責任」――などに基づき賠償請求できるか検討中という。

 ただこれらを根拠に韓国側が損害賠償を請求しても、北朝鮮側が応じる可能性はほとんどない。

 そこで韓国政界の一部で持ち上がっているのが「ワームビア方式」による賠償請求。「ワームビア氏の両親から学ぶべきだ」(金文洙・元京畿道知事)、「法律闘争を通じて海外にある北朝鮮資産を凍結し、差し押さえなければならない」(元北朝鮮駐英公使の太永浩議員)などの案だ。

 他にも「憲法上、韓国の領土である開城で、わが国の財産権を侵害した『違法団体』である北朝鮮に対し、理論的には国内外の裁判所での提訴は可能だ」との見解もある。

 同紙は、開城工団にある韓国政府と企業の資産を約1兆1700億ウォン(約1033億円)と見積もっている。

◇韓国の拉致被害者

 また、朝鮮日報によると、「朝鮮戦争拉致被害者家族」らが6月18日、北朝鮮当局と金正恩朝鮮労働党委員長を被告とする損害賠償訴訟を起こすと明らかにした。支援団体の代表者は「賠償判決を受けた後、『ワームビア方式』に乗り出す」と述べた。

 朝鮮戦争(1950~53年)勃発70周年になる今月25日、支援団体が家族に代わってソウル中央地裁に提訴するという。

 韓国での拉致被害者は▽朝鮮戦争中の民間人や軍人▽戦後に拉致された漁民や大韓航空機乗っ取り事件(1969年)の乗員・乗客ら――に分けられる。前者は8万人以上、後者は約3700人(うち未帰還者400人超)とされる。

 昨年6月25日にも、北朝鮮で強制労働をさせられた後に脱北した韓国軍捕虜出身の2人が金委員長を相手に「受け取れなかった賃金と慰謝料など1人1億6000万ウォン(約1411万円)」の賠償を求める訴訟を起こしており、今年7月7日の判決を控えている。

◇ワームビア式賠償の現状

 ワームビアさんは2015年に北朝鮮に抑留され、昏睡状態で送還された後に死亡した。両親は米首都ワシントンの連邦地裁に訴えを起こし、同地裁は2018年12月、北朝鮮側に対し、5億100万ドル(約536億円)の支払いを命じる判決を言い渡した。

 両親は米国内の銀行で凍結されている北朝鮮関連口座の資金2379万ドル(約25億4219万円)をあぶり出し、それを差し押さえることにした。将来的に対北朝鮮制裁が解除され、北朝鮮側が凍結資金を引き出そうとしても、差し押さえを申請しておけば引き出しは不可能となる。

 米政府系放送局の自由アジア放送(RFA)は6月18日、米財務省で制裁関連業務を担当する弁護士へのインタビューを掲載し、ワームビアさんの両親の取り組みについて「効果がある」と評価している。

「賠償金を集める過程で、これまで明かされてこなかった『違反者たちのネットワーク』が公開されることになり、北朝鮮に関連した違法資金活動を制限する力になる。制裁違反は主に、米国の金融ネットワークで資金調達・洗浄しようとする個人・組織によるネットワークに依存しているので、これらを露出させれば、制裁違反者たちの資金移動に打撃を与えることができる」

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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