北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦開発疑惑。日本への影響は?
衛星が捉えた謎の潜水艦
少し前から、海外メディアで北朝鮮が弾道ミサイル発射可能な潜水艦の開発を進めているとの報道がなされています。
実際、北朝鮮東部の咸鏡南道新浦市内をGoogle Earthで確認したところ、これまで北朝鮮海軍が保有すると考えられているロメオ型潜水艦(全長約76m)とサンオ型潜水艦(全長約35m)、いずれの全長とも異なる全長約65mほどの潜水艦が停泊しているのが確認できました。
上の写真は同じ場所を異なる時間で撮影したものの比較になります。右が2013年の10月に撮影された写真で、全長40m以下の潜水艦(恐らくサンオ型潜水艦)と見られる物体が写っています。左が今年の7月に撮られたもので、昨年10月に同じ場所にいた潜水艦より大きい、全長は約65mほどの潜水艦が見られます。北朝鮮が保有する最も大型の潜水艦であるロメオ型は全長約76mですので、サンオ型とロメオ型の中間にある、これまで知られていなかった未知の潜水艦という事になります。
北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦?
この謎の潜水艦について、アメリカのジョン・ホプキンス大学の北朝鮮情報分析サイト”38 NORTH"は、周辺の施設の分析と合わせ、北朝鮮が潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の開発を進めているとの見解を示しています。その発射母艦となるのが、確認された未知の潜水艦と見られています。
日本への脅威は?
北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発を進めていたとして、それが日本への新たな脅威となるのでしょうか? 現実的には、日本にとって差し迫った脅威ではないと考えられます。
まず、弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発には高い技術力が必要で、そのいずれも実用域に入るには、まだ長い時間が必要と考えられます。
そして、既に日本全土が北朝鮮の陸上発射型中距離弾道ミサイルの射程圏内にある為、北朝鮮が新たに日本へ向けた新型ミサイルを開発する理由が薄いという点です。
弾道ミサイル潜水艦とSLBMとは、敵による核の第一撃を生き延びて、確実に核による報復を行うための高い生存性を備えた兵器システムです。日本が核武装していない以上、日本を相手に北朝鮮が新規で開発する類の兵器ではありません。
では、北朝鮮はなぜSLBMの開発を行っているのでしょうか。北朝鮮の目は、アメリカに向いているものと見られます。
アメリカ本土へ届こうとする北朝鮮の核
2012年12月12日、北朝鮮は人工衛星「光明星3号2号機」の打ち上げと称し、ロケット「銀河3号」の発射を行いました。この打ち上げに使われた銀河3号は、弾道ミサイル「テポドン2」の派生型と見られる3段型のロケットで、弾道ミサイルとして使われた場合、その射程は約1万kmに及ぶのではないかと防衛省は見ています(詳細は防衛省「北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について」参照)
。1万kmと言う数字はハワイやアラスカのみならず、アメリカ西海岸までその射程に収める事になり、アメリカ本土にまで北朝鮮の核が到達出来る事を意味しています。
テポドン2とその派生型は、アメリカの目を再び北朝鮮へと向かせましたが、今度はこれに弾道ミサイル潜水艦とSLBMが加わると、アメリカにとって北朝鮮の脅威は無視出来ないものとなってきます。まだ実用化の段階には無いでしょうが、これまでの北朝鮮が着実に弾道ミサイルの射程を伸ばし続けてきた事からも、SLBMの開発も現実味を帯びてくるのかもしれません。
日本にとって、北朝鮮のSLBM開発そのものは脅威としては目新しいものではありません。ですが、北朝鮮がアメリカ本土への核投射能力を増強する事は、アメリカの対北朝鮮外交、ひいては極東におけるアメリカの安全保障政策に影響を与える可能性が出てきます。そうなった場合、一番影響を受けるのが日本になりますので、間接的な意味での「脅威」と言えます。
では、なぜ北朝鮮はここまでアメリカを意識した核とその運搬手段の開発を続けているのでしょうか。今年7月に来日した、世界的に著名なイスラエルの軍事史家であるマーチン・ファン・クレフェルト氏が、イランの核開発について語った言葉がそのヒントとなりそうです。以下に引用してみましょう。
これはイランの核開発についての言葉ですが、北朝鮮についても同様の事が言えます。北朝鮮は過去、実際にアメリカと戦争(朝鮮戦争)、朝鮮戦争は現在もなお「休戦」状態です。後ろ盾だったソ連が崩壊し、中国とも疎遠になる中、北朝鮮は自力で体制を維持しようとしています。その北朝鮮の体制維持にとって最大の障害となるのはアメリカで、アメリカに届く核を持つ事は北朝鮮にとっての死活問題でもあったのです。
2期目のオバマ大統領の任期も残り2年。2016年に行われる次の大統領選挙を見据えた動きが活発化していますが、その中で北朝鮮問題がどう扱われるか、日本にとって目を離せないポイントとなるのではないでしょうか。