元日本代表の小林大悟MFが、MLSレボリューションで大活躍。悲願の初優勝へチームを牽引する。
ボストンのプロスポーツ界に新しい風
ボストンのスポーツと言えば、何が思い浮かぶだろう。上原浩治、田沢純一両投手が活躍するMLBレッドソックス? NHLペイトリオッツ、NBAセルティックス、または、NHLブルーインズ…。当地を本拠地とする米国の4大プロスポーツは21世紀に入って全てが王座に輝いた。独立戦争の舞台となった「建国の街」、有名大学が揃う「学術都市」として有名な街に新しい称号「シティ・オブ・チャンプ」が加わった。さて、その「スポーツ王者の街」に今年、新たな歴史を書き加えようとしているのが、MLSメジャーリーグサッカーのレボリューションだ。
ここまで12節を終わって7勝3敗2分。勝ち点23でイースタンカンファレンスの首位をひた走っている。その快進撃を支えているのが、3月に移籍した元日本代表の小林大悟MF(31)。開幕戦からここまで全12試合に出場(9試合先発)。ゴールこそまだだが、3アシストを決めた。卓越した技術と抜群のセンスで若手中心のチームを牽引。小林の加入で起点を確立し、攻撃のバリエーションを増やしたチームは現在5連勝中。2試合連続5得点もあり、その得点力は劇的に向上した。
「試合に出ているメンバーの中では、僕がドルマンと共に最年長です。考えてみたら、自分が最年長というのは経験したことがなかった。今までは、自分が如何にいいプレーをするかということを考えてやってきた。それが、今はチームを冷静にみて、ポジショニングだったり、バランスだったりを考えながらプレーしている。こっちに来てまた自分のサッカーが変わりました」
清水商業高校から01年に東京ヴェルディからプロとなり、ノルウェーのスターベク、ギリシャのイラクリスなど国内外のクラブを渡り歩いた後、昨年、バンクーバー・ホワイトキャップスに入団してMLS入り。2年目の今年3月、レボリューションに移籍した。ヒープス監督は「私が監督に就任して、最も成功した補強が小林の獲得だ」と言って憚らない。「ボールのタッチが素晴らしい。ビジョンがあり、試合が読める。彼の洞察力こそ、我々がこのチームに求めていたもの。ダイゴはボールを受けるために、どこに自分のポジションを置くかを心得ている。そして、守備のプレッシャーを交わして、状況をつくりだす。彼が来てから若いチームが巧く廻りだした。この5連勝は彼なしでは果たせなかった」と絶賛。96年の創立以来、過去11度プレーオフには進出したが、未だ果たせていないリーグ優勝に手応えを感じているようだ。新加入のベテランMFは、ボストンのプロスポーツ勢力図にサッカー界からの“殴り込み”をかけるような、新たなインパクトを与えている。
近年の米国サッカー界事情
さて、ここで米国のプロサッカー事情について触れてみたい。67年から84年まで存在した北米サッカーリーグ(NASL)は経営悪化、業績不振で解体。94年のワールド杯開催から再び機運が盛り上がり、96年に現在のMLSが発足した。これまでは、他の4大プロスポーツに比べて興行面や人気で遅れを取っていたが、チームの増加に伴い、近年は観客動員など増加の傾向にある。また、中米や南米系移民の間でサッカー人気は根強く、米国の大学のスポーツ奨学生で男女機会均等を目指すために72年につくられた規則「タイトル9」で女子サッカーが奨励された背景もあり、過去40年間に競技人口が激増しているのも特徴だ。
世界のプロスポーツ興行の昨年の年間収入のナンバーワンはNFL、2位はMLB、続いてNBAと米国のプロ競技団体が上位3位を占める中、4位には英国のサッカー・プレミアリーグが入り、日本のプロ野球は10位。MLSは18位となった。試合数が違うので単純に比較できないため、1試合平均観客動員とすると、実に、MLSはNFLとMLBに次いで3位に食い込んだという。米スポーツネットNBCのサイトによると、昨年はMLS19チーム中11のクラブで動員増となった。シアトルやポートランドなどは特に人気がある。同サイトによると、シアトル・サウンダーズの昨年の1試合平均観客数は44038人。02年のピーク以来、チームの低迷と比例して観客動員が低下しているMLBのマリナーズの約2倍となった。カンサスシティも18467人収容のスポルティングパークに1試合平均19709人が詰めかけ、立ち席も満員という繁盛だ。NFLのペイトリオッツと本拠地のジレットスタジアム(マサチューセッツ州フォックスボロ)を共有しているレボリューションの昨年のレギュラーシーズンの1試合平均の観客動員は、14844人。6万人収容の施設なので空席は目立つが、前年度比は約6%増。地元での人気は確実に上がっている。
「アメリカのプロサッカーは一旦破綻して立て直してから、着実に成長しているし、来る選手のレベルも上がっている。あと何年かでドンと飛躍する気がしますね」と、小林が肌で実感する一方、ヒープス監督は「この地域には元々、豊穣なスポーツ文化があり、サッカー人気を支える若い知的専門職層も厚い。サッカーの人気が出るポテンシャルがある」という。今年はブラジルW杯も開催され、サッカー熱が高まる年。過去4度の準優勝という実績を持つ強豪が、ついに、悲願を達成するか、地元の注目が集まっている。
ボストンのプロスポーツの成功の影に、日本人あり
4月にボストンの日本人協会が主催した小林選手の歓迎会では、武藤顕在ボストン日本国総領事も姿をみせ、「ボストンは日本人選手が優勝に貢献する街。松坂選手、岡島選手は07年に、上原選手、田沢選手は昨年のワールドシリーズの優勝に大きく貢献した。小林選手も是非、初のリーグ優勝を目指して欲しい」と激励の挨拶を送った。確かに、レッドソックスは07年に松坂大輔、岡島秀樹の両投手の活躍で頂点を極め、現在同球団に所属する守護神の上原浩治、中継ぎエースの田沢純一の日本人右腕コンビは、昨年のワールドシリーズ優勝に大車輪の貢献。今年も活躍を続けている中、レボリューションにとっては初の日本人選手となった小林にも期待が高まる。地元では、日本人協会が観戦ツアーを組むなど、ジレットスタジアムにも日の丸の国旗がみられるようになってきた。
「スタンドに日の丸をみると、凄く心強いし、ありがたいことですね。3月に来た時はあまりの寒さにビックリしましたが、最近気温も上がってプレーし易くなった。こっちの選手はバチバチ体をぶつけてくるので、当たりがキツいし、移動も大変ですが、体調的にも調子がいいし、若い選手に混じって頑張っていきたいです」
放浪のフットボーラー・小林がプロ14年目で辿り着いた米国サッカー界。日本からやってきたベテランMFは、レボリューションに文字通りの“革命”を起こすつもりだ。