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アジアカップを戦う日本代表。加えるべき選手。外してやったほうがいい選手

杉山茂樹スポーツライター
(写真:REX/アフロ)

 元日に国立競技場でタイと親善試合を行う日本代表。正月休みのないリーグでプレーする欧州組は今回、招集の対象から外れている。国内組がその不足分を補う恰好だが、13日から始まるアジアカップにはどのようなメンバー編成で臨むつもりなのか。発表はタイ戦の後に行われる。

 欧州組にとってアジアカップは、シーズン中に行われるイベントだ。そこで丸々1ヶ月以上、所属チームを離れることになる。選手が抱えるリスクを協会はどこまで考慮するのか。それをせず、考え得る限りのベストメンバーを編成するのか。

 少なくともアジアカップ直後にスタートする、欧州カップ戦の決勝トーナメントに出場する選手は、招集を避けるべきではないかと筆者は考える。アジアカップは日本のレベルを考えれば、格下との試合が多くを占める。英国ブックメーカー各社も日本の優勝は堅いと踏んでいる。ウィリアムヒル社の予想オッズは日本が筆頭で3.25倍。韓国が6倍でこれを追い、サウジアラビア、カタールが7倍で続く。

 ベストメンバーで臨み、優勝を飾っても順当すぎて喜びは湧かない。大きな収穫も期待できない。優勝して何の不思議もない大会に、選手がそれなりのリスクを冒して出場することが、長い目で見たとき日本にとって有益であるのか。

 アジアカップで積む経験値は、日本のレベルアップに伴い、選手個人にとっても、チームにとっても大きく低下した。それより数段レベルの高い所属クラブで経験する試合の方が、選手のためにも日本代表のためにもなる。アジアカップを新戦力の掘り起こしを兼ねた大会とした方が、長い目で見たとき有益だと考えるのである。

 一番マズいのは、アジアカップに出場したために所属クラブでポジションを失うことだ。プレー機会が減少すれば、今度は日本代表に招集される可能性が下がる。文字通りの本末転倒になりかねない。

 サッカー選手にとってまずありきは所属クラブだ。そこでのプレーが評価されて初めて代表に招集される。プロ選手としての在り方もこの順番になる。選手が協会から受け取るギャラがクラブから受け取る年俸の1%にも満たないことを忘れてはならない。

 久保建英は去る10月、強行軍を押して帰国し、代表のホーム戦に臨んだ際に「キツいです。正直」と述べている。これに対し遠藤航は「大丈夫ですよ」と答えている。現在はどうだろうか。

 目下プレミアリーグで首位を行くリバプールに所属する日本代表の主将は、選手として難しい時を迎えている。今季シュツットガルトから2階級特進さながらリバプール入りした当初、リーグ戦の出場機会に恵まれなかった。出場は格下との対戦が多かったヨーロッパリーグと国内のカップ戦中心で、まさにカップ戦要員に甘んじていた。

 12月上旬のプレミアリーグのクリスタルパレス戦(12月9日)、ヨーロッパリーグのユニオン・サンジロワーズ戦(12月14日)では、前半45分プレーしただけで交代の憂き目に遭っていた。実際、遠藤は早々と交代を告げられても仕方のないミスを目立たせていた。先行きは危うそうなムードだった。

 リバプールで出場機会を失えば、行き場はなくなる。30歳を超えていることも拍車を掛ける。次の移籍先は簡単には見つからない。黄色信号は赤信号に変わろうとしていた。

 ところが遠藤はそこから一念発起した。3戦出場した国内リーグはすべてフル出場をはたし失地の回復に成功。難局をクリアしそうなムードにある。そうした状況下で、これから1ヶ月以上チームを離れることはリスキーすぎる。苦労の末、せっかくつかんだポジションを自ら手放すことになる。

 リバプールでスタメンを張る選手が、日本キャプテンとして代表戦に臨めば箔がつく。相手に対し顔役として絶大な威力を発揮する。それこそが日本代表の大きな財産になる。いま遠藤を無理して呼ぶ必要はまったくない。むしろ逆効果だと筆者は考える。

 鎌田大地も同じく、できれば呼ばれたくないと内心思っているのではないだろうか。ラツィオで激しいスタメン争いの渦中にいるからだ。こちらも一頃に比べ出場機会は増えつつある。チームの成績も少し上向きになり、最悪の事態は脱したかに見える。だが、所属のラツィオはチャンピオンズリーグ(CL)を戦う身だ。アジアカップ決勝(2月10日)の4日後には。決勝トーナメント1回戦対バイエルン戦が待ち受けている。

 その直前まで1ヶ月以上チームも離れていれば、スタメン出場の可能性は低い。鎌田がアジアカップ決勝を戦うことと、バイエルン戦にスタメン出場を果たすことと、どちらが日本にとって有益か。答えはハッキリしている。だが、鎌田は前にも述べたように現在の日本にとって2人といないタイプだ。ポストプレーをこなすことができるいわゆるセンタープレーヤーは鎌田しかいない。悩ましい問題だ。

 一方、これは選ぶべきだと推したくなる選手もいる。イングランドのチャンピオンシップ(2部)コベントリーに所属する坂元達裕だ。今季、ベルギーのオステンデから移籍してきた当初は、出たり出なかったりの状態だったが、イングランドの水に慣れたのか、いまでは不動の右ウイングとして定着。最近は特に好調で、アシスト、ゴールを量産している。

 伊東純也、久保建英、堂安律。日本代表の右ウイングと言えばこのように人材の宝庫だ。11あるポジションの中で最大の激戦区である。だが坂元の相手の逆を突く切り返しはピカイチで、必殺と言いたくなる鋭い。また彼がボールに絡んだ先はチャンスが拡大していく傾向がある。ゴールから逆算した立体感のあるプレーができる、MF的なセンスのよさが光る頭脳派。三笘薫に似たテイストを備えたウインガーだ。

 代表ではこれまでセレッソ大阪時代に2試合(2021年のタジキスタン戦、キルギス戦)プレーしている。以降は激戦区に割って入ることができずにいる。だが、今回のアジアカップはこの手の選手を何人か入れ込むいい機会なのだ。本番はまだまだ先。この時期はまだ畑を耕す余裕を持っていたい。考えられる限りのベストメンバーを編成するのは逆効果。たとえアジアチャンピオンに輝いても驚きはない。得るものは少ない。発表されるメンバーに注目したい。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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