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皇后雅子さま還暦 ご結婚30年間のお誕生日にみる「心の旅路」とは…

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
皇后雅子さま(写真:ロイター/アフロ)

「六十にして耳順う(みみしたがう)」とは、「論語」に書かれた、齢の節目の心のありようを説いたものだ。かいつまんで言えば60歳ともなれば、周囲の人びとの声に耳を傾けて、今後の進むべき道のりを間違いのないようにすべしという意味なのだという。

今月9日にお誕生日を迎えられた皇后雅子さまは、「お誕生日に際してのご感想」の中で、天皇陛下をはじめ関係者やご家族、恩師らに心からの感謝の言葉を綴られていた。まさに愛情を持って見守ってくれる周囲の方のアドバイスに、60歳になるずっと以前から耳を傾けられていたのであろう。

宮内庁のホームページには、ご結婚の時から現在までの「お誕生日に際してのご感想」「文書回答」、及び「記者会見」の書き起こしが時系列に掲載されており、こちらを読み進めると、雅子さまの今日に至るまでの、心の旅路がくっきりと見えて来る。

◆覚悟を持って挑んだ記者会見

結婚当初から2年間は、まだメディアの取材に慣れていなかったこともあり、ご感想を文書で綴られる形式をとっていたが、その後は記者会からの質問を受け、それに文書で回答する形式をとられるようになった。

そして、ご結婚から4年目となる平成8年には、記者たちに取り囲まれて会見が行われるようになった。この時、雅子さまは、ご自身に対しての誤解を生むような間違った報道に対して、きちんと自らの言葉で否定しておきたいというお気持ちがあったのではないだろうか。

記者から批判的な報道がなされていることについて、どのように思っておられるのかという質問に対して雅子さまは……

「何か少し事実にはないようなことを事例として挙げていたり、それからまた極端な結論というものを導いたりしているような例が見られるような気がいたします。(中略)私が鬱(うつ)状態にあるんではないかというような書き方をしているところもあるようなんですけれども、(中略)鬱(うつ)状態とかそういうことは全くありませんので、どうぞそういう心配はしていただかないようにというふうに思います」

この時の記者会見はかなりの時間を割いて行われ、雅子さまも最後に、「こんなに話したのは初めてなので、とても喉がからからになりまして……」と、述べられたほどであった。

    平成13年、誕生された愛子さまを抱く雅子さま
    平成13年、誕生された愛子さまを抱く雅子さま

愛子さまご誕生の翌年(平成14年)には、「皇族になって10年目の節目」であることを感慨深く語られ、「本当に力の至らない点が多かったのではないかしら」と、反省する言葉を口にされた。この年、陛下より5歳年上で兄とも慕う高円宮憲仁殿下が急逝され、悲しみに沈む胸中を吐露されている。

雅子さまに対してのバッシング報道に抗うように、続けてきたお誕生日の記者会見であったが、この年が最後となってしまった。

平成16年、雅子さまの病名は「適応障害」と発表された。

陛下は欧州訪問前の記者会見で、「それまでの雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です」と発言し、雅子さまを苦しめた根も葉もないバッシング報道が体調悪化の要因であることを暗に示し、強い苦言を呈された。

この年から、再びお誕生日に際してのご感想は文書に戻ったものの、わずか472字、A4半ページの短い内容に止まった。

「この一年間皆様にはご心配をおかけいたしましたが、(中略)皇太子様はじめ多くの方々からのお支えを頂いて、お陰様で、体調は少しずつ快方に向かってきているように感じております」

と、体調がすぐれない渦中にありながら、病状を前向きにとらえている様子がしたためられている。

◆雅子さまの決意

雅子さまのご心境に大きな変化が訪れたと思われるのは、平成23年、あの「東日本大震災」があった年だ。大きな負担をご承知の上で、宮城、福島、岩手の東北3県の被災地を訪れ、被災された方々をお見舞いされた。

皇室の一員として、未曾有の災害に直面する国民に、今こそ寄り添おうと悲壮な決意で被災地を訪問されたのだろう。

この年、「お誕生日に際してのご感想」文書も、被災地への気遣いがあふれるようになり、俄然、その文章量も増えている。

また、翌年はスポーツ界の選手たちの活躍など、明るい話題にも触れるようになり、徐々にではあるものの、明らかに体調が好転していることが窺える内容であった。

翌年に即位を控えた平成30年のご感想文書は、3360字という以前よりも多い文字数を費やし、「平成最後の誕生日として、深い感慨とともに、ある種の寂しさを感じながら迎えようとしております」と、ご心境を綴られている。

そして今年、令和5年のお誕生日には、50歳から10年の期間を振り返り、雅子さまご自身がどんな思いを抱きながら時を過ごされてきたのかが綴られている。

被災地の人びとに心を寄せ、成年となった愛子さまを頼もしく思い、喜びも悲しみも「天皇陛下に常に優しくお支え」いただいたことが、雅子さまの心の歳月を慈しんでくれたのだろう。陛下に心からの感謝を捧げていらっしゃることが伝わってくる。

ご体調に関しては、医師団によると依然として波があるとのことだが、今年はにこやかな雅子さまを多く拝見でき、順調に快復されているように見受けられた。

ご感想の文書にも、「これからまた新たな気持ちで一歩を踏み出し、努力を重ねながら、この先の人生を歩んでいくことができればと思っております」と綴られ、公務への意欲も一層強まっていらっしゃるように感じられる。

とはいえ、無理は禁物。あくまで自然体の雅子さまのペースを崩さずに、来年も笑顔で国民の前にお出ましになっていただけるように願うばかりである。

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。

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