アップルが欧州で前例のない巨額投資、2300億円投じ大規模データセンター建設
米アップルは2月23日、アイルランドとデンマークにデータセンターを建設すると発表した。投資金額は17億ユーロ(約2290億円)で、欧州における同社最大の投資になるという。
データセンターの建設場所は、アイルランド西部のゴールウェイ州と、デンマークのユトランド半島中部。施設面積はいずれも16万6000平方メートルで、東京ドーム約3.5個分。
完成は2017年を見込んでおり、完成後はこれらを拠点に、音楽・映画・アプリの配信サービス、メッセージ、地図、音声アシスタントといったオンラインサービスを欧州全域の利用者に提供する。
英フィナンシャル・タイムズによると、アップルが欧州でデータセンターを建設するのは初めて。
同社は現在、米国のノースカロライナ州、オレゴン州、ネバダ州、カリフォルニア州にそれぞれデータセンターを持つが、米国以外では何年もの間、外部企業が提供するコロケーションサービスを利用していた。
欧州で「良き企業市民」目指す
なぜ、アップルがここに来て欧州で巨額を投じて設備投資をするのか、その理由は定かではないが、フィナンシャル・タイムズによると、アップルは欧州で良き企業市民としての立場を得たいと考えている。
アップルの昨年10〜12月期における欧州の売上高は172億1400万ドルで、同社全売上高に占める比率は23%だった(PDF書類)。1年前に比べた欧州の売上高伸び率は20%と、中国の70%に比べ低いものの、アップルにとって欧州市場の重要性は高まっているという。
今回のアップルの計画は、消費者の個人データ保護に関する懸念が広がる中、発表されたと米ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
欧州当局は米国家安全保障局(NSA)の元契約職員、エドワード・スノーデン氏が米当局の情報収集活動を暴露して以来、懸念を強めているという。
同紙によると、欧州では個人データを域外に持ち出すことに厳しいルールを設けている。
現在検討されている新たな規制案では、データ保護ルールに違反した企業は最大で1億ユーロ(135億円)、または年間売上高の5%を罰金として科せられる可能性がある。欧州に自前のデータセンターを持つことで、こうした問題を回避したいと考える企業は少なくないと同紙は伝えている。
「雇用の創出」と「環境保全」を強調
今回のデータセンター建設計画でアップルが強調しているのは、欧州における雇用の創出と環境保全。
アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は発表資料の中で「現地で数百人規模の雇用を生み出すとともに、最先端のグリーンビルディングを導入する」と述べている。
前者についてアップルは、欧州の19カ国で1万8300人を直接的に雇っており、その数はこの1年で2000人増えたと説明している。また欧州で同社関連ビジネスに関わっている人は67万2000人おり、そのうち53万人がiOSアプリ開発関連の仕事に就いているという。
後者については、今回建設する2つのデータセンターはいずれも100%再生可能エネルギーで稼働すると説明している。
このほか、アイルランドでは自生樹木を再生させるプロジェクトを行い、デンマークではデータセンターの廃熱を回収し、地域暖房システムに供給する仕組みを導入するとしている。
「租税回避問題」、欧州委が調査
なおアップルは昨年、欧州の高い租税を回避するために、アイルランドの安い法人税率などを利用していると指摘された。
これに関する欧州委員会の予備調査では、アイルランドから同社が受けている措置は、欧州連合で禁じられている国家の補助にあたり、違法と判断された。これに対しアップルはアイルランド政府から何ら優遇措置を受けていないと主張している。
フィナンシャル・タイムズによると、欧州委員会はこれに関する最終リポートを今春公開する予定。この調査は、デンマークの元副首相で、現在は欧州競争政策担当委員を務めるマルグレーテ・ヴェスタエアー氏が進めているという。
(JBpress:2015年2月25日号に掲載)