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眞子さま結婚延期騒動で「納采の儀行えず」一斉報道の裏側と皇室報道の異様

篠田博之月刊『創』編集長
一斉になされた「納采の儀行えない」報道(筆者撮影)

 皇室報道をめぐっては常々、どう見ても異様なので見直したらどうかと提言してきたのだが、今回はいささか度を越している感があるので書いておこう。

 眞子さまと婚約内定中の小室圭さんが8月7日、3年間の留学のためにアメリカへ出発した。それに合わせるかのようにその後、新聞・テレビが一斉に「納采の儀行えない」という報道を行った。正式な婚約にあたる「納采の儀」について、秋篠宮夫妻が、このままでは行えないと語っているという内容だ。

8月8日付朝日の記事を各紙が後追い 

 一斉に報道がなされたので、公式の発表があったかと思った人も多かったろうが、そうではない。きっかけは8月8日付朝日新聞が朝刊一面で報じた「『納采の儀、現状では行えない』秋篠宮ご夫妻、小室さんに」という記事だった。

8日付朝日新聞一面
8日付朝日新聞一面

 さらに言えばその前に7月31日発売の『週刊朝日』8月10日号が「『納采の儀は行わない』秋篠宮家がご決断か!眞子さま婚約“破談”へ」という記事を掲載していた。「“破談”へ」という見出しは、新聞社系週刊誌としてはかなり踏み込んだものといえる。

『週刊朝日』8月10日号
『週刊朝日』8月10日号

 でも『週刊朝日』のその記事も8日付朝日新聞の記事も、内容を読んでみれば、実は新しいファクトはほとんどない。秋篠宮夫妻が、眞子さまの結婚に関して、小室さんの将来の見通しを立てることと、報じられている借金問題に決着をつけることを条件としているという話は、以前から週刊誌で報じられていたものだ。 

 しかし朝日新聞が一面で報じたというので各社が確認に走ったのだろう。その日の夕刊から他の新聞やテレビがニュースで次々と同様の報道を行ったのだった。朝日新聞が8日の記事を一面に持ってきたのは、恐らくは以前から報じられていた秋篠宮夫妻の意思を、ごく近い人物かあるいは本人に確認したということなのだろう。

 皇室報道の奇妙なところは、宮内庁の情報統制が厳しいために、新聞・テレビが公式発表以外ほとんど報道せず、それゆえに週刊誌が大量の報道を行っていることだ。しかし、新聞・テレビも今回のようにどこか一紙が大きく報じると、横並び意識で一斉に同じ報道を行う。

 それも今回の報道を見ると、「○○であることがわかった」とか「関係者によると~」という表現で情報源も曖昧だ。週刊誌の後追いのような報道を今回のように新聞・テレビが一斉に行う意味がわからない。極めて異様な報道状況だ。

一段と強まった「破談」の印象

 しかし、今回の一斉報道で、従来から週刊誌が書き立てていた婚約“破談”の印象が一段と強まったことは否めない。例えば『週刊新潮』8月16・23日号「破談を決めた『美智子さま』発言秘録」など、既に破談が既成事実であるかのような書き方だ。

 一連の報道には宮内庁も苦慮しているようで、5月25日に週刊誌報道について見解を表明。その後も『週刊文春』7月26日号について苦言を呈した。いずれも美智子皇后が眞子さまの結婚について否定的な発言をしたという報道について、そういう事実はないと指摘したものだ。でも今回の『週刊新潮』の記事はその宮内庁見解を真っ向から否定しているように見える。

 8月4日、小室さんは眞子さまに別れを告げるために秋篠宮邸を訪れた。『女性セブン』8月23・30日号「小室圭さん『内密の送別会』」によると、その日は朝から記者たちが赤坂御用地周辺を張りこんだという。それもいつも小室さんが出入りしている「巽(たつみ)門」だけでなく、万一のことを考えて「鮫が橋門」や「東門」にも人員を配置したという。ところがそれを知った秋篠宮家による配慮があったようで、実際に使われたのは「東宮御所正門」だった。

 いつのまにか小室さんが秋篠宮邸に入っていたという情報に驚き慌てた報道陣は、各社で手分けして6つの門全てにカメラを配置。夜21時過ぎに再び正門を通って出て来る小室さんをカメラに収めたという。

小室さんの留学は“結婚への諦め”?

 さて眞子さま結婚延期騒動については、私は東京新聞連載の「週刊誌を読む」や月刊『創』で相当量の記事を書いてきた。しかし、このヤフーニュースにおいては、今調べたところ、下記の3月の記事以降、しばらく書いていないことがわかった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180304-00082304/

眞子さま結婚延期めぐる新聞・テレビと週刊誌報道の乖離は異常ではないのか

 それ以降の詳しい経緯を発売中の月刊『創』9月号「眞子さま結婚延期騒動に見る皇室報道のあり方」に書いたのでぜひ読んでいただきたいと思うが、その中でこの7月以降騒動になっている小室さん留学をめぐる経緯の部分のみ、以下転載しよう。騒動はいまや世界的に知られる事態になっているのだ。

 小室さんがこの8月からアメリカに3年間留学するという話は6月末から報じられた。実はかなり前から準備は進められていたらしい。3年間というのは長いので、いったい結婚がどうなるのかと思った人は多いだろう。週刊誌は一斉に、この話の裏事情を報じていった。 

例えば『週刊女性』7月17日号は表紙に「小室圭さん『アメリカ留学』決断の背景に眞子さま“結婚への諦め”!」なる見出しをぶちあげている。つまり3年間の留学は、「結婚への諦め」を意味するものだというものだ。

 『週刊新潮』7月12日号は「『小室圭くん』が米国留学3年の勝算」という記事をトップに掲げた。見出し脇には「新聞・テレビが報じない全真相!」と謳っている。

 『週刊文春』7月12日号もトップは「秋篠宮ご夫妻も愕然 小室圭さん裏切りのマンハッタン留学」だ。記事によると、実は5月にこんな情報を得ていたという。「皇室には、小室さんを海外に行かせて、眞子さまとの結婚を自然消滅させようという考えもあるようです」

 『週刊新潮』でも関係者がこう語る。「国際弁護士という職を得て結婚を成就させたい小室家と、いわば“所払い”によって眞子さまと距離を置かせたい秋篠宮家の、当面の利害が一致しました。ですが、目指すゴールは違います。秋篠宮家にとっては“自然消滅となれば大いに結構”というお立場です」

 前出『週刊女性』でも匿名の秋篠宮関係者が同じ見方を披露したうえで、小室さんについてもこんな憶測を語っている。「再来年の結婚を前に、あえてアメリカ留学を決断したということは、婚約が“白紙”になることも覚悟しているのではないでしょうか」

 複数の週刊誌が書いているので、皇室関係でそういう見方をする人がいるのは確かなのだろう。でも考えてみれば、そうなることを期待して誰かが意識的に情報を流している可能性も否定できない。

宮内庁が留学先の大学に異例の申し入れ

 そして波紋はさらに拡大した。留学先の大学のホームページに小室さんが眞子さまの「フィアンセ(婚約者)」と紹介されたのだが、彼が正式に婚約者にあたるのかどうか週刊誌が問題にして、宮内庁に問い合わせたらしい。その結果、7月16日、宮内庁は記者会にこう発表したのだった。

 「日本の皇室においては、伝統的に『納采の儀』と呼ばれる儀式を経て婚約となることから、現時点においては婚約された状態ではなくフィアンセではありません」

そしてこう付け加えたという。「宮内庁としては、同大学の誤解を解くため、上記の内容をお伝えすることとしました」。

 『女性セブン』8月2日号によると、「婚約者」の一言が「宮内庁周辺の逆鱗に触れている」という。宮内庁は、大学側に小室さん本人がそう申告したに違いないと見ているようで、記事では匿名の人物がこうコメントしていた。「“皇室を私的な利益のために利用した”と受け止められても仕方ない」

 『週刊文春』7月26日号もその騒動について書いた後、こんな話を披露している。ちょうどこの7月、眞子さまは2週間、ブラジルを訪問したのだが、帰国の際、ニューヨークに一泊する。そこで小室さんと会うのではないかと懸念されているというのだ。

記事では匿名の人物が「“密会”の可能性も否定できません」とコメントしている。結婚しようと考えている二人が会うことを「密会」と呼ぶのには、明らかにある種の意思が感じられるが、『週刊新潮』7月26日号の記事でも「よもや前入りした小室さんとの密会などはあるまいが」と書かれている。

 気になるのは、そうした週刊誌各誌の報道が似通っており、結婚に否定的な立場からのコメントばかりで構成されていることだ。『週刊文春』によると、眞子さまは今でも結婚への意志が固いという。

波紋を投げたアメリカメディアの報道

 そうした流れの中で波紋を投げたのが、アメリカのメディアの報道だった。 

 『週刊文春』8月2日号によると、留学先の大学のホームページの「婚約者」の表記が、宮内庁の申し入れを受けて削除されるなどしている事態をアメリカのメディアが次々と報道。7月20日にはニューヨーク・タイムズも大きな記事を掲載したという。その内容は「小室さんを叩く日本のマスコミを批判し、逆に二人の結婚を応援する論調だ。『フィアンセ』の文言を削除させた、皇室や宮内庁の対応にも批判は及んでいる」というものだったという。

 『女性セブン』8月9日号によると、ニューヨーク・タイムズにはこんな記述もあるという。「(小室さんの米国留学は)宮内庁が国外に追放したか、メディアによる執拗な取材から逃げるために留学を決めたと推測」

小室圭さんの留学を、宮内庁による国外追放ではないかとし、その背景には日本のメディアの執拗な取材や報道があったと報じたというのだ。

 これは皇室問題についての見方が日本と海外ではこんなに違うという興味深い事例だ。そもそも日本における小室バッシングは、父親の自殺によって母子家庭で息子を育て、借金も抱えていたという小室家に対して、皇族へ迎えるのにふさわしいのかという、皇室の思いを反映させたものだ。

 考えてみれば、美智子皇后が皇室入りした時にも、一部皇族が反発し、バッシングが起きた。皇后は正田家という富豪の出身だったが、それでも民間から嫁を迎えることに反発する皇族がいたわけだ。その意味で言えば、今回の眞子さまの結婚をめぐって、小室家の家柄を問題にする反対意見が皇室内部に起きていることは想像に難くない。

当事者二人が結婚を望んでいるのに、宮内庁がわざわざ留学先の大学にまで、正式な婚約者ではないと申し入れるという事態は、アメリカのメディアからすれば異様に見えたのだろう。ただそれだけでなく、気になるのは、週刊誌が一色になって小室バッシングを続けているという現状だ。

 『週刊文春』によると、留学先の大学のホームページには削除した箇所のほかにも「小室氏とプリンセス眞子は二〇一七年九月に、結婚するつもりだと発表した」という記述があり、宮内庁はそれも問題にしているという。

「結婚に対する抗議が宮内庁に殺到」は本当なのか

 しかも同誌記事を見ると「以前から、眞子さまと小室さんの結婚に対する抗議の声が宮内庁には殺到していて」という匿名のコメントが載っている。これには驚いた。皇室内部に結婚に反対する意見があるのはわかるとしても、この宮内庁に殺到しているという抗議の声とは、いったいどういうものなのだろうか。週刊誌が毎週のように小室家バッシングを行い、それを読んだ人が宮内庁に抗議の声を寄せているとしたら、眞子さまと小室家は相当な風圧にさらされていると思われる。

 この状況はいったいどう考えればよいのか。「抗議殺到」が事実だとしたら、それは週刊誌が煽っているためだとしか思えないのだが、この状況自体が異常ではないのか。

 昨年末の『週刊女性』の報道をきっかけに小室家バッシングが起きた当初は、『女性セブン』が2月8日号に「眞子さまの結婚 抵抗勢力の蠢き」という記事を載せるなど「逆張り」の報道を行って注目された。一連のバッシングの背景には、皇室内部の「抵抗勢力」による思惑があるという報道だ。こんなふうに敢えて異論を提示するメディアがあることは大事なことなのだが、いまや同誌もバッシング報道の一翼を担っている。

 週刊誌は大勢を占める流れに敢えて異論を唱えるゲリラ的な役割も本来持っていたような気がするのだが、皇室問題をめぐるこの一色報道には、いささか危惧を覚えざるをえない。

 

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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