中田ヤスタカのユニットCAPSULEが6年振りに新曲、SFライクなネオシティ・ポップをリリース
CAPSULE(カプセル)が6年振りとなる新曲「ひかりのディスコ」を6月4日にリリースした。CAPSULE とは、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースはもちろん、名実ともに日本を代表する音楽家としてシーンに君臨する中田ヤスタカとボーカルこしじまとしこによる2人組ユニットだ。
「ひかりのディスコ」のミュージックビデオは、こしじまとしこがレトロな車(HONDAプレリュード)を運転する夜景煌めくドライブ・シーンが印象的だ。首都高がまるで”ひかりのディスコ”なのである。
冒頭、気になるカセットテープのインサートなど、80年代、都会的な洗練をテーマとしたドライブミュージック=シティ・ポップを彷彿とさせるシーンが、今の時代に憧れの共感を誘う。こしじまとしこの左手にはCASIOデータバンクの腕時計、足元にはオニツカタイガーのスニーカーが垣間みえる。しかしながら、80年代当時は存在しなかったレインボーブリッジが輝く少し不思議な近未来の風景。ノスタルジーと未来。アンビバレンツな日本らしいポップカルチャーが、CAPSULE流のSFセンスで時間軸を超えて展開されていく。
歌詞で注目すべきは“新しい世界を 作り出そう この身体にまだ慣れてないけど”という、SF的世界観を醸し出すサイバーパンクなフレーズだ。いい意味での違和感を解き放つ。これは、近未来、トランスヒューマニズムの世界を予言する、未来志向な中田ヤスタカらしい問いかけなのかもしれない。
CAPSULE最新曲「ひかりのディスコ」は、中田ヤスタカが敬愛する漫画家、弐瓶勉(にへいつとむ)総監修による劇場アニメーション映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』(全国映画館で6月4日公開)へ書き下ろした主題歌として話題だ。日本発→世界へ誇るべきハードSF要素は、CAPSULEが醸し出すエレクトロサウンドと共通点を持つ。『シドニアの騎士』における抽象的な描写とリアルな状況演出が折り重なる独特なる世界観は、テクノロジーとヒューマニティーの邂逅といえるかもしれない。人智を超えた、驚きのストーリーテリングを持つ映画作品なのだ。
CAPSULEは2021年、デビュー20周年を迎えた。2001年、シングル「さくら」で歌謡的なポップソングでデビュー。自身のレーベルを立ち上げてのフューチャーポップ〜ラウンジポップな展開を志し、現在のイメージであるエレクトロニックダンスミュージックを軸に、様々なジャンルへと変幻自在に進化してきたヒストリーを持つ。
最新曲「ひかりのディスコ」は、ダンスフロアを意識したEDMサウンドではなく、歌を重視したエレクトロポップな歌モノへと回帰したことに注目したい。CAPSULEが誇る20年の歴史から必要な要素「WORLD OF FANTASY」のフレーズをフックアップし、螺旋階段上にアップデートした“かつて夢みた未来”を感じさせるネオシティ・ポップを聴かせてくれるのだ。
そもそも、CAPSULEとは都会的洗練、SF的未来センスをキーワードとしてきたユニットである。しかしながら、前作『WAVE RUNNER』をリリースして以降の6年間、中田ヤスタカはPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅプロデュースでの定期活動、そして武者修行のごとく自身のソロ活動を行ってきた。
2016年にリリースした、中田ヤスタカによるソロ名義でのデジタル・シングル「NANIMONO (feat. 米津玄師)」では、現在日本の音楽シーンを牽引する米津玄師といち早くセッションしている。
2017年には「Crazy Crazy (feat. Charli XCX & Kyary Pamyu Pamyu)」として、世界の音楽シーンの先頭を走るCharli XCXと共演。
続けて、DAOKO、キズナアイ、湘南乃風など様々なコラボレーションを試みてきた。
これら楽曲は、トラップの文法を下敷きとしながらEDMやフューチャーベースといった、ダンスミュージックの過剰なポップネスを吸収し、ロックのテクスチャーを取り入れたSpotify公式プレイリスト発の新たな音楽ジャンル“hyperpop”にも通じる世界観だ。そこで気がついた。今から振り返れば、現実とデジタルの間に生じたバグを表現する世界観。CAPSULEこそ元祖“hyperpop”なアーティストと言えるかもしれない。
こうして6年もの歳月を経た2021年、満を持して、CAPSULEが再起動する。
注目すべきは、現在のネットカルチャーを網羅するボカロ文化圏、YouTube文化圏、TikTok文化圏が折り重なる評価を持つ、CAPSULEが誇るコンピューターミュージック&エレクトロシーンの元祖的存在としてのプレゼンスの高さだ。
中田ヤスタカに強く影響を受けたというYOASOBIのコンポーザーAyase。海外シーンにおけるMadeon、Porter Robinson、Sophie(PC Music)、そしてMoe Shopなどの世界屈指のクリエイター。00年代を牽引する、kz(livetune)、TeddyLoid、YUNOMI。さらに、多くのボーカロイドプロデューサーやトラックメーカーなど、中田ヤスタカによるCAPSULEの影響を受けたアーティスト、ネットミュージックに携わるCAPSULE遺伝子を継承するクリエイターは多い。
気がつけば昨今人気の楽曲とは、バンド形態でもシンガーソングライター・スタイルでもなく、トラックメーカーとシンガーによる作品が増えた。それこそCAPSULEが20年に渡って音楽シーンへ影響を与えてきた結果に他ならない。いわば、80年代でいうYMOカルチャー、90年代のTKカルチャー&渋谷系カルチャーを経て、00年代のDTM&トラックメーカー像を築き上げたのは中田ヤスタカであり、CAPSULEだ。2021年、ついに本流が動き出すという期待感が止まらない。
そもそもCAPSULEは、活動当初、ライブをやることを前提とした音楽を作っていないと宣言していた。しかしながら初期には、年に2枚のペースでアルバムをリリースし続け、外資系CDショップでの評価を得てマスメディアに頼ることなく独自の存在感をシーンに刻みつけた。その真意とは、中田ヤスタカが楽曲制作に力を入れたかったからに他ならない。かつて、13枚目のアルバム『STEREO WORXXX』のリリースの際、“僕らの作品のボーカリストはリスナーが使っているスピーカー”と発言をしていたことにも着目したい。作品主義であることへのこだわり、作品ですべて完結しているのがCAPSULEの世界観なのだ。
CAPSULEが開拓したトラックメーカー・スタイルは、ボカロ文化、ネットミュージック文化へと受け継がれ、80年代〜90年代では考えられなかった“ライブ至上主義とは異なる表現”という多様性を持つ選択肢が音楽シーンにおいて、今や当たり前となった。
CAPSULEを聴いていると、任天堂やプレイステーションのゲーム機、CASIOの腕時計、SONYのウォークマン、CanonやNikonのカメラ、HondaやTOYOTAの日本車、NECやSHARP、東芝のパソコン、YAMAHAやKORG、Rolandなどのシンセサイザー文化などと折り重なるMADE IN JAPANテイストを強く感じる。30年前、世界を制した日本製品。If〜もしも=あの時、あの未来を間違うことなく突き進んでいたら、GAFA(米国の主要IT企業であるGoogle、Amazon、Facebook、Appleの4社の総称)を超えるポップカルチャーの未来系を切り開けていたかもしれない……、なんて妄想が膨らむのだ。
CAPSULE、6年振りの最新曲「ひかりのディスコ」にはノスタルジーと、未来への期待が折り重なっている。聴く人が生きた時代によってその想いは異なるかもしれない。だからこそ、再起動したCAPSULEが現在進行形の未来へ解き放つ記憶のスイッチとなるメッセージに注目をしたい。本流が動き出す期待感、そんなニューエレクトロな息吹を受け止めて欲しい。こうして、CAPSULEならではの20周年=ダブルディケイドがスタートしていく。
CAPSULE オフィシャルHP
映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』オフィシャルHP