Yahoo!ニュース

Jリーグには日本代表に呼べる選手はいないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
マリノスの齋藤学が右サイドを崩す。(写真:アフロスポーツ)

日本代表監督であるヴァイッド・ハリルホジッチが、Jリーグに不満を感じていることは間違いない。

「選ぶべき選手が他にいなかった」

UAE戦に敗れた後の会見では、そこまで言い切ったのである。

「国内組の選手は、フィジカル的に十分ではないし、スピード、リズムの変化についていけない。日本サッカーは最悪に等しい状況にある。新しい選手を見つけ、活性化していかなければならない」

敗軍の将は苛立ったように言った。

では本当に、Jリーグには代表に呼べる選手はいないのか?

齋藤学は主力になり得る

「フランス2部リーグの試合と比較しても、Jリーグは及ばない。スピードも、フィジカルも、闘う意欲も、まったく違う」

それがハリルホジッチの本音だという。欧州の2部リーグは、技術、戦術は少々雑になるが、それをスピード、フィジカルで補うだけに、激しさそのものは変わらない。

これは辛辣に聞こえるが、一部は頷けるところもある。

Jリーグは、"やり直し"と呼ばれるプレーがいまだに多い。少し行く手を阻まれただけで、ボールを戻してしまう。慎重で消極的、勝負所でギアを上げられない。また、球際のインテンシティも、"行儀が良すぎる"。欧州の2部では「ブレーキをかけずに突っ込んでくる」という印象で、強度が高いことで、接触プレーも激しさを増す。結果として、それをかわす、いなす、逆手に取るという駆け引きが生まれるのだ。

率直に言って、世界最高峰リーグであるスペインの2部リーグとJリーグを比較した場合、筆者も言葉につまってしまう。

「Jリーグは守備の強度が低く、アタッカーの力量を見極めるのが難しいよ」

旧知のスペインのスカウトたちも、しばしば呆れる。そこまで自由にプレーはできず、ゴールは入らない、という指摘だろう。ゴールキーパーの技量差も著しい。

しかし問題は、ハリルホジッチがマスコミではなく、現場の長であるということだろう。指揮官が自軍の弱さを明らかにするとは、元も子もない。代表監督は分析をする立場になく、矢弾が尽きたとしても、勝つための方策を探るのが仕事である。事前に敗北の言い訳をするようなことは許されない。

「ACL(アジアチャンピオンズリーグ)、Jリーグでベスト8に残ったチームはゼロ」

ハリルホジッチは「勝てない理由」を重ねるが、JリーグのクラブがACLで勝てなくなったのは、主力の日本人選手がかつてないほど多く欧州に渡り、有力な外国人選手を獲得できなくなっていることが大きい(一方でアラブ諸国や中国は有力外国人を大金で獲得)。クラブとしての戦いはイノセントで改善の余地はあるが、Jリーグの日本人選手のレベルが(数年前と比べて)著しく落ちたわけではないだろう。

断言するが、Jリーグには代表として戦える選手はいる。

例えば、右サイドのアタッカーとして見た場合、齋藤学(横浜F・マリノス)は本田圭佑よりも適正を持っている。サイドで幅を作り、仕掛けによって深みも作れる。殻を破った感があり、ボールを前に運ぶ推進力はJリーグ随一。本田は決定力と胆力に優れた選手だが、サイドアタッカーとしてはスピードに欠け、中に入りすぎる割に連係が乏しく、攻守のバランスを壊している。

「得点力不足」を嘆くなら、大久保嘉人(川崎フロンターレ)、豊田陽平(サガン鳥栖)を招集すべきだろう。得点するポジションを取り、ボールをネットに叩き込む、その異能と実績を持っているからだ。年齢や少々の不器用さで敬遠する余裕はない。

ボランチでは、高橋秀人(FC東京)、田口泰士(名古屋グランパス)を推す。どちらも攻守の戦闘力を持ち、一本のパスでチームを動かせる。判断が迅速で、タイミングも心得ている。すでに選出されている大島僚太(川崎フロンターレ)も、スキルと知性を生かせるチームなら生きるだろう。同じリオ世代の橋本拳人(FC東京)はゴール勘に恵まれ、間合いが広く、ダイナミックさをてこにし、どのポジションもこなせる。

右サイドバックでは、小林祐三(横浜F・マリノス)が必要とされる守備の安定をもたらし、それは攻撃の活性化を促すだろう。試合序盤、相手との間合いを見極めるときにマークを緩める癖を調整できたら、内田篤人不在のポストを争える。左サイドバック不在を嘆く気持ちは理解できる。欧州では、左サイドバックは左利きが定石。Jリーグには、そもそも左利き選手が圧倒的に少ない。

ゴールキーパーは人材難だろう。残念ながら、UAE戦の失点も欧州ではパワー不足と片付けられる。例えばGK大国スペイン代表なら10番手にも入らないGKばかりだが、中村航輔(柏レイソル)は大器と言える。エリアという面よりも、ラインという線でプレーするタイプで、1対1の感覚やシュートへの反応は鋭い。まだまだ成熟は必要だが、潮目を変えるシュートストップができる。

センターバックも枯渇したポジションだが、奈良竜樹(川崎フロンターレ)が風間八宏監督によって鍛えられ、飛躍的に成長している。相手を跳ね返せるパワー以上に、ラインをコントロールするリーダーシップとセンスがあり、前につけるパス感覚に優れる。

そしてすでにJリーガーではないが、スペイン2部リーグ、ジムナスティック・タラゴナに所属する鈴木大輔は、バックラインのリーダーとなる経験を積み重ねている。最近まで1部にいた選手から定位置を奪い、昇格プレーオフまで進出。実績のあるFWを完全に封じ込め、「Jリーグがスペイン2部よりも大きく劣らず、2部リーグで成長し、トップ選手になる」という一例になり得る。鈴木を招集していないのは手落ちで、指揮官は現地を視察に訪れていない。断っておくが、スペイン2部はフランス2部よりも格上である。

Jリーグは、蔑まれるような舞台ではない。

ハリルホジッチ陣営は、そのスカウティングを改め直すことだろう。そして選手が力を出し切れる戦い方を用いることができたら――。Jリーガーたちは、代表のユニフォームを着て十分に戦えるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事