米軍が駐留するシリア北東部の油田開発をめぐり英国と米国の石油会社に軋轢が生じる
英ガルフサンズ・ペトロリアム社が懸念を示す
パン・アラブ日刊紙『シャルクルアウサト』紙(本社:ロンドン)は9月13日、シリア北東部における石油の利権をめぐって米国と英国の石油会社の間で軋轢が生じていると伝えた。
イブラーヒーム・ハミーディー記者の署名記事によると、英国のガルフサンズ・ペトロリアム社は、米国のデルタ・クレセント・エネルギー社が、シリア民主軍と合意を交わし、その支配地域の油田開発のための投資を行う利権を得たことに懸念を示しており、「1日あたり20,000バレルの生産量を有するユーフラテス川東岸の第26ブロック油田に対する権利を守る」と述べているという。
シリア民主軍は、クルド民族主義勢力の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局の武装部隊。クルド人民兵の人民防衛隊(YPG)を主体とし、イスラーム国に対する「テロとの戦い」の協力部隊として米軍の全面支援を受け、シリア北東部を実効支配している。
同地域には、米軍が「イスラーム国から油田を防衛する」として14カ所に基地を設置し、違法に駐留を続けている。
ただし、ドナルド・トランプ米大統領が2月25日に訪問先のインドの首都ニューデリーでの記者会見で「石油を手に入れた…。イスラーム国との戦いは、ロシア、アサド政権、イラン、イラクが行うべき」と述べている通り、米国にとってイスラーム国に対する「テロとの戦い」は、今やシリア駐留を正当化し、その油田を確保するための口実に過ぎない。
ガルフサンズ・ペトロリアム社の利権
ガルフサンズ・ペトロリアム社は2003年に第26ブロック油田への投資と開発にかかる契約をシリア政府と交わしている。その内容は、同社が第26ブロック油田での油田開発の利権を得る見返りに、そこで生産される原油から経費を差し引いた残りの3分の2をシリア政府に引き渡すというもの。
この契約締結を受けて、ガルフサンズ・ペトロリアム社は第26ブロック油田には3億5,000万米ドル以上を投資し、その生産規模は国際的な水準に達したという。
専門家らによると、第26ブロック油田の操業が正常化すれば、数十億米ドルの資産価値が見込まれるという。
だが、ガルフサンズ石油社の幹部によると、第26ブロック油田で過去4年間に2,600万バレルの原油が採掘されているが、収益が誰の手に渡っているか不明だという。
シリアでは、「アラブの春」が波及する2011年以前は、1日あたり約36万バレルの石油が生産されていた。だが、現在は1日あたり6万バレルに低下している。
また、シリアの油田の約90%とガス田の約50%は、米国の支援を受けるシリア民主軍(そして北・東シリア自治局)の支配地域にある。
デルタ・クレセント・エネルギー社の動き
こうした状況下で突如として新規参入したのが、米国のデルタ・クレセント・エネルギー社である。
シリアは、米国、欧州連合(EU)が石油禁輸措置や金融制裁を科している。だが、同社は今年4月、米財務省の外国資産管理局(OFAC)からシリア北東部での事業許可を取得し、シリア民主軍と交渉を本格化させた。
この交渉は、米共和党のリンゼ・グラム上院議員が7月31日に議会で、同社がシリア民主軍のマズルーム・アブディー総司令官と北・東シリア自治局内の油田開発にかかる合意を締結したと述べたことで明るみに出た。
合意は、デルタ・クレセント・エネルギー社がシリア民主軍と交わしたもので、石油精製施設2カ所の建設を骨子とするという。
なお、デルタ・クレセント社は2019年に米デラウェア州で設立された新規の有限責任会社(LLC)。
共同オーナーのなかには、在デンマーク米大使を務めていたジェームズ・P・カイン氏、米軍特殊部隊デルタフォースの元士官ジェームズ・P・リース氏、ガルフサンズ石油社の元常任理事ジョン・P・ドリアー・Jr.氏らが名を連ねている。
ただし、ガルフサンズ石油社によると、現在はドリアー氏と一切関係はないという。