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最後のトップリーグ。いつも通りの「意思決定」ができるか。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
バレットはサントリーの一員として機能。1年契約。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 日本最高峰のトップリーグのプレーオフ決勝戦が5月23日、東京は秩父宮ラグビー場でおこなわれる。史上最多記録更新となる6度目の優勝を狙うサントリーと、最多タイ記録に並ぶ5度目の王座を狙うパナソニックとの激突。両者は今季無敗同士(パナソニックは1分)でもある。

 注目は、「正しいエリアで戦うための意思決定」だろう。

 例えば、どちらかが自陣から敵陣10メートルエリアまでキックを蹴り、相手捕球役の前にチェイスラインを揃える。ここからひとつめ、もしくはふたつめの接点で、ボールを持った側のサポートが遅れたとする。ここでチェイスを張った面子のジャッカルがペナルティーキックを得れば、それがそのまま決勝点となってもおかしくはあるまい。

準決勝に見た両軍の「アンストラクチャー」。

「攻」のサントリー対「守」のパナソニック。歴史的現象や昨今のスタッツからそう見られそうななか、サントリーの中村亮土主将はこうだ。

「アンストラクチャーのなかでどっちが優位に立つかがフォーカスになる」

 両者は実力伯仲。リーグ通算のカード数(イエローカード、レッドカードとも)が両軍通算で1枚のみと、退場者を伴う反則のリスクも少なそうだ。

 セットプレーを起点とした攻防よりも、キックの蹴り合いを経た混とん状況での意思疎通、プレーの精度が勝敗を分けそうだ。

 15、16日の準決勝で、勝者はその混とん状態を制した。キックとその後のチェイスによってだ。

 サントリーはクボタ戦の前半30分頃、自陣深い位置で相手のミスボールを拾うや左中間から右中間へ展開。フルバックの尾崎晟也が鋭いスワーブで駆けて同10メートル線エリア右でラックを作ると、その2つ先のフェーズでスタンドオフのボーデン・バレットがハイパントを蹴る。

 敵陣10メートル線付近左の落下地点にはサントリーのチェイスが揃っており、そのひとりである垣永真之介が接点でターンオーバーを決める。サントリーはそのまま逆側のスペースへパスを繋ぎ、右端の尾崎が前方へグラバーキック。相手が処理を誤ったことで好位置でのラインアウトを得た。

 これが、両軍通じて唯一のトライのきっかけとなった。

 この午後のサントリーは、バレット、スクラムハーフの流大、インサイドセンターの中村亮が相手防御網の裏、特にグラウンドの両端のエリアに多彩な弾道を放っていた。この準決勝は26―9で終わり、クボタのフルバック(最後尾)の金秀隆は言った。

「サントリーさんはリーグ戦(4月に直接対決。33―26でサントリーが勝利)で戦わせてもらった時とは違って、色んなキックを使ってきたイメージがありました。自分が深く(相手から遠い位置に)立っていたら浅めの(手前に)ハイパントを蹴ってきたり、真ん中にスペースが空いていたらバレット選手がそこに落してきたり」

 準決勝で多彩な足技を披露したのはパナソニックも然りだ。

 フルバックの野口竜司は前半21分頃、自陣深い位置から同10メートル線付近まで駆け上がってハイパントを放つ。落下地点の敵陣10メートル線付近右にいた、トヨタ自動車のフルバック、ウィリー・ルルーへ圧をかける。

 ここでのタックルは近くへのパスでかわされた。しかし、その球を受けたスタンドオフのライオネル・クロニエの前には青い堅陣が敷かれた。

 果たして、パナソニックはクロニエが落としたボールを左大外へ展開。インサイドセンターのハドレー・パークスの柔らかいキックとウイングの福岡堅樹のチェイスで、ルルーのキャリーバック(自陣ゴールラインよりも相手側にあるボールを同インゴールエリアに持ち込む動作。犯した側は同ゴール前5メートルでの相手ボールスクラムを与える)を誘った。

 その時8—15とビハインドを背負っていたパナソニックは、直後にスタンドオフの松田力也がドロップゴールを決めたことで11―15と接近した。

 以後も野口、松田らが多彩な球筋を披露し、フランカーの布巻峻介曰く「コミュニケーションを取りながらチェイスをする」と蹴った先への投網の打ち方も見事だった。交代選手が向こうの集中力および体力の切れ目をえぐったこともあり、48―21と大差で戦い終えた。

 今度のファイナルは、かように抜け目なく陣地を確保できる者同士の決戦となる。

 タックル後の起き上がりをはじめ、球を持たぬ際の献身も際立つ。防御陣形が大きく乱れることも少なそうだ。

 サントリーに関しては一時、大差をつけてから防御の穴を作り大量失点を喫していたが、準決勝での戦いが課題克服を証明している。パナソニックも準決勝の序盤に失点を重ねたが、途中出場の堀江翔太は流れを変えるまでの過程を「個人的に動き(が)悪いと思った選手に『もうちょいと動けよ』と話しながらやっていました」と吐露していた。

 今度は否応なしに集中力の高まるファイナル。両軍とも、自軍で求める守備陣形を敷けないシーンは点差をつけたか、つけられた時などごくわずかに限られそうだ。

見どころに基づく注目選手は?

 そうなれば、トライ合戦とはなりづらい。今季限りで引退するパナソニックのウイング、福岡堅樹も、今季奪った13トライのうち11トライは10点以上のリードがあった時に決めている。「正しいエリアで戦うための意思決定」が見どころとなるのは、自然な流れだ。

 ここでの「意思決定」は、どんなキックを蹴るか、蹴る際にチェイス役の味方と呼応しているかどうか、そもそもキックを蹴るかどうかといった領域での決断を指す。

 サントリーではスクラムハーフの流大が接点の周りから、インサイドセンターの中村亮が攻撃ライン上で高低を織り交ぜて蹴る。

 何よりニュージーランド代表で司令塔のバレットも、きついマークにあっても「それは周りの選手にチャンスが生まれる」とどこ吹く風だ。

 サントリーは総じて、立って球を繋ぐオフロードパスでも魅了してきた。陣地を問わずキック、パス、ランと多彩な選択肢を持ち、蹴るにしても球を横に動かしながら蹴る。相手にとっては的が絞りにくい。

 かたやパナソニックは、先発と控えに日本代表経験のあるスタンドオフを擁する。

 スターターでワールドカップ日本大会組の松田は、時にインサイドセンターのパークスとの距離感を制御しつつ蹴りどころを探る。蹴り合いに転じれば、位置取りがよくスキルフルな野口、わずかな隙を駆け抜ける福岡が顔を出すとあり、ライバルは迂闊にキック合戦を仕掛けづらい。

 リザーブスタートの山沢拓也も防御の裏へのキック、抜け出す際のボディバランスが際立つ。フッカーの堀江翔太とともに、試合終盤に大きな一手を打ちうる。

 上記の面々が、両軍の「正しいエリアで戦う意思決定」という観点での注目選手。裏を返せば、対戦相手にとっての要警戒選手とほぼ同義だ。

 その意味では、持ち前のフィジカリティをタックルとジャッカルに還元する伏兵も見逃せまい。パナソニックのフランカーで今回久々の出場となるベン・ガンター、サントリーのリザーブに入るナンバーエイトのテビタ・タタフ…。

 5月23日、東京は秩父宮ラグビー場。お互いにとって今季最大級のプレッシャーがかかるであろう今度のゲームにあって、指揮者たちは従来通りの「意思決定」ができるだろうか

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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