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新型肺炎蔓延には、谷垣イズムで乗り越えよう

安積明子政治ジャーナリスト
自民党大会で復活した谷垣氏(写真:つのだよしお/アフロ)

蔓延の様子を見せる新型肺炎

 中国・武漢市から発生した新型肺炎は、日本全国に広がる様子を見せている。北海道と札幌市は19日、日本人男性2名の感染を発表した。いずれも近時の海外渡航歴がなく、市中感染の可能性が高い。また20日には福岡市で九州初の感染者が確認され、全国に蔓延している実態が明らかになっている。

 厚生労働省が19日12時現在で把握しているPCR検査の陽性者は73名。2月13日には神奈川県内の80代の女性が死亡した。これらは初動において 政府が感染経路を把握しきれなかったことが大きい。政府の対策本部が立ち上がったのは、立憲民主党や国民民主党が対策本部を立ち上げた2日後で、中国に忖度するあまりPHEIC宣言を渋ったWHOがようやく緊急事態宣言を出したのと同じ1月30日だ。

政府は頼りない

「国民の安全を守る」を掲げながら東日本大震災の処理や尖閣問題などを対処しきれなかった民主党政権を倒した安倍政権は、8年目に入って著しい緩みを生じている。あるいは政権が長期すぎたために、息切れしているのかもしれない。

閣僚にも緊張感が見られない。小泉進次郎環境大臣は全閣僚が出席する2月16日の新型コロナウイルス対策本部会議を欠席し、地元横須賀の「よこすか平安閣」で開かれた「小泉進次郎後援会合同新年会」に参加。枡酒を片手に後援者とともに笑顔で写真におさまった。

 そもそも神奈川県は新型肺炎で死者も出し、横浜港ではダイヤモンドプリンセス号が停泊している。にもかかわらず、県内の感染病棟は横浜市立市民病院の26床しかない。厚生労働省は「不要不急の外出の自粛」を訴えている。兵庫県姫路市や寝屋川市などはマラソン大会の中止を表明。自民党の小林史明衆議院議員など、新年会やパーティーを延期した議員もいる。

経済的な影響は深刻だ

 もっともSARSなどの前例を引くまでもなく、この種のウイルス性疾病は季節が変わると収束するものが多い。だがSARSの例と異なるのは、経済的な影響だ。

 SARSが蔓延した2003年頃の中国は、GDPが11兆6694億元で、1人当たりのGDPは1万元に満たなかったが、2018年には88兆4426億元と8倍に膨らんだ(独立行政法人労働政策研究・研修機構)。来日中国人の数に至っては、2003年は44万8782人だったところが2019年には959万4400人と、21倍以上にのぼる(日本政府観光局)。これだけの経済大国となり、日本への流入も多くなった以上、中国の影響を完全に排除することは不可能だ。

 ウイルス自体は暖かくなると収束するという説があるが、問題は経済だ。米アップル社は2月17日、2020年1月から3月期の売上予想を事実上下方修正した。中国は世界各国から電子部品を輸入して、最終製品を製造して輸出する。その中国が新型肺炎で経済活動が停滞すると、世界経済全体に及ぶのだ。実際に日本のメーカーは戦々恐々としている状態だ。

 しかも内閣府が17日に発DP速報値は、年率換算で6.3%落ち込んでいる。これは消費税増税によるものだが、新型肺炎の影響が加わると、さらに悪化する可能性が高い。

今こそ与野党が力を合わせるべき

 国民民主党の玉木雄一郎代表は19日の会見で、2020年度本予算の組み換えなどを視野に入れ、予防的経済対策を打ち出すべきだと主張した。無策でいれば、国民の生活が脅かされる危険性があるということだ。

 こういう事態にどうすればいいのか。谷垣禎一元自民党総裁は2011年3月15日、Twitterに以下のように書き込んでいる。

 国民の中に心をひとつにして乗り切っていこうという

気持ちがある今、政治は対立点を一時棚上げにして心

を一つにこの危機と日本復興に当たっていくべきとの

思いで、与野党が全力で対応に当たる場を設置するよ

う全政党に提案します。

 当時はまさに3.11で国家の危機に瀕していた。死者は1万5897人、行く不明者は2533人(2019年3月警視庁調べ)にも上っている。今回の新型肺炎とは比較しようもないほどの被害だが、ウイルスの怖いところは目に見えず、人の移動とともに汚染地域が拡大されることだ。経済的な影響を含め、人々が不安を抱いていることに変わりはない。

 自民党内ではこの機会に憲法を改正し、緊急事態条項を導入しようという意見もある。しかし性急な憲法改正論は危険だ。緊急事態条項は国民の権利を制限し、行政府に権限を集中させるために、その他の立法府や司法府の権限を停止するもの。外国による侵略や大規模テロの場合はともかく、伝染病対策として適切であるかどうかは疑問が残る。

 それよりも、与野党が心を合わせて問題に取り組むという姿勢こそが、いま必要ではないか。新型肺炎を一日でも早く収束させ、経済を回復させようという方向性は、どの政党も持っているはずだ。

 そのためにはつまらない対立を国政に持ち出すことは控えるべきだろう。そのために委員会をストップさせるのはもっての他だ。

 騒動は今回に限らない。政府は2030年の訪日観光客数の目標を年間6000万人とした。そうなればいったん感染症が発生すれば、現在よりもはるかに深刻な事態となるだろう。

 国土を四海に囲まれている日本だが、もはや海は外敵から我々を守ってくれない。今こそ我々は心を寄せ合い、この国難を克服すべきではないか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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