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200人ものカタルーニャ首長がブリュッセルに集結。プチデモン事実上の政府設立か。他人事ではない日本

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
プチデモン氏と「首長のバトン」を手にしたカタルーニャ首長達。(写真:ロイター/アフロ)

なかなかすごい光景だ。

11月7日、カタルーニャから、200人近くの首長(市町村長)がブリュッセルにやってきた。

首長たちの1日

彼らはまず、空港に着いたときに、そこで集合写真のように集まって報道陣の前でアピール。

それから、コンシリウム(欧州理事会・EU理事会のある建物)の前で、カタルーニャ国歌をカタルーニャ語で歌う。

そのあと、信号を渡って向かいにある欧州委員会の建物の前で「Freedom Political Prisoners」(政治の囚人に自由を)という横断幕を手にして、声を上げた。

EU機関の人とはまったくアポがなかったが、各国からの報道陣が彼らを取り囲んでいた。

欧州委員会の建物の中で、見えるところの窓側にいる人は、全員見ていただろうな、と思う。見ないわけないよね・・・と。

そして、BOZAR宮殿(美術館でありカルチャーセンター)に移動。

(ちなみにここは、王立や公立ではなく、美術館の基金で創設され運営されているという)。

ここで、プチデモン氏が演説をした。

EUに訴えるプチデモンの演説

まずは英語であいさつをし、フランス語で演説をした。

(カタルーニャ人って、本当にフランス語を話せる人が多い。言語がより近いんでしょうね)。

「市民は、なぜこのような民主主義の虐待のすべてに対して、欧州が依然として反応しないのはなぜだと疑問に思っている。スペインは国際的な正義の前に、この悪い対応に答える必要がある」。

「ムッシュー・ユンケル、ムッシュー・タジャーニ(欧州議会議長)、これがあなたの望んだヨーロッパか、これがあなたが私たちに創ろうといったヨーロッパか」

「ムッシュー・ユンケル、ムッシュー・タジャーニ(欧州議会議長)、あなた方はカタルーニャの投票結果を受け入れるのか、ウイかノンか」

「自由が抑圧された中で行われた(カタルーニャに対する)このクーデターで、ラホイ首相を支援し続けるのか」

「これが、あなた方が市民に提案するヨーロッパか」

と声を高め、

「私はノンという」

と下斜めを向いてボソっと加えた。

よく言った!

ちょっと不思議なのは、多くのメディアがこのビデオをネットで公開していることだ。

フランス2ですら、特にコメントや解説なしで流した。

よくあると言ってしまえばそれまでなのだが、注目度は高いと感じる。

やはり多くのヨーロッパ市民は、「うちの国のあの地方が独立したら嫌だな」と思いつつ、それでもEU機関の態度、「欧州の建設の理念」という根本に対して、疑問は抱いていたのだろう。

ヨーロッパ人の心の揺れが出ていると感じさせる報道の様子だった。

事実上の亡命(?)政府設立か

カタルーニャの市町村は全部で948あり、そのうち794が、カタルーニャ独立アソシエーションに加盟しているそうだ。

加盟率およそ84%、すごく高い割合だ。

この数字は、カタルーニャの市民は本当に独立をしたがっているのだと示す、一つの有力な証拠になると思う。

もちろん、ある市町村が独立アソシエーションに参加しているからといって、あるいは首長が独立支持だからといって、そこの住人全員が独立支持というわけではない。でも、それは約16パーセントの加盟していない市町村にも言えること。あまりにも色々な(雑な)情報がたくさん出回っているので、筆者としては、この数字を一つの目安として考えてもいいのでは、と言いたいわけだ。

(ちなみに、なぜ今回来たのは200人なのかな。飛行機1台分かな。いつか第2段で来る人たちも決まっていたりして)。

プチデモン一党の一連の行動は、用意周到に計画されている感じがする。

事実上これは、カタルーニャ亡命政府の設立と同じようなものだなと感じた。

民主主義の手続きにのっとったカタルーニャの独立と、自分が民主的に選ばれた大統領であることを、国際社会にアピールしたのだから。

まだ明確な「設立宣言」とまではいかないのは、刺激して敵をつくらないためだろう。

もっとも、ベルギー政府が「欧州市民として扱う」と言っているのだから、亡命などベルギー的には存在しないし、亡命があったとしても亡命申請していないので、亡命政府と呼ぶのも変なのだが。

会場には、カタルーニャの独立を支持する欧州議員や、ベルギーの「新フランドル同盟」党の人たちも参加していたという。

プチデモン氏は、演説の中で「新フランドル同盟党のフランドル人の友人たち」への感謝を述べた。

すると、立ち上がって拍手で答える人たちがいたという。

欧州委員会の前でも、カタルーニャの国旗とフランドルの国旗(?)を共にアピールする人がいた。(ビデオでは1組しか見られなかったけど。数はごく少数のようだ)。

このあたりは、ベルギー人は、心穏やかではいられないだろう。

付け加えると、同日には、スペイン側もブリュッセルで会見。

カタルーニャの企業家たちもやってきて、カタルーニャ経済のために独立反対の意思を表明したという。

首長たちの期待と失望と恐れ

参加した首長たちは。

「カタルーニャで起こっていることを、とても心配しています。人々は、喜び、恐怖と失望を分かち合っているんです。そしてより良い国を建設する喜び、抑圧への恐怖、そして欧州建設のプロジェクトへの失望を。しかし、私たちは欧州建設を信じているのに、彼らは私たちをのけものにしているのです」と、Vilanova i la Geltruの市長、Neus Lloverasは言った。

「ヨーロッパ、私たちを救ってください」とMarta Madrenas、ジローナ市長は語った。 「国際社会や欧州の機関に、これは内政問題ではないことに関与してくれるよう呼びかけています」と述べた。

彼らが手にしているバトン(棒)は、「首長のバトン」というものだそうだ。

スペインの首長は全員もっていて、彼らの「機能」を象徴するものだという。

おそらく地方自治の力というか、地域の独立性の力、みたいなものだろう。

カタルーニャ人というのは、全体的に素朴で、でもなんだか洗練を感じさせる人たちでもある。

プチデモンという人は、いかにもカタルーニャ人らしいと言えるのかもしれない。

実際は大きな危機と緊張にあるのに、本人もやつれて見えるのに、なんだか「ほんわか」感があるのは、地中海人が生来もつ明るさと大雑把さのせいだろうか。

そして、彼の英語・フランス語という語学力は、ブリュッセルでは大変大きな武器になるだろう。

日本人、他人事じゃないのよ

筆者はEU側の対応に、かなりムッときている。

全然日本人にも他人事じゃない。

EUは、世界において、とても大きな「規範」をつくる力をもっている。

(そして今、アメリカとの摩擦が生じ始めている)。

「規範」というよりも、「国際的規則」というほうが、日本人にはわかりやすいかもしれない。

環境問題を考えたり、経済人なら「あの物質を使うな、この規則に従え」というEUの規制が世界に伝播していることを考えたりすると、わかりやすいだろう。

「規範」というのは、そういうのを含んで、もっと大きな意味合いをもつ。

いわゆる「民主主義など、価値観や法律の輸出を含む」と考えるといいかもしれない。

日本は経済・商業を重視しているし、すでに民主主義国家なので、「規範」と言われてもピンとこないかもしれないが。

日本は、EUと経済連携協定ならびに戦略的パートナーシップを結んだことで、この世界に巻き込まれたのだ。

EU側には、日本とのパートナーシップを軸にして、アジアに深くかかわっていきたい意図があるのだから(特に中国)。

ヨーロッパ側のいう民主主義の基本は、日本人にも納得のいくものだった。

日本の近隣国々の無法ぶりはひどすぎるし、当の国民自体が悲惨なので、EUと力を合わせて言論の自由や、彼らに人権というものが世の中にはあることを知ってもらうべく協力するのは悪くない、などと筆者は思っていたのだが。

しかし、こうなると話は別になってくる。

さんざん「欧州建設の理念」として、「民主主義」だ「人権」だ「市民の権利」だと、もっともなことを言っておいて、このザマですか? こうなると、一気に反感がわいてしまった。

実際、EUの規範をつくり、世界に伝播していこうとする力には、ヨーロッパの内部でヨーロッパ人自身から「市民の力を無視した帝国主義だ」という批判があるのだ。

だから日本は、EUともう仮調印したんだから、全然他人事じゃないのよ。

巻き込まれているのよ。

ただ、筆者はあの老練な(といっても62歳だけど)ユンケル委員長は、何か考えているに違いないとは思っている。

ずっと彼がすることを見てきたが、この男は「EUの政治家」としては、めちゃくちゃ有能である。

彼はどう落とし所を考えているのだろう。

いま、裏で何をしているのだろう。

「時」が来るのを、じっと待っているのだろうか。

追伸:もう国ごとの経済・通商協定は、欧州には基本的に存在しない。例えば日本がフランスと経済協定を結びたい、スペインと通商協定を結びたい、といっても、EUに権限がうつっているので、基本的に無理なのだから。こういう欧州と世界情勢の大きな変化に、大方の日本人は無自覚すぎなのではないか。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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