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「元祖・無責任男」を、山本耕史が責任をもって好演する『植木等とのぼせもん』

碓井広義メディア文化評論家

若き日の小松政夫が「狂言回し」

「植木等」の名前と芸を、直接知る世代も限られてきました。しかし、戦後芸能史を語る際には、絶対に欠かすことのできない俳優であり、コメディアンであり、歌手であることは間違いありません。

満島ひかりさん主演の『トットてれび』で、黒柳徹子とテレビ草創期を描いたNHK土曜ドラマが、今度は植木等に挑んでいます。山本耕史さん主演『植木等とのぼせもん』です。

昭和30年代後半の約4年間、植木等の運転手兼付き人を務めた、若き日の小松政夫さんを物語の“狂言回し”にしたことが、このドラマの特色と言えるでしょう。

植木等とその時代

昭和36年、「ハナ肇とクレージー・キャッツ」が、植木等の歌で「スーダラ節」という大ヒットを飛ばします。翌年には映画『ニッポン無責任時代』、続く『ニッポン無責任野郎』も大入となりました。植木は、「ミスター無責任」のイメージと共にスターとなったのです。

しかし現実の植木本人は、「無責任男」でも「面白おかしい男」でもありませんでした。寺の子として生まれ育った、根が真面目な男です。そんな植木が本気で、大マジメに無責任男を演じたからこそ、「植木等」は面白かったのです。

このドラマでは、「こんなふざけた歌を歌っていていいのか」と悩みながらも、世間が求める笑いを届けようとするマジメ男を、山本耕史さんが懸命に演じてきました。本人に似せることよりも、植木の心情や人柄の表現に意識を向けた芝居にこそ、好感がもてます。

また、小松政夫役の志尊淳(しそん じゅん)さんも、気のいい「のぼせもん(お調子者)」を熱演。さらに植木等の父である、植木徹誠(僧侶でした)を演じているのが、伊東四朗さんというのも嬉しいですよね。

伊東さん、小松さんとくれば、やはり『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』(テレビ朝日系)の「電線音頭」を思い出しちゃいます。当時、破壊的なパワーの組み合わせでした。ほんとに、デンセンマン(電線マン)なんて、一体誰が思いついたんだろう(笑)。

全8話の『植木等とのぼせもん』は、今週末10月21日(土) 夜8時15分からの放送が、最終回となります。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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