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中高年化する東京ディズニーリゾート

斉藤徹超高齢未来観測所 所長
(写真:ロイター/アフロ)

近年高まる中高年層のディズニーリゾート利用率

現在は夏休み中で、暑いながらも遊園地やテーマパークは稼ぎどきシーズンと言えます。一般に遊園地やテーマパークを楽しむ主な顧客層は、10代・20代の友達同士や恋人同士、30代の親子連れが中心でしょう。

実際のテーマパーク利用者動向を見ると、インターネット調査会社「楽天インサイト」が、全国20〜69歳男女1000人を対象に実施した「テーマパークに関する調査」(2023年2月実施)結果では、「テーマパークに年1回以上行く」と回答したのは、20代が6割以上と、他年代と比較しても圧倒的に高いことがわかります。20代では、「2〜3ヶ月に1回行く」と回答した割合も1割を超えており、テーマパーク人気を支えているのは、圧倒的に若者やヤングファミリー層であることがわかります。

しかしテーマパークの中でも、国内で圧倒的な人気を誇る株式会社オリエンタルランドのテーマパーク、東京ディズニーリゾート(東京ディズニーランド+東京ディズニーシー)は、少し様相が異なります。近年同パークは、若者層のみならず、中高年層の利用率が急速に高まっているのです。

来園者の3分の1が中高年層

実際の数値を株式会社オリエンタルランドが毎年発行するFACT BOOK(2008〜2024)のデータを参考にしながら説明していきましょう。

図表1は、テーマパーク(東京ディズニーランド+東京ディズニーシー)の年代別来園者比率の推移を2003年3月期から2024年3月期までで見たものです。表を見ると、明らかに40歳以上の比率が高まってきていることがわかります。そして、逆に4〜11歳、18〜39歳の年齢構成比が低くなっています。この傾向は、コロナが日本で流行しはじめた2020年頃からより一層顕著になっています。

図表1 出所:オリエンタルランド社FACT BOOK(2008〜2024)より筆者作成
図表1 出所:オリエンタルランド社FACT BOOK(2008〜2024)より筆者作成

2024年3月期の年代別来園者の構成比を、2003年3月期と比較してみると、4〜11歳が13.4%と5.0%減少、12〜17歳が12.4%と0.2%減少、18〜39歳が41.0%と13.4%減少し、その一方で40歳以上が33.2%と17.6%増加しています。40歳以上の利用率が大きく上昇しているのです。現在、テーマパーク来園者の約3分の1は40歳以上の中高年層なのです。

2750万人中、913万人が40歳以上

年代別来園者比率に年間来園者数を掛け合わせたものが図表2となります。来園者数は、2003年3月期の2482万人からほぼ順調に数字を伸ばし、2019年3月期には3256万人となりますが、その後パンデミックの影響により激減。2023年からは回復基調にあり、2024年3月期の来園者数は2750万人となります。そしてその中で40歳以上はほぼ3分の1の913万人を占めているのです。

図表2 出所:オリエンタルランド社FACT BOOK(2008〜2024)より筆者作成
図表2 出所:オリエンタルランド社FACT BOOK(2008〜2024)より筆者作成

なぜ東京ディズニーリゾートの中高年利用率が増えたのか?

この20年間で40歳以上の来園率が高まったのは、どのような理由が考えられるでしょうか?それには大きく以下のような理由が考えられます。

ひとつは日本が長寿化、高齢化したことです。日本における高齢化は進行しており、2024年には50歳以上人口が日本人口の半数を占めるに至っています。こうした高齢化が進んだ結果、来園者の構成比でも中高年層が増加したと考えられます。

そして、もうひとつの理由は「高いリピーター利用率」です。おそらくこれが東京ディズニーリゾートの中高年利用率の増加に最も寄与した理由でしょう。現在、東京ディズニーリゾートのリピーター率は9割程度と言われています。

東京ディズニーランドが開業したのは1983年4月のことです。当時の日本はバブル景気のまさに前夜、成熟社会と言われる中、レジャーや余暇、グルメなどに人々の目が向き始めた時代でした。

それから40年余りが過ぎ、開業当時、東京ディズニーランドに夢中になった高校生や大学生も、現在60歳前後を迎えています。リピーターの多くは女性ですが、彼女たちはライフステージがどのように変わろうとも、テーマパークを楽しみ続けている人たちです。若い頃は友人や恋人と、結婚してからは子供連れで、そして子育てが終了してからは、再び友人たちと東京ディズニーリゾートを楽しんでいるのです。

筆者も数年前東京ディズニーシーを訪れた際、ミニーマウスのカチューシャを付けている同年代の妙齢のご婦人方と遭遇したことがあります。まさにこうした人たちが、東京ディズニーリゾートの人気を底支えしているのでしょう。

幅広い年齢層を取り込む営業努力

またその一方、東京ディズニーリゾート自体も、パーク開発や運営面において、大人世代を意識した施策を数多く手掛けてきたという点も見逃すことは出来ないでしょう。

とりわけ2001年9月4日にグランドオープンした第2パーク「東京ディズニーシー」は、第1パーク「東京ディズニーランド」とのカニバリ(競合)を避けるため、「ターゲットを東京ディズニーランドより幅広い年齢層に定めた」とオリエンタルランド社長を務めた加賀見俊夫氏も語っています。(加賀見俊夫著『海を超える想像力』(講談社・2003))

具体的には、パーク内レストランの質を充実させる。アルコール類の提供を行う。アトラクションもライド(乗り物)のみならず、ショーやエンターテイメントを充実させる。四季折々のパーク内の花卉類を充実させるなどの方策が取られました。

またプロモーション面からも、さまざまな大人来園促進策が行われています。「ディズニーおとな旅」というホームページの開設や、45歳以上のお得なチケットの発売(現在は中止)、開業から30周年を迎えた2013年には、親・子・孫の3世代での来園を促す「3世代ディズニー」というキャンペーンも実施しています。

こうした営業努力も功を奏し、いつ何回訪れても高い満足度が得られるテーマパークが開発されたのです。

日本は、現在長い間少子高齢化状態が続いています。少子化が続いていく限り、従来子供や若者たちを対象にビジネスを展開していた企業にとっては、今後も苦戦が続くことになるでしょう。オリエンタルランドはこうした状態を四半世紀以上前から予見し、ファミリーエンターテイメントの幅を更に広げることに努力を重ね、成功した企業だと言えるでしょう。

超高齢未来観測所 所長

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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