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将来、井上尚弥と対戦が待望されるライト級王者デービスが週末、難敵と防衛戦

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
デービスvs.ライアン・ガルシア(写真:Esther Lin/SHOWTIME)

あと1年それとも来年いっぱい?

 先週ニューヨークで開催されたBWAA(全米ボクシング記者協会)の2023年の授賞式に出席したスーパーバンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)が帰国した。BWAAの最優秀選手賞を受賞した井上は、これまでの発言通り、しばらくスーパーバンタム級に留まり防衛に専念する方針を強調した。米国をはじめ海外で待ち望まれているフェザー級進出に関しては「1年後」と見通しを明かしている。

 これは現地時間の8日(日本時間9日)ESPNの中継の途中、会場で語ったもので、帰国時には「これくらいのニュアンスという意味。スーパーバンタム級で来年いっぱいまで4,5試合できるイメージ」と言い直した。仮に1年とすると、これまでの試合ペースから最高で3試合が限度だろう。もし来年いっぱいまでなら4,5試合になってしまうが…。

 スーパーバンタム級で井上は次戦でTJ・ドヘニー(アイルランド)を迎えることが有力と見られる。これはIBFとWBOで1位を占めるサム・グッドマン(豪州)の動向がつかめないため。グッドマンは井上挑戦の条件(開催地と報酬)に不満を抱いているとも言われる。それでもブランクをつくらないためか、7月10日にチャイノイ・ウォラウット(タイ)とノンタイトル戦を予定している。

スーパーバンタム級でも豪華ラインナップ

 チャイノイは長年、世界ランキングに名を連ねているがWBCのみ。以前、専門誌に「タイの至宝」というタイトルで紹介したことがあるが、正直、実力は未知数。これまで強豪と対戦していない。試合地がタイならわからないが、地元でリングに上がるグッドマン優位は動かないところだ。勝ったグッドマンをIBFは井上の指名挑戦者にノミネートするだろう。せっかく統一した4ベルトを手放したくない井上としてはグッドマンと再度交渉して対戦する運びになると推測される。

 ドヘニー、グッドマンを退けた井上にWBCはルイス・ネリに代わって1位に浮上したネリの同胞アラン・ダビ・ピカソ(メキシコ)との指名試合をゆくゆく通達するだろう。メキシコの最高学府で学ぶインテリボクサー、ピカソは最近の2戦を米国で行っている。井上に挑むとなれば米国開催もオプションに挙がるだろう。日本開催でも「ネリに続く刺客」として注目されるかもしれない。

 さらに最新戦で井上陣営がメキシコから招へいしたスパーリングパートナーをKOしたリアム・デービス(英)が虎視眈々とモンスターに狙いを定めている。予想は井上有利にしてもデービスのプロモーター、フランク・ウォーレン氏(クインズベリー・プロモーションズ)は井上の共同プロモーター、トップランク社のボブ・アラム氏と懇意なだけにデービスの抜てきはかなり現実的。その場合、ウォーレン氏が最近、イベントを開催しているサウジアラビアが候補地に挙がるのではないだろうか。

 このラインナップに悪童キャラで知られるジョンリール・カシメロ(フィリピン)を加えた5人がスーパーバンタム級で井上の前に立ちはだかる。そしてWBC世界バンタム級王者中谷潤人(M.T)がスーパーバンタムに進出すれば豪華さは倍増する。多士済済のメンバーと呼んでいい。ちなみに現在ロサンゼルスでビンセント・アストロラビオ(フィリピン)との防衛戦に備えて合宿中の中谷に井上尚弥戦のこと聞くと「(対戦を)準備している選手。だからぜひやりたいなと」と前向きな発言。フェザー級進出が待望されながらも122ポンド(スーパーバンタム級)でもネリ戦のような好ファイトまたはそれ以上を予感させるカードはいくつでもあるのだ。

会見で火花を散らすジェルボンテ・デービスとマーティン(写真:Esther Lin/PBC)
会見で火花を散らすジェルボンテ・デービスとマーティン(写真:Esther Lin/PBC)

挑戦者マーティンの実力

 それでも米国メディアやファンは即急と思われるほどに井上の転級を急き立てる。そしてそれはフェザー級に留まらず、スーパーフェザー級を飛び越えて135ポンド(ライト級)まで及ぶ。

 BWAAのセレモニーから1週間あまり、WBA世界ライト級王者“タンク”ことジェルボンテ・デービス(米)が15日(日本時間16日)ラスベガスで防衛戦に臨む。以前から井上の“究極の”ライバルと目されるハイレベルな3階級制覇王者である。相手は同じ黒人選手、フランク・マーティン(米)。

 すでにライト級の一つ上のクラス、スーパーライト級のWBA王者に就いているデービスに井上が挑戦するシナリオは現実味に乏しい。ライト級にしても3階級越えである。とはいえ井上とPFP(パウンド・フォー・パウンド)トップを争うウェルター級王者テレンス・クロフォード(米)がスーパーミドル級4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)に挑む話が持ち上がっていることを考慮すると、米国ファンの観戦意欲を刺激して止まないカードである。

 同じ3階級越えだが、デービスvs.井上とカネロvs.クロフォードではケースが違うという見方がされる。すでに後者はある程度、具体的になっているのに対し、前者はまだドリームファイトの域を出ない。同時に時間が経過すればするほど、両者の体重差は広がって行くだろう。デービスは最終的に147ポンド(ウェルター級)まで到達するのではないかと私は思っている。

 だが、前回のライアン・ガルシア(米)とのビッグマッチから1年2ヵ月ぶりの登場となるサウスポーのデービス(29勝27KO無敗)にマーティン(18勝12KO無敗)はかなりの強敵だと見なされる。29歳同士。2人は以前、ラスベガスのメイウェザー・ジムで火花を散らしたスパーリング経験がある。

万能型タイプの強豪マーティン(写真:Esther Lin/SHOWTIME)
万能型タイプの強豪マーティン(写真:Esther Lin/SHOWTIME)

ドリームマッチ

 ずんぐりむっくりした体型のデービスにマーティンはビルドアップしたフィジカルを誇り、いかにも黒人らしいバネを兼ね備えている。ビッグネームのデービスが迎え撃つ、これまでの最強の相手という認識がされている。デービス危うしの声も少なくない。オッズこそ7-1でデービス、マーティンは4.5倍と王者有利に傾いているが、私はデービスの苦戦を予想している。アスリートの才能、スキル、スピード、パワーに恵まれたマーティンは、序盤から中盤を乗り切れば、終盤一気にスパートして番狂わせを起こす可能性を秘めている。

 そんなスリルに満ちた一戦をイノウエは直に目に焼き付けて帰国するだろう――と記したのはアンチ井上を自称するクリス・ウィリアムス記者(ボクシングニュース24ドットコム)だ。井上と大橋ジム大橋秀行会長が1週間以上も米国に滞在してデービスvs.マーティンを観戦して帰国することは常識的に考えにくい。だが同記者は12日付の記事でそう記している。まさに笑止千万。デービスvs.井上がまだ空想の段階であることの紛れもない証拠である。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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