自然体で150試合。挑戦は続く~日野のプロップ久富雄一
ニュージーランドの英雄、ダン・カーター(神戸製鋼)のラグビー・トップリーグデビューで盛り上がった週末、日野レッドドルフィンズのプロップ久富雄一が「リーグ戦150試合出場」を達成した。いぶし銀の輝きを放つ40歳。おめでとうございます、と声をかければ、久富は「いや~、あまり気にしていませんでした」と照れるのだった。
「ただ、周りがすごく盛り上がってくれて…。自分の納得できる環境でやれるというのは幸せなことです。ま、自然体で。一戦、一戦、トップリーグで試合ができるのはすごい財産になります」
愛称ドミさん。関東学院大学時代に大学日本一を果たし、NECでは日本選手権優勝も経験した。日本代表で21キャップ。NTTドコモを経て、昨季、日野に移籍してきた。トップリーグでは発足の2003年度から出場し、コツコツと積み上げた試合出場数が150に達した。史上6人目の快挙である。
土曜日の15日のトヨタ自動車戦(東京・秩父宮ラグビー場)では、後半開始直後に交代で出場した。スクラムをどんと組み、ひたむきに走り、鋭いタックル、黙々とブレイクダウンに突っ込んだ。そりゃ、スピードこそ落ちたが、スクラムの強さと献身的なプレーは相変わらずである。
大学、NEC時代から久富を良く知る日野の細谷直監督は「(セレモニーで)記念のトロフィーを渡せたことをうれしく思います」と言った。
「彼の良さは強じんなからだです。けがをなかなかしない。それがすばらしい。次は200試合を目指して頑張ってほしい」
試合は、トヨタに追いすがるも最後にはスコアを広げられた。久富は複雑な表情を浮かべていた。記録達成の喜びと敗戦の悔しさと。
「スクラムでもっと相手にプレッシャーをかけたかったですね。試合後、(150試合出場記録の)セレモニーがありましたけど、負けたということが引っかかっていて…」
それにしても、プレーは若い。その若さを保つ秘訣は?
「あまり自分では意識していません。若手とコミュニケーションをとりながら、こういう環境にいれば…、ま、自分としてはまだ、20代のつもりです。ははは。メンバー表を見て、40という数字を見ると少しダメージを受けるくらいです」
とくに食事などの生活面で規律や節制を課しているわけではない。好きなものを食べて、お酒を飲んで、ストレスを自分にはかけないよう心掛けている。
「だって、そんな風にやってしまうと、よけい厳しいじゃないですか」
スクラムは試合でもう、数百本、数千本、組んできただろう。183センチ、114キロ。スクラムって楽しいですか?
「はい。やっぱり、楽しいですね。ほんのちょっとしたことで大きく変わるので…。その駆け引きがオモシロいですね。ただ、自分でスクラムが強いなんて思っていません」
強じんなからだとはいえ、じつは昨季、右足の前十字靭帯を負傷し、ほとんど試合ではプレーできなかった。
「オペ(手術)なしで元に戻したので、医者もびっくりしていました」
いま、日野にはFWコーチとして、関東学院大、NECの先輩となる箕内拓郎さんもいる。信頼できるスタッフがいるというのは心強いだろう。今季、神戸製鋼から移ってきた木津武士ら移籍組が多い。
「ここにきてよかったです。オモシロいですね、このチームは。みんなで強くしていこうという気持ちがすごくあって、新しいものをつくっていく喜びがあります」
座右の銘を聞けば、しばし熟考して、「自然体ですか」と笑った。
目標はチームとしては、今季、初昇格のトップリーグで「ベスト8入り」である。個人としては、「200試合」とさらりと口にした。
「45ぐらいでできればいいなと思っています。はい、肩をたたかれるまで、(現役を)続けたいですね。1試合、1試合、無駄にしないよう、勝つことを考えながら」
自身の境遇に最善を尽くす40歳。まだまだドミさんの挑戦は続くのである。