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【3.11と野球】未来への種まき「石巻野球フェスティバル」

高橋昌江フリーライター
6回目を迎えた「石巻野球フェスティバル」(筆者撮影)

 昨年の11月23日、宮城県の石巻市民球場で「第6回石巻野球フェスティバル」が開催された。会場には石巻地域の小学生以下の子どもから朝野球のおじさんまで幅広い年代がそろった。小学生以下や野球未経験の子どもは朝野球のおじさんの手ほどきを受けながらティーボール、野球チームに所属する小学生は大学生のサポートを受けながらスピードガンコンテストやストラックアウトに張り切った。中学生は社会人野球の選手から技術指導を受け、会議室では小中学生を対象に肩肘検診も実施された。タイムスケジュールどおり、各所に小、中学生を引率して面倒を見たのは高校生。早朝から会場の準備を手伝ったのも高校生だ。

ストラックアウト。5番に命中!(筆者撮影)
ストラックアウト。5番に命中!(筆者撮影)

ティーボールエリアも盛況。赤チーム対青チームで試合を楽しんだ(筆者撮影)
ティーボールエリアも盛況。赤チーム対青チームで試合を楽しんだ(筆者撮影)

 ご存じのように、宮城県石巻市は2011年3月11日に発生した東日本大震災の被災地である。野球が盛んな土地柄だったが、人口減少などにより、小、中学校ではチームを作ることが難しくなった。高校も例外ではない。そんな危機感から、2014年春に発足したのが石巻野球会議。「石巻野球フェスティバル」の主催団体である。

 石巻地域は小、中、高校のほか、南東北大学野球連盟に所属する石巻専修大、社会人野球の日本製紙石巻もあり、アマチュア野球の全カテゴリーがそろう、地方では珍しい街だ。小学生年代から社会人まで各団体が「縦」につながり、シーズンオフのイベントとして「石巻野球フェスティバル」を開いている。

「去年がコロナ、雨の中止もあったから、ちゃんとできていれば、8回か。…8年なんだな」

 球場の三塁側ベンチからグラウンドの様子を眺めていた石巻野球会議の松本嘉次副会長がつぶやいた。2012年のセンバツ大会に石巻工高が21世紀枠で出場した時の監督で、石巻野球会議の発起人だ。新型コロナウイルス感染症の感染者数も落ち着きを見せ、感染対策を施しながら戻ってきたイベント。順調にできていれば8回目の開催だったが、天気と感染症には勝てない。石巻野球会議が発足して8年、6回目の開催となり、「『小学生の時に来ました』って、参加した子が高校生になって補助員をやっているんだから、続けるって大切なんだよね」と頬が緩む。

「石巻野球フェスティバル」を主催する石巻野球会議の松本副会長。石巻工高の元監督で、現在は宮城県高野連の理事長を務めている(筆者撮影)
「石巻野球フェスティバル」を主催する石巻野球会議の松本副会長。石巻工高の元監督で、現在は宮城県高野連の理事長を務めている(筆者撮影)

さぁ、手投げされたフライに追いつけるか!?(筆者撮影)
さぁ、手投げされたフライに追いつけるか!?(筆者撮影)

 三塁ベンチ前や内野のスペースでは中学生が日本製紙石巻の選手たちから熱心な指導を受けている。

「笑い声が聞こえる。これだよ、これ。理想に近づいてきたかな。みんな、遠慮なく、仲良くやって。厳しさは徐々に覚えていけばいいんだよ。まずは楽しくやること」

石巻専修大の選手たちが盛り上げ、ストラックアウトでは15人がパーフェクトを達成!(筆者撮影)
石巻専修大の選手たちが盛り上げ、ストラックアウトでは15人がパーフェクトを達成!(筆者撮影)

 一塁側ブルペンから歓声が上がる。ストラックアウトでパーフェクトが出たようだ。レフト付近でキャッチボールをした小学生は三塁側ブルペンで石巻専修大の選手に向かって投球し、「○キロ!」と伝えられた球速に残念がったり、照れていたり。センター付近では日本製紙石巻のトレーナー、選手たちが教えるトレーニングにちょっと辛そうだったり、笑顔だったり。会議室で行われているNPO法人スポーツ医科学ネットワークによるエコー検査と身体機能検査にはちょっと緊張気味。一塁側ベンチの前では理学療法士の説明を真剣に聞きながら、ストレッチに取り組んでいる。昼時が近づくと、グループごとに球場の外へ。鉄板で焼きたての焼きそばと温かいつみれ汁が待っていた。

無料で肩肘検診も実施。ストレッチも教わった(筆者撮影)
無料で肩肘検診も実施。ストレッチも教わった(筆者撮影)

検診による故障の早期発見も、トレーニングによる怪我をしにくい体づくりも大切だ(筆者撮影)
検診による故障の早期発見も、トレーニングによる怪我をしにくい体づくりも大切だ(筆者撮影)

「震災の前から子どもの数が減ることは分かっていたことで、育成事業はずっとやっているけど、高校生が中学生に教えるといった取り組みだけでは追いつかない状態。アマチュア野球が1つになっていかないと野球人口は増えないのかな、と。野球って、日本にとってはほぼ国技でしょう。その競技人口が減っていくというのは悲しいよね。いろんなスポーツがあって、やるのはいいこと。その中で『野球、おもせぇな(面白いな)』ってなってくれればいいよね」

 今回は約300人が参加した。おそらく、過去最高の人数だった。松本副会長は「中学生が増えたから、本当に楽しみ」。中学生年代は、中学校の軟式野球部が5チーム、リトルシニアが2チーム参加。未就学児からおじさんまで集うのも珍しいが、中学の軟式、硬式のチームが同一会場にいることも滅多にない。「やっている“野球”には変わりがないんだから。小学生も社会人もやっている競技は“野球”」と松本副会長。今回のプログラムの最初は、日本製紙石巻と石巻専修大の選手によるシートノック。初めての試みだった。

 小中学生はスタンドから迫力満点の“お手本”を目に焼き付けた。子どもたちの多くが、「大人の野球」を実際に見たのは初めてだったようだ。直接触れ合う交流や指導も大切だが、プレーする姿を目の当たりにすることで将来のビジョンを描く一助になり、野球を続ける意欲につながるかもしれない。

何キロ出たかな? 今回の最速は102キロだった(筆者撮影)
何キロ出たかな? 今回の最速は102キロだった(筆者撮影)

「いずれはさ、参加した子たちが大人になって、『俺らがやりますよ』となっていったら、それこそいいことじゃない。次の人たちがやるようになったら、発起人としては嬉しい限りだよ」

 そう言って松本副会長は笑った。続けて、つなげる。さまざまな課題に直面している野球界だが、カテゴリーの垣根を越えた地域一丸の継続的な交流も未来への種まきになるだろう。

日本製紙石巻の選手の指導は「分かりやすい」と好評だった(筆者撮影)
日本製紙石巻の選手の指導は「分かりやすい」と好評だった(筆者撮影)

参加者の感想は以下の通り。

小石愛生選手(石巻小レッドベンチャーズ6年)

「ポジションはキャッチャーで、ピッチャーはたまにやる程度です。ストラックアウトでパーフェクトを達成することができ、嬉しいです。4年生の時に抜いたのは4、5枚。今回のパーフェクトはちょっと狙っていました。ラスト1枚はとてもドキドキしました。野球は点を取ったらみんなが喜んでくれるところがいいところだと思います。高校の女子硬式野球部を目指し、中学でも頑張りたいです」

阿部尚監督(赤井ビクトリー)

「今日は6年生以下の11人で参加しました。いろんな年齢層の方がいて、新鮮でいいと思います。シートノックは勉強になりましたし、子どもたちもいつもなら飽きてしまうのですが、飽きずに見ていました。検診は今回が初めて見てもらう子ばかり。診断していただけるのは有り難いです」

早坂太志選手(石巻市立住吉中2年、主将)

「小学生の時も参加しており、今回で4回目です。日本製紙石巻と石巻専修大によるシートノックを見て、一歩目の切り方などを学ぶことができました。技術講座では日本製紙石巻の皆さんが基本的なことを詳しく、優しく教えてくれました。もっと上手くなるためにはどうすればいいかを考え、いい選手になっていければなと思います。教わったことを活かし、高校まで続けたいと思っています」

木村颯選手(石巻市立河北中2年、主将)

「社会人チームや大学生のシートノックは初めて見ました。ミスが少なく、1つ1つのプレーが丁寧だったので、それを目指してやっていきたいなと思いました。楽しかったのはノックを受けたことです。日本製紙石巻の選手の皆さんがキャッチボールの細かいところや投げる時の姿勢などを教えてくださり、今後に活かしていきたいなと思いました。大人になっても野球を続けていきたいです」

三浦虎翔選手(石巻工高1年)

「中学生の時に東松島シニアで参加し、スピードガンコンテストなどをやる方でした。今日は高校生として、技術講座のサポートをしました。キャッチャーの送球を受けたりしましたが、コントロールがよくなったり、スローイングが強くなったりしていました」

立身聖選手(石巻工高1年)

「小中学生の時も参加しており、高校生が優しくてやりやすかったことを覚えています。今回は自分が高校生ということで小学生の誘導を担当しましたが、補助をする側になり、時の流れを感じました。スピードガンで競い合っていたり、讃えあっていたり、小学生らしく競技を楽しんでいたので、見ている方も楽しむことができました」

阿部辰芳選手(石巻専修大3年、石巻工高出身)

「高校生の時もサポートで参加しており、今日はスピードガンを担当していました。きちんと投げられている子が多く、これからの石巻の野球のレベルが上がっていくのではないかと感じました。いろんな年代の人たちが集まる機会はなかなかないので、とても貴重なこと。これからも続けていければいいのではないかと思います。女川町で育ち、石巻工業高校から野球をしたくて石巻専修大に進みました。野球を続けることで人との出会いが広がったり、さまざまなレベルの選手を知ったりできるなと感じています」

登藤光選手(日本製紙石巻、仙台市出身)

「1年目なので、参加は初めてです。自分も小中学生の時にこういう体験をしてみたかったなと思いました。担当したのはトレーニングです。トレーニングはきついのですが、みんな楽しくやっていたので、それを続けてほしいですね。他の様子を見ても、ストラックアウトなどをきっかけに野球の楽しさを感じたり、続ける要因になったりしてくれればいいなと思いました」

フリーライター

1987年3月7日生まれ。宮城県栗原市(旧若柳町)出身。大学卒業後、仙台市在住のフリーライターとなり、東北地方のベースボール型競技(野球・ソフトボール)を中心にスポーツを取材。専門誌やWebサイト、地域スポーツ誌などに寄稿している。中学、高校、大学とソフトボール部に所属。大学では2度のインカレ優勝を経験し、ベンチ外で日本一を目指す過程を体験したことが原点。大学3年から新聞部と兼部し、学生記者として取材経験も積んだ。ポジションは捕手。右投右打。

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