「189」(いちはやく)~子どもを「虐待」から救う番号。11月は「児童虐待防止推進月間」。
2018年3月に東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が死亡、今年1月には千葉県野田市で栗原心愛(みあ)さん(同10歳)が、6月には札幌市中央区で池田詩梨(ことり)ちゃん(同2歳)が衰弱死する事件が発生しました。このような凄惨な事件が報道されたにも関わらず、福岡県田川市で、昨年11月に1歳の三男常慶唯雅くんにエアガンを発射しけがをさせたとして傷害の疑いで両親が逮捕され、今月8日に、検察庁に送られました。なお、唯雅くんは翌月に肺炎で死亡しています。
このように、児童虐待のニュースが後を絶ちません。
児童を守る法律の一つに、児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)があります。
厚生労働省では、毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と定め、家庭や学校、地域等の社会全般にわたり、児童虐待問題に対する深い関心と理解を得ることができるよう、期間中に児童虐待防止のための広報・啓発活動など数々の取り組みを集中的に実施しています。
そこで、今回は、児童虐待防止法について、私たち一人ひとりが知っておくべきことについてお伝えしたいと思います。
児童虐待防止法の目的
児童虐待防止法(以下「法」といいます)は、児童虐待の防止等に関する施策を促進することで、児童の権利利益の擁護に役立つことを目的としています(法1条)。
1条(目的)
この法律は、児童虐待が児童の人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ、児童に対する虐待の禁止、児童虐待の予防及び早期発見その他の児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、児童虐待を受けた児童の保護及び自立の支援のための措置等を定めることにより、児童虐待の防止等に関する施策を促進し、もって児童の権利利益の擁護に資することを目的とする。
「児童虐待」とは
法は、児童虐待を、保護者がその監護する児童(18歳に満たない者)に対して行う「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4つの行為に分類しています。具体的にはそれぞれ次のような行為が該当します(2条)。
1.身体的虐待:殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、家の外にしめだす など
2.性的虐待:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にする など
3.ネグレクト:乳幼児を家に残して外出する、食事を与えない、ひどく不潔なままにする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない、他の人が子どもに暴力を振るうことを放置する など
4.心理的虐待:言葉により脅かす、無視する、きょうだい間で差別的な扱いをする、子どもの目の前で家族に対して暴力を振るう(DV) など
2条(児童虐待の定義)
この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。第十六条において同じ。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
児童に対する虐待の禁止
法は、「何人も児童に対して虐待をしてはならない」としています。つまり、どんな人も、先に掲げた児童虐待をすることは許されないとしています。このことは、親が子に対して「しつけ」と称して虐待を行うことへの警鐘ともいえます(3条)。
3条(児童に対する虐待の禁止)
何人も、児童に対し、虐待をしてはならない。
家庭と近隣社会への注意喚起
さらに、4条7項で、「何人も、児童の健全な成長のために、家庭及び近隣社会の連帯が求められていることに留意しなければならない。」として、児童の健全な成長のために、家庭と近隣社会の連帯に喚起をうながしています。
国及び地方公共団体の責務等(4条7項)
何人も、児童の健全な成長のために、家庭(家庭における養育環境と同様の養育環境及び良好な家庭的環境を含む。)及び近隣社会の連帯が求められていることに留意しなければならない。
通告の義務化
法は、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合は、速やかに市町村、都道府県の設置する福祉もしくは児童相談所に通告しなければならない」として、通告することを義務化しています(法6条1項)。
6条1項(児童虐待に係る通告)
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。
秘密は守られる~匿名での連絡も可
加えて法は、「職務上知り得た事項であって当該通告をした者を特定させるものを漏らしてはならない」として、通告を受けた福祉事務所もしくは児童相談所に対して守秘義務を課しています。
このように、連絡者や連絡内容に関する秘密は守られます。また、連絡は匿名で行うことも可能です。
7条(児童虐待に係る通告)
市町村、都道府県の設置する福祉事務所又は児童相談所が前条第一項の規定による通告を受けた場合においては、当該通告を受けた市町村、都道府県の設置する福祉事務所又は児童相談所の所長、所員その他の職員及び当該通告を仲介した児童委員は、その職務上知り得た事項であって当該通告をした者を特定させるものを漏らしてはならない。
「189」(いちはやく)が子どもの命を守る
児童相談所全国共通ダイヤル「189」(いちはやく)の3桁の番号に電話をかけると、管轄する児童相談所につながります。「児童虐待かも・・・」と思ったらすぐに「189」にお電話してください。
児童虐待のおそれがあることを知ったらもちろんのこと、もし、自分が出産や子育てに悩んでいても「189」に電話をかければ専門家に相談ができます。
児童虐待はもはや社会全体で解決すべき問題です。そのことを私たち一人ひとりが認識することが、児童虐待防止法が掲げる「児童の権利利益の擁護に役立つ」という目的を達することにつながるのではないでしょうか。
最後に、今年の「児童虐待防止推進月間」で全国4,804作品の中から選ばれた最優秀作品をご紹介します。
令和元年度最優秀作品
189(いちはやく) ちいさな命に 待ったなし
石居くるみさん(東京都)
参考:厚生労働省ホームページ