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トップリーグ開幕が2日前に延期。4つの論点。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
昨季の様子。スタンドでは当時からマスク着用者が目立つ。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 1月16日に予定されたラグビートップリーグ(TL)の開幕は2月以降に延期となった。14日、日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事、トップリーグの太田治チェアマンが会見した。

 加盟クラブでの新型コロナウイルスの感染が広まったため、安全に大会を成立させるのが難しいと判断された。

 12日にキヤノンで24人、トヨタ自動車で13人、サントリーで7人の陽性者が出たとし、開幕節8試合中2試合の中止を発表したばかり。この日はNECの3名、神戸製鋼の10名、東芝5名の陽性者が出たと報告(日本協会によれば重傷者はいない)。大会方式や日程、ラグビー活動における濃厚接触の有無、ガイドラインの見直し、新リーグへの影響といった争点での質疑に応じた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

岩渕

「今日お時間をいただきありがとうございます。このタイミングでの会見となったことをお詫び申し上げます。

 TLの開幕延期についてお知らせします。TLにしても協会にしても今季のTL成立を何としても達成したいと思っています。その観点から参加チーム選手スタッフとここまで相談しながら進めています。その前にも皆様の会話の機会を得ています。

 3チームから新たに陽性者が出て、2試合の中止を発表させていただいていますが、さらに多くの試合の中止を決定する必要が出てまいりました。今季TLは何としても成立させると話を進めています。

 ただ現状のフォーマットではリーグ成立の75パーセント(の試合開催)に満たなくなる可能性が高い。早いタイミングで決断し、フォーマットを変更したうえで、選手、関係者の安心、安全を担保したリーグ運営をすると決めます。今後についてはチェアマンの太田から話があると思いますが、現在運用中のガイドライン、プロトコルの厳格化を含め、次の開幕に向けさらなる感染対策をして進めたいです。

 リーグを成立させる最善の考え方として決断し、選手、関係者の安全を担保するよう引き続き準備を続けたいです」

太田

「今日はお忙しいなか急な案内にもかかわらずお集まりいただき。ありがとうございます。大会フォーマットが不成立となる可能性が高くなり開幕日を延期させていただきます(従来の大会フォーマットはこちら)。

 理由は新たな3チーム――NECの3名、神戸製鋼の10名、東芝5名――の陽性者が確認されたのに加え、まだ再検査の人間、選手もございまして、濃厚接触者の認定が難しい、時間がかかるため。グレーなままで(公式戦を)やるのは困難となりました。さらには開幕節の次についても影響が及ぶということでの判断です。

 これにより、開幕前(の延期決定)ということで、次のフォーマットに移りたいと思っています。

(下図で説明)

(中止判断の)時期によってA、B、Cを準備してきました。今回はAになります。

 カンファレンスのリーグ戦を行った後すぐにトーナメントへ移る。上位20チームでのトーナメントを行い、いま(もともと)のTLのスケジュールお尻を合わせた形にします。再開のタイミングは調整中。決まり次第お伝えします」

■日程について

――再開の大まかなタイミングは。

太田

「スケジュールは調整中ですが、2月の(上旬から)中旬くらいにスタートでできれば。いずれにせよ会場の問題、調整事項があるので、近日中にお知らせしたい。コロナの状況ですが日々状況が変わっています。改めて状況を踏まえ、予防策の徹底等をしながら、先ほど言いましたように濃厚接触者の特定、自粛明けのタイミングを見極めながら判断する状況になると思います」

――2月上旬から中旬という再開の時期について。その時期なら多くの陽性反応者が復帰できそうという意味か。

太田

「その認識で間違いございません。濃厚接触者の特定、自粛明けの期間、コンディショニングを加味して決めました」

――2月中旬までの間にさらに陽性者が増えた場合は。

太田

「先ほどお示ししましたプランB、Cに移行していくことになる。日々コロナの状況が変わりますので、都度判断していくということになる」

――再開時に観客は入れるか。

太田

「現状のままでは政府イベント要件では5000人もしくはキャパ50パーセント以下。基本的には政府方針に従い準備したい」

――決勝トーナメント終了を5月30以降にずらす可能性は?

太田

「お尻は合わせると考えています」

――5月23日までに終えないと代表活動に影響があるからか。代表活動期間中もTLを開催する可能性はあるか。

太田

「代表スケジュールを加味したうえでのスケジュールと考えていただければと思います」

――「5月末まで」は決まっているのか。

太田

「先ほども申し上げた通り、後ろは決める。そこから逆算してどうできるかを基本に考えています」

――開幕節のカードを丸々、後ろへ動かすのか。

太田

「それも含め、会場の問題もあるので調整し、早急にお伝えしたい」

――予定されていた国立競技場での開催は。

太田

「国立競技場の開催についてはタイムライン的にはあの日時はギリギリ。新たに国立でやるのは厳しいと思います」

――下部のトップチャレンジ(TC)は?

太田

「いまTCの皆さんと協議していますが、その辺は改めてTCからアナウンスがあると思っています。ここでは控えさせていただければと思います」

■濃厚接触者の判定について

――昨日、「ラグビーでの感染は確認できていない」と説明していた。今回の新規感染者についても同じ認識か。

太田

「そういったような認識でおります」

――感染された方は「ラグビー以外」と話している。であれば、プライベートな場面での感染が懸念される。これまでの確認で選手、チーム関係者のプライベートな飲食で感染されたケースは。

太田

「そういう突っ込んだ情報をチームさんにヒアリングしている最中。プライベートなところはこれからとなります」

――チームの行動記録などについていつまでに把握したい、というタイミングはあるか。

太田

「チームさんともきょうこの内容を共有し、行動管理を含めた対策をお願いしています。今週、来週にかけて決めていければと思います」

――濃厚接触者の認定について。12日に発表されたチームのうち、濃厚接触者が30人も認定されたケースもある。これがラグビーでなければ何なのか。これがある程度わからないと再開が難しいのでは。

太田

「多くの陽性者が出ているということで、当該のチームと突っ込んだヒアリングをしたうえで、対策したい」

――チーム側からは「練習を一緒にしたことで濃厚接触者と認定された」と聞くが、太田さんはそれを聞いていないのか。

太田

「いま私のところに来ている段階では、『濃厚接触者は、ラグビー競技で判断はされていない』と。ミーティング、チームでの食事でも対策もしているというところで、ヒアリングした結果、『濃厚接触じゃない』と。プライベートで出ている、という事例はございます」

――「感染者とグラウンドで練習していた選手全員が濃厚接触者に認定された」とするチームもある。例えば、円陣で声を出すなどの行為も「ラグビー活動」ではないという判断か。

太田

「私に来ている情報では、ラグビー活動というより、人数でクラスターという状況になったという判断と聞いています。ミーティング、円陣で判断されたとは、私のところへは届いていません。深掘りして、チームから情報を取りたい」

■ガイドラインの見直し、今後の施策について。

――各部でクラスターが出ているなか、他のスポーツ団体の知見を参考にする意向は。

太田

「私もJリーグ、プロ野球のコロナ対応会議に陪席している。知見を役立てたいと思っています」

――これだけ感染者が出た。これからどんなガイドラインを設けても感染拡大を防ぐのは厳しそうだが。

太田

「そこが非常に課題と考えています。取り急ぎ現状把握の上でもう少し突っ込んだ状況を各チームにヒアリングしたうえでそれぞれの感染予防策の啓発運用、健康チェック、体調管理、行動記録、検査といった観点からより厳格化していくかを含め、チームの皆さんと決めていきたい」

岩渕

「現状、チームさんにかなりの対策をしていただいています。そのなかでも感染が起きたのは事実でございます。その観点から、この点を再確認したうえで厳格化をしなければならない。具体的にここでお話しするというより、現時点でなぜ陽性者が出たのか、どういうチームが陽性者を出していないのかを見直したうえで、協議し、ガイドラインを再設定したい」

――PCR検査のペースはこれまで通り2週間に1回か。また、各種検査の費用が各チームへの負担となっているが、支援策などはあるか。

太田

「PCR検査の改善はしていくことが必要。(12日の説明では変更はないとしていたが)頻度、数を検討したいと思っています」

――そもそも、年始に入ってここまで感染者が増えたことへの受け止めは。

岩渕

「私の方からお答えをさせていただきます。ご指摘をいただいた通りで、TLでは12月の末にかけて全チーム全選手の検査をしています。その時からまだ数週間しか経っていないにもかかわらず、多くの陽性者が出てしまったという事実がございます。このような事態が起きている原因については、これを今後の対策へ活かさなければいけない。全チームと(詳細を)共有して話を進めます。

『次の開幕を想定する2月に向け、もう1度、検査をして(感染者は)ゼロになるのか』という議論も、当然、出てくると思います。そこについてはチームさんと協力しながらしっかり進めないといけない。どのような形でも感染が出る可能性は否定できない。どうすれば万全な感染対策を取りながら試合への環境作りができるか。ここについてもチームさんと話しながら進めています。

 いま感染が増えているというお話もさせていただきましたが、まったく(陽性反応者が)出ていないチームが多数であることも事実でございます。その観点から、ゼロにできないということではない。何がうまく行っていて、どうしてうまく行っていないかを把握し直す。そのために開幕を後ろにずらし、いい状況にしたうえでリーグを成立させたいと考えています」

――ということは、2月に感染者がゼロにならない状態でも開幕する可能性があるのか。

岩渕

「いま言っていただいた通りです。当初は開幕戦2試合の中止を決めさせていただいていましたが、全節の中止ではなかった。チームさんとの会話のなかでも、『できるところだけでやる』という議論もありました。ただし、いまできる試合をしたとしてもリーグを成立させるのが難しいということ、グレーな状況が続くのが好ましくないということで、ここで1度止めるのが最善の選択だろうと話して、きょうの結論に至っています。

 2月のタイミングで陽性者がゼロじゃなかったら…ということへは、『ゼロにする努力をしながらもリーグは開催をするという方向』で進めています。いまヨーロッパでもラグビーやっているが、チームに陽性者が出ればその試合は中止ということはたびたびございます。現時点で延期にした理由は、『いまのまま進めてもすでにいまのフォーマットでのリーグ成立が困難だから』『さらに選手の安心、安全は担保できない』という2点です。2月になった時に、何とか、ゼロの状態で行きたいですが、様々な状況が出てきます。ここに向けては延期期間を有効に使い、チームさんとともに前に進みたいです」

――いま話があった「年末の検査」の段階では感染者はゼロだったのか。

岩渕

「ゼロではないですが、かなり、数は違います」

――バブル(閉じられた環境に必要最小限の関係者だけ集めて開催)の検討は。

岩渕

「南半球のテストマッチではバブルを作っておこなった一方、欧州の国内リーグではバブルを作らずにおこなっています。NBAは1か所に全チームを集めましたが、(TLが)いまの16チーム、(TCを含めた)25チームでバブルを作るのは難しいと考えます。

 いま、行っているガイドラインを見直し、厳格化しなければならないことは多々あるので、ここについてはチーム、選手のご協力を得たい。何よりチームさんがリーグを成立させる強い思いを持っていただいています。協力いただきながら進めたいです」

■2022年開幕予定の新リーグへの影響について

――今回の延期は新リーグへの審査に影響は。

岩渕

「審査に関しては明日別の形でお答えしますが(新リーグ関連会見が予定されている)、今季のTLが来季の新リーグに向けても重要な大会である事、いまの新型コロナウイルスの状況に応じどうなるかわからないということのなか(前提で)、『こうなった場合はこういう風にします』と同意したうえで進めています。いかなる状況でもこれまでチームさんとお話を進めさせていただいていた通りで進める予定です。

 一方で新リーグの会見を明日に行いますが、今回は成立をさせるとの思いで判断しました。いまのこの状況がどのように改善されるか、社会状況、経済状況もどうなっているかわからない。そのなかでも少しでも皆さんと一緒になって前へ進める方法を考えたいということで、新リーグも進めてまいりました」

――トップリーグが進まないと、新リーグの開幕延期もあるのでは。

岩渕

「TL開幕の延期を、この開幕前のタイミングでお伝えしました。選手たちも開幕戦をスムーズにスタートさせたい思いでしたが、この数日で大きく状況が変わったことは間違いありません。ただ色んな状況が想定されるということで、TLでも、新リーグに向けても準備をしてきました。どんな状況でも前に進めていくことが大事。状況によっては、一度立ち止まってでも『それが後退ではなく次に進むための一歩』と捉えてやっていきたいです。今日の延期の話も後退ではなくリーグを成立させ、前に進むための決断と捉えていただきたい」

 この日はトップリーグの責任者である太田氏に加え、日本協会の専務理事で男子7人制日本代表のヘッドコーチも務める岩渕氏も出席した。国内最高峰の舞台の緊急時に、前向きな言葉選びを促す格好となった。

 会見で露呈されたクラブと運営側での見解の相違は、ウイルス禍が始まる以前からの課題。今回の未曽有の危機をきっかけに、さらなる結束力の醸成が待たれる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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