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イージス・アショアが事実上の白紙撤回――「ミサイル迎撃は常に不利」米軍幹部が警告

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
アメリカ軍の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」(写真:ロイター/アフロ)

河野防衛相は6月15日、陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の秋田、山口両県への配備計画を停止すると表明した。迎撃ミサイルを発射後、「ブースター」と呼ばれる推進装置を山口県の陸上自衛隊のむつみ演習場内に確実に落下させることができないという技術的な問題が判明した。イージス・アショア計画がストップし、事実上の白紙撤回となった。

実は、世界の軍事関係者の間では、「イージス・アショア」だけでなく、「ミサイル迎撃システムは軍事上、常に不利」といった認識が改めて広がっている。

2019年6月28日、アメリカの著名シンクタンク、ブルッキングス研究所が開催したシンポジウムで、ポール・セルヴァ米統合参謀本部副議長(当時)がミサイル防衛をめぐって注目の発言をした。日本ではほとんど報じられなかったが、筆者が東京特派員を務めるジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは大きなニュースになった。アメリカ軍制服組ナンバー2にあたる軍高官が、ミサイル防衛に対する旧来からの考えを変えるよう、聴衆に強く訴えたのだ。

アメリカ空軍出身のセルヴァ副議長は、この年の初めにロシアが公開した新型の地上発射型巡航ミサイル「9M729」への対抗措置として、ミサイル防衛の強化より、ロシア軍のキルチェーン(ミサイル先制打撃システム)を無力化するなど、もっと攻撃型のオプションを検討するよう訴えた。「攻撃は最大の防御なり」という古くからの格言を想起させる内容だ。

セルヴァ副議長は、「ミサイル防衛を単に命中撃墜の迎撃システムだけに絞って考えることは正しい解決策ではない」と述べた。

●「攻撃側が常に有利」

その理由として、セルヴァ副議長は「(ミサイル迎撃という)命中撃墜型の対策では、どちらがより多くのミサイルを持っているかの数争いとなるため、常に攻撃側が有利になる」と述べた。この発言については、読者は敵国からの飽和攻撃とそれへの対処法を思い浮かべれば理解しやすいだろう。

また、セルヴァ副議長は、ミサイル防衛システムでは「弓の矢をやっつけるか。あるいは、弓の射手をやっつけるか」という重要な問題に直面すると指摘した。

「迎撃システムにおいては、私たちは常に攻撃で立ち遅れる。なぜなら、その言葉の定義の通り、私たちは敵の行動にまず対応しなくてはいけないからだ。私が今、提案しているのは、このリンクを断ち切ることだ。つまり、(サイバー攻撃や電子戦で)敵の指揮統制システムやミサイル制御システムに入り込んだり、発射台そのものをターゲットにしたりすることだ」

さらに、セルヴァ副議長は、「ミサイル防衛の駆け引きでは、相手の一発目のパンチを受けても大丈夫なほどこちらは優れていなくてはならない。そして、(敵のミサイル発射位置を突き止めて)相手が二発目のパンチを出すのを防げるほど賢くなくてはいけない」とも述べた。

このシンポジウムで司会を務めたブルッキングス研究所上級研究員のマイケル・オハンロン氏は「アメリカ軍が極超音速ミサイルなど高度な技術を持ったミサイルを開発する一方で、ミサイル防衛の分野では、いまだにこちらに向かってくるミサイルを(高額な)迎撃ミサイルで一つずつ撃ち落とさなくてはいけないジレンマに直面している」と指摘した。そして、こうしたジレンマは、レーザーのようなエネルギーを目標に照射して破壊する「指向性エネルギー兵器」(DEW)が十分に実戦配備されるまで続くとの見通しを示した。DEWは軍事上、コスト面で大きなメリットがあるとされる。一方、イージス・アショアに搭載する新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」は1発あたり約40億円かかる。

●追いつ追われつの「いたちごっこ」

確かに、アメリカをはじめ、ロシアや中国はマッハ5以上で飛翔する極超音速ミサイルの開発を進めている。そして、その極超音速ミサイルの登場を見越して、アメリカとロシアは早くも極超音速ミサイルを探知・迎撃するシステムの開発に乗り出している。この追いつ追われつの「いたちごっこ」で分かるように、新型ミサイルを開発し、先行した国が優勢さを保ち続ける。

●イージス・アショアの契約総額は既に3470億円

米軍のナンバー2がミサイル迎撃システムの限界をいち早く示す一方で、日本はイージス・アショアの導入を目指してきた。アメリカ国防総省が5月18日に発表した最新のデータによると、イージス・アショアに関する日本のアメリカとの契約総額は既に32億3000万ドル(約3470億円)に膨らんでいる。

この契約はアメリカのFMS(対外有償軍事援助)を通じて結ばれている。日本の会計検査院はこれまでも、FMSを通じた契約額がアメリカの言い値になり、日本が不利益を被っていると指摘してきた。

イージス・アショアはそもそも北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を念頭に、対抗手段として導入が進められてきた。しかし、その北朝鮮も単純な放物線を描く従来の弾道ミサイル以外にも、変則的な軌道で飛行する新型のミサイルなどを次々と開発している。

財政難にあえぐ日本はこの際、3500億円近くの高い買い物をアメリカからするより、事前に相手国の基地などを攻撃する能力「敵基地攻撃能力」の保有を目指すべきではないか。政府は、この能力について憲法上は認められているが、専守防衛への配慮から政策判断として保有しないとし、実際に攻撃能力を持つ方針を示したことがない。しかし、打撃力を保有していること自体がそれを行使しないまでも、抑止力につながる。日本の厳しい財政事情と近隣諸国からの高まる軍事的な脅威を踏まえ、日本にとって本当に合理的判断とは何なのか。憲法9条の改正を含め、国会でも大きな争点として議論すべきではないか。

(参考記事)

日本の敵基地攻撃能力保有、7つの課題

「北朝鮮、弾道ミサイル防衛網突破の核ミサイル製造に躍起」米議会調査局が報告書

米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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