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続・「英検1級をとると幸せになる」という調査結果の衝撃(?)

寺沢拓敬言語社会学者

先日のこちらの記事の続きである。

「英検1級をとると幸せになる」という調査結果の衝撃(?)(寺沢拓敬) - 個人 - Yahoo!ニュース

前回の記事では、「英語ができたら高収入」という調査結果を、拙著『「日本人と英語」の社会学』での研究結果を踏まえながら批判した。

今回は、英検の報告書の本丸である「英検一級と主観的幸福感」について見ていこう。

前回の結論も「擬似相関」だったが、今回の結論もそうなりそうだ。しかしそれとは別に、英検の作図したグラフにはなかなか味わい深いところがあるのでそちらを紹介できたらと思う。

英検取得級が高いほど幸福度が高い!?

まずは報告書の該当箇所を引用する。

英検最終取得級別の、仕事での英語の必要性と、幸福度について調べました。英語の必要性を感じている方ほど、幸福度は高く、英検の最終取得級が高い方ほどその傾向が強いことが分かりました。

その根拠となったのが以下の図である。ソースはこちら

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擬似相関

第一に、「英語ができる」と「幸せ」に相関があると言われても、多くの人はまず学歴を媒介した擬似相関を疑うだろう。

つまり、「英語力→←主観的幸福度」は実際のところ以下のような図式になっていると思われる。

英語力←学歴→主観的幸福度

(欧米ではそうでもないらしいが)日本では学歴が主観的幸福感に影響を与えているらしい(たとえばこちらの論文を参照)。そう考えると上の図式ももっともらしい。

とは言え、私自身この問いをまじめに分析していないので実際のところはわからない。問いとしてちょっと奇抜すぎるので、拙著『「日本人と英語」の社会学』)でも取り扱わなかった。

ひょっとしたら、英語力ができるようになると、達成感や世界が広がった感覚などを増幅して、(たとえ学歴等をコントロールしても)幸福感を上昇したりするかもしれない。たぶんないと思うけれど・・・。

東京大学の高史明氏からは以下のようにキャリーオーバー効果の可能性を教えてもらった。

「あなたは英検何級を持ってますか」とか「英語を活かせていますか」といったような達成感を抱かせるような設問を先に入れると、その後にある「主観的幸福感」が上昇してしまうという指摘である。

そもそもグラフは相関を示している?

しかし、グラフをよく見ると、そもそも相関があるのか怪しく思えてくる。

なぜか分析者は、「英語が必要な人」と「不要な人」を別々に集計しているが、それにどんな意味があるかわからない。シンプルに「英検取得級→幸せ」の効果を見たいなら、その区別は必要ないはずだ。

必要と不要の中間値をとると以下の図のようになる。赤い破線が示しているとおり、幸福度はほぼ横ばいである。つまり、相関は見られない。

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必要群と不要群を別々に集計したのは、相関が出ているかのように見せかけたかったのではないかと邪推してしまう。

印象操作 vs. 印象減退

前回の記事でも指摘したとおり、この英検報告にはデータ分析として不誠実な「印象操作」がちらほらと垣間見える。

最近は市民のデータリテラシーが上がっており、新聞各紙の「印象操作」グラフはすぐ叩かれる。もちろん英検の行っている「特定のサブサンプルの省略」や「特定の集計方法の選択」が印象操作を意図してない可能性ももちろんあり得る。しかし、その場合は、なぜその手続を選択したのか、きちんと記しておくべきだろう。

一方で、実は件のグラフは、「印象操作」グラフどころか、印象を弱めてしまっているグラフでもある。

というのも、図の棒の長さは、主観的幸福度の4段階評価を4点~1点に換算したうえで平均値をとったものである。ということは最大値は4点、最小値は1点だから、始点は1点になるべきだ。

つまり、英検の棒グラフは「0点~1点」の部分が余計である。せっかく、必要群と不要群の差を鮮明に示したいのに、1点分の下駄を履かされているために、その差の印象が薄れてしまっている。

ためしに、私が作図すると以下のようになる。1.0点を始点にしたほうが、差の印象が大きくなることがわかるだろう。そして、これは何ら不誠実な操作ではない。

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わざわざ印象減退グラフを作ってしまうところを見ると、上記の「印象操作」グラフもひょっとしたら意図的ではないのかもしれない。

言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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