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最近よく見かける「酵素」って健康に良いの?

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

■雑誌の記事やドラッグストアでも目にする酵素

このところ健康関連の情報に「酵素」という文字をよく見かけます。先日、ドラッグストアに入ったところ、酵素が摂れることをうたったサプリメントを紹介するコーナーが作られていて、現代人では不足しがちな栄養素である酵素という大きなPOP付きの宣伝がされておりました。また、雑誌などをめくると「朝の生ジュースでたっぷり酵素をとりましょう」、「加工食品の摂り過ぎで酵素不足になる」というような酵素を特集した記事も目にすることが増えているように思います。

これだけ酵素が推されていると、いままで酵素のことを気にしたことがなかった人でも、もしかすると私も酵素不足かも?と心配になってしまうかも知れません。

今回は、酵素は食べないと不足するのか、そもそも酵素って何なの?という基本的な疑問について簡単に説明してみようと思います。

■酵素は栄養素?

酵素というものはありとあらゆる生き物があらゆる生命活動を行うためには不可欠なものです。呼吸をしてエネルギーをつくることや、食べた物を消化吸収し、それを元に筋肉や血液をつくるのも酵素がなければ成り立ちません。そんな大事なものが不足してしまうとすればそれは大変なことでしょう。不足してしまう酵素なら食べものから補う必要があると考えたのがアメリカの医師エドワード・ハウエルです。最近みかける酵素の話の多くは彼の提唱した「酵素栄養学」が元になっていると考えられますが、日本で酵素を食べるという話が広まってきたのは新谷弘実医師のベストセラー内で酵素を食べて補う必要があると書いたことが影響していると考えられます。

酵素栄養学の主張を簡単にまとめてみると次のようになります。

・身体には全ての酵素の元となる潜在酵素というものがあり、あらかじめ決められた量をもって生まれてくる。

・酵素はたんなる触媒(化学反応を進めやすくする働きを持つ物質)ではなく生命元素というエネルギーを充電したタンパク質である。

・潜在酵素がなくなれば生命活動を行うために必要な酵素もつくられなくなるので消化酵素を節約することで寿命が伸び、病気を防ぐ事が出来る。

・酵素を節約するために酵素が含まれている生の食べもので補充するとよい。加熱した食べものには酵素はないので消化酵素を余計に消費してしまう。

なるほど、はじめから決められた量しかないので節約しないと長生きできない、なので生の食べものから酵素をとりましょう、という理屈のようです。一見もっともらしく感じてしまいますが、この中にはおかしな部分がいくつもありますので一つずつ説明しましょう。

まず、潜在酵素という言葉ですが栄養学や生化学の教科書には出てこない酵素栄養学独自のものです。生まれながらに決まった量があるとのことですが、潜在酵素というものが身体のどこにどれだけあるのか誰も確認したことはありません。さらに、生命元素というエネルギーの正体も不明ですし、それが存在する根拠として酵素栄養学の本に示されているデータもミジンコの成育温度と寿命の関係という別分野の実験結果が示されているだけだったりします。

そもそも酵素はタンパク質で、食べものや身体に蓄えられたアミノ酸から必要な時に必要な分がつくられるもので不足する事は通常考えられないものですから、食べもので補う必要はないのです。

■では酵素をたべても意味はないの?

潜在酵素はなくて不足も心配しなくてよいこともわかりました。では、生の食べものに含まれる酵素を利用することで消化吸収をよくしたり、健康増進効果が期待できるという話はどうでしょう。例えば、加熱した食品や加工食品ばかり食べていると胃や腸が疲れてしまうから、生の野菜や果物に含まれている酵素をつかって負担軽減のためにという理由で、生野菜と果物の酵素ジュースが勧められたりしているようです。

これについても実際は逆で、生の食材よりも加熱調理をした料理の方が消化が良くなり胃や腸に負担をかけません。お腹の調子が悪いときには生野菜よりもよく煮込んだ野菜スープが食べたくなることを考えれば分かるでしょう。いくら酵素があっても生のジャガイモはかじりたくないですよね。

また、酵素によりデトックスとか生きた酵素が血液を綺麗にするというような話もありえません。酵素はタンパク質からできているので加熱により働きを失ってしまうのですが、胃酸や消化酵素でも分解されてアミノ酸になってから身体に吸収されてしまいます。酵素がその働きをもったまま身体に吸収されたら血液が壊されたり、血管がやぶれたりと大変なことになりかねません。生きた酵素が身体の隅々まで届くなんてことはないのです。

このように大抵は胃酸ですぐに働きを失ってしまう酵素ですが例外もあって、チアミナーゼというビタミンB1を分解する酵素は酸に強くて消化管の中でしばらくの間ビタミンB1を分解してしまいます。そのため、チアミナーゼを沢山含んでいる生の川魚を食べ続けるとビタミンB1欠乏症になってしまう可能性があるのです。同じものばかり食べるのは身体によくないという事例の一つです。

■発酵食品との関係は?

体に良いとされる発酵食品は食べものや微生物に含まれる酵素を利用してつくられます。発酵食品が体に良いとされる大きな理由は、発酵によって元々の食品にはなかったビタミンや生理活性物質がつくられることです。最近は酵素がたっぷりとれる発酵食品というキャッチコピーがありますが、酵素をとる目的で発酵食品をとるのは意味がありません。イメージ優先の便乗商法だと思って良いでしょう。

■今回のまとめ

食べものに含まれている酵素はタンパク質なので、食べても栄養としてはアミノ酸になるだけです。ありもしない効果を期待して貴重なお金や時間を損をしてしまうのはもったいないと思います。

・酵素という栄養素はありませんし潜在酵素も存在しないので不足を心配する必要はありません

・酵素にこだわらず加熱食品も生の食品も両方上手にとりましょう

・食べた酵素が消化吸収されて身体の中で活躍することもありません

・発酵食品の良さは酵素が身体に働くからではありません

・酵素栄養学や生きた酵素という言葉をきいたらご用心

参考資料:

病気にならない生き方-ミラクル・エンザイムが寿命を決める 新谷 弘実 (著) サンマーク出版 (2005)

Howell. Edward. Enzyme Nutrition: The Food Enzymes Concept. Averypub Group Published (1985)

謎解き超科学 ASIOS編 彩図社(2013)

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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