Yahoo!ニュース

じゃがいもは食物繊維が豊富な食品?~食品成分表を使いこなす~

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

 「じゃがいもは食物繊維が豊富で実はヘルシーな食べ物なんです」

 このような論調のネット記事を見かけました。本文ではじゃがいもは食物繊維が豊富な食品であり、さつまいもと比べても4倍の食物繊維が摂れると紹介されていました。

 筆者の認識では、じゃがいもにはレジスタントスターチと呼ばれる難消化性のデンプンが含まれていますが、さつまいもに比べると食物繊維が少なく、比較的血糖値を上げやすい食品です。しかし、日本食品標準成分表(以下成分表)のデータも添えて比較をしており、その数値自体は間違いとはいえません。本当にじゃがいもは食物繊維が豊富な食品なのでしょうか?

■実は分析方法に違いのある成分表の食物繊維

 新・旧成分表の食物繊維量の比較は以下の通りです。

 調べてみると食物繊維量が八訂の成分値は七訂に比べなんと7倍近くも増えているようです。確かに数字だけ見るとじゃがいもは食物繊維が豊富な食品といえそうです。しかし、どうしてこれほどまでじゃがいもの食物繊維は増えてしまったのでしょうか。

 実は食物繊維の分析方法が八訂から一部の食品で新しい分析方法が採用された影響であり、じゃがいもの食物繊維自体が増えたわけではありません。

 成分表の成分値の分析にはそれぞれの時点において最適な分析方法を用いており、技術の進歩等により、より正確な分析ができる方法に変わることがあります。数値の読み取りには専門的知識が要求されます。

■新しい食物繊維分析法

 成分表の食物繊維分析法には「プロスキー変法」が用いられており、この方法では食物繊維は不溶性食物繊維と高分子量水溶性食物繊維が分析できます。しかし、一部の食品に多く含まれる低分子量水溶性食物繊維はこの方法では分析できません。そこで、八訂の成分表では、低分子量水溶性食物繊維も分析が可能な「AOAC2011.25法」が使われるようになりました。ちなみに体内で消化されにくく血糖値も上がり難いとされる、レジスタントスターチも低分子量水溶性食物繊維に分類されます。そのため、七訂の成分表から八訂の成分表で計算し直すと、食事の食物繊維量が多く(脚注)なります。

 そうはいうけれど、実際にじゃがいもの食物繊維量が多いのなら問題ないのでは?という意見もあると思います。実はそんなに単純な話ではないのです。

 表の緑と赤でマークした数値を見てください。(水煮)のじゃがいもでは(生)に比べて食物繊維量に違いがあることがわかります。これは生の芋に含まれていたレジスタントスターチが加熱により変性し、消化吸収しやすいデンプンに変化している事を(主に)意味します。

じゃがいもは通常生で食べる食品ではありませんから、じゃがいもの栄養価を計算する時には加熱したものの成分値を見るのが正解なのです。生のじゃがいもの数字を見て、食物繊維が豊富と紹介するのは明らかな間違いです。

 また、「じゃがいも」は「さつまいも」よりも食物繊維が多い、というのも誤りで、新しい分析方法を採用した(焼き)の成分値ではじゃがいもよりも食物繊維が多いことがわかります。食物繊維の多い少ないを比較する際には、同じ分析方法かを確認してから行うようにしましょう。

 余談になりますが、2023年に成分表に加わった新しい食材の一つ堀川ごぼうですが、これも新しい食物繊維分析法が採用されている食品です。普通のごぼうに比べ食物繊維が3倍という謳い文句で今後販売促進されるかもしれませんが、通常のごぼうに比べて優れているとはいえないでしょう。ごぼうも新しい分析法を用いると高い分析値がでることは食品分析業界では常識です。

■今回のまとめ

・じゃがいもは他の芋に比べて食物繊維が豊富だというのは成分表を理解できていないことによる誤解

・最新の食品成分表には食物繊維が激増した食品があるが、分析方法が変わったことが理由で実際には増えていない

・じゃがいもは生で食べる食品ではないので成分値は加熱したじゃがいもの値を使用するとよい

・食品によって分析方法が違うこともあるので単純比較に注意

・食品成分表を使いこなすのには専門的な知識も必要

 最新の食品成分表は文部科学省のサイトで公開されており、エクセルファイルとしてダウンロードすることもできます。成分値を眺めてみると意外な発見があるかもしれません。

(脚注)日本人の食物繊維摂取量は成人でなるべく25gほど、当面の目標として20gぐらい1日に摂りましょう、と推奨されているが、この推奨値は七訂までの成分表で分析された食事調査の結果をもとにつくられたものであるため、八訂の成分表で計算してそれを上回ったからといって、望ましい食物繊維量を達成したとはいえないので注意が必要。専門職はそのあたりも踏まえて栄養相談にあたってほしい。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

成田崇信の最近の記事