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「IgGが陽性だから除去食」で悲劇も 食物アレルギー検査にIgG抗体を用いない理由

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロイメージマート)

食物アレルギーの血液による検査は、一般的に『IgE抗体』で行われます(IgE抗体に関して知りたい方は、『夏に多い”青身魚のうそアレルギー”とは?』を御覧ください)。

しかし、『IgG抗体が陽性だから除去食』という指導を受けて受診される方が少なからずいらっしゃいます

たとえば患者さん(私の場合は小児科なので保護者さん)は、こんなふうに事情を説明されます。

『前のクリニックからは、IgGが陽性だとアレルギーだから除去しましょうと言われました。でも、除去するのは大変で…。いままで食べてましたし。どうしましょうか?』

実は、食物の除去食を考える上で食物に対するIgG抗体を検査することは、日本だけでなく、欧州も米国でも、一般に推奨されていない方法です(※1、2)。

イラストACなどから筆者作成
イラストACなどから筆者作成

(※1)Journal of Allergy and Clinical Immunology 2010; 125(6): 1410.(日本語訳

(※2)〔学会見解〕血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起    

 

IgG抗体ってどんな抗体なのでしょうか?

イラストAC
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ここで、例えをだしてみましょう

風疹は、妊娠中に罹ると胎児に大きな影響がおこる感染症です。

ですので、妊娠前から風疹になる可能性が低いかどうかを調べておくことがほとんどです。

そしてあなたが『風疹に対する抗体がついているかどうか調べてください』と病院に受診したとしましょう。

そのときに調べる抗体は、『風疹に対するIgG抗体』です。

『風疹に対するIgG抗体』の量が多いほど、風疹に対する防御力が強いことを示します。

イラストACなどより筆者作成
イラストACなどより筆者作成

『風疹に対するIgG抗体』が高い場合にはどのように思うでしょう?

イラストAC
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『風疹に対するIgG抗体』が高ければ、『風疹に対する抗体がついていて安心だ』と思いますよね。

一方で、この風疹に対するIgG抗体は、例えば風疹ウイルスにさらされなければ(予防接種を追加しなければ)、徐々に下がってきて、風疹に罹りやすくなってくることもわかっています。

ですので、一人目のお子さんを妊娠するときに『風疹に対するIgG抗体』を調べていたとしても、二人目のお子さんを妊娠するときには再度調べると、より安心でしょう。

アレルギーが悪化しているかどうかを調べる抗体はIgG抗体ではなく『IgE抗体』

さて、アレルギーが悪化しているかどうかを調べる抗体はIgG抗体ではなく『IgE抗体』です。

たとえば、卵白に対するIgE抗体が高ければ、卵白に対して症状がおこる可能性が高くなると考えることができます(※3)。

J Allergy Clin Immunol Pract 2018; 6:658-60.を参考に筆者作成
J Allergy Clin Immunol Pract 2018; 6:658-60.を参考に筆者作成

(※3)J Allergy Clin Immunol Pract 2018; 6:658-60.

食物に対するIgG抗体は何を示しているのでしょうか?

IgG抗体のなかでも特にIgG4抗体は、食物アレルギーが改善してきているときに上がる抗体として研究目的で行われています。

例えば、食物に対するIgG4抗体は、『症状が出ない量で少しずつ、アレルギーになっている食べ物を食べていると、食べられる量が増えていく』ことがわかっています。

その際に、IgE抗体はいったん上昇して、その後下がってきます。

一方でIgG4抗体は、一貫して上がっていくのです。

Allergy 2020; 75:1017-8.を参考に筆者作成
Allergy 2020; 75:1017-8.を参考に筆者作成

そのため、食物に対するIgG(4)抗体は、その食物が食べられるようになってきているかどうかの指標として使われています(※4)。

『防御抗体』という言葉もあるくらいです。風疹に対するIgG抗体と似た感じに思えますよね。

高いほうが安心に思えるような値ともいえるでしょう。

(※4)Allergy 2020; 75:1017-8.

すごくざっくりお話すると、

IgE抗体は、アレルギーが悪化しているときの指標。

そして

IgG(4)抗体は、すでに食べられている場合に上がりやすい値

といえばいいでしょう。

筆者作成
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食物に対するIgG(4)抗体が陽性とは、どのように判断すればよいでしょうか?

写真AC
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食物に対するIgG(4)抗体は、現状では保険で実施することはできません。

そして、一部の医療機関において自費で行っているケースが見受けられます。

IgG(4)抗体が陽性だった場合は、どう判断するといいでしょう。

もう皆さんはおわかりですよね。

風疹のIgG抗体が陽性であったときのように、その食べ物が食べられる可能性が高いことを示しているといえるでしょう。というか、『普段から食べている食物なので、陽性であることが当たり前』なのです。

ですので、『IgG(4)抗体が陽性だから除去』の指標をするのは、考えものといえるでしょう。

でも、『除去しましょうと言われると心配だから除去をしておきたい』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。

でも、今まで食べられている食物をあえて除去をすると、心配なこともあるのです。

現在食べられている食べ物をあえて除去をすると、なにか問題があるのでしょうか?

写真AC
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風疹に対するIgG抗体が、たとえば予防接種を何度か繰り返さないと刺激が少なくなり風疹に対するIgG抗体は下がってきます。

だから現在、子どもに対する風疹の予防接種は2回行われています(麻疹と同時に接種する『麻しん風しん混合ワクチン』として定期接種になっていますよね)。

同じように、ある特定の食物を除去すると、IgGが下がり(場合によってはIgEは上がり)、かえってアレルギーを起こすようになる場合があるのです。

例えば、こんな報告があります。

もともと小麦アレルギーがあったお子さんが、3歳で小麦を食べられるようになりました。

その後、自由に小麦を食べていたのですが、9歳になったときに完全除去除去を指示されて除去を始めたのです。

すると小麦に対するIgE抗体が急上昇して小麦に対して症状が起こるようになり、16歳で小麦を誤食してアナフィラキシーで亡くなったという痛ましい報告です(※5)。

Allergol Int 2015; 64:203-5.を参考に筆者作成
Allergol Int 2015; 64:203-5.を参考に筆者作成

(※5)Allergol Int 2015; 64:203-5.

さらに、こんな報告もあります。

食物を実際食べてみて症状があるかどうかを確認するテスト442回を行い、その食物をテスト前に普通に食べていたのに除去をしたがためにかえって食べられなくなってしまった例がなかったかを確認したのです。

すると、アトピー性皮膚炎の疑いで食物除去となっていた45人中6人( 13.3%)は、不要な除去食の指導で食べられなくなったのではないかと推測されました(※6)。

(※6)Ann Allergy Asthma Immunol 2019; 122:193-7.

すでに食べている食物では陽性になっていることの多いIgG(4)抗体を指標に、食べ物を除去をすることを一般的に推奨していない理由です。

ただ一方で、過敏性腸症候群のひとの一部に、その食物に対するIgG(4)抗体が高い傾向があるという報告もあります(※7)。このことをもって、IgG(4)が有用というより、除去食をする場合はよほど慎重に行わなければならないことを示しているといえます。

(※7)Gut 2004; 53:1459-64.

食物アレルギーやアトピー性皮膚炎が心配な方は、専門医を受診されることをお勧めします

写真AC
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すくなくとも、IgG(4)抗体を指標に除去食を指導することは標準的な方法ではありません。

例えば、『食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎』の治療の目的でIgG(4)抗体を調べることは推奨できません。

もし食物アレルギーの心配がある場合は、専門医に相談されることをお勧めいたします。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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