「ウイング兼ストライカー」。ルーカス・ポドルスキーの今日性と日本サッカーの特殊性
神戸に加入したルーカス・ポドルスキーが、Jリーグデビュー戦となった大宮との一戦で、2ゴールをマーク。実力のほどを見せつけた。現在32歳。老け込んでしまったという印象はない。2014年、セレッソ大阪にやってきた同レベルのスター選手、ディエゴ・フォルランより、確実に期待できそうである。
任せられたポジションは2トップの一角。ポドルスキーは神戸のネルシーニョ監督からストライカーとしての役割を求められている様子だ。
最後に所属したガラタサライ(トルコ・15−17)でも、ストライカーとしての出場だった。主に4−2−3−1の1トップを務めたが、その前に所属していたアーセナル、そしてドイツ代表では、4−2−3−1の3の左あるいは、4−3−3の3の左を務めた。ストライカーと言うより左ウイングである。
ポドルスキーが最初に世界の舞台に立ったのはユーロ2004。グループリーグの最終戦対チェコ戦に途中交代を果たした。
その2年後、21歳で迎えた自国開催のW杯には7試合すべてに出場。3ゴールをマークし、ドイツの中心選手に成長した。大会後、FIFAから大会の最優秀若手賞にも選出された。メッシ、C・ロナウド等を抑えて。
この頃のポジションは、2トップの一角だった。ストライカーとしてプレイしたが、その2年後、23歳の時に迎えたユーロ2008には4−2−3−1の3の左として出場。以降、左ウイングとして選手生活を送った。15〜16、ガラタサライに移籍するまで。
ドイツ代表に選ばれた頃、そのサッカーは2トップで、サイドアタッカーは1枚しかいなかった。つまり守備的だった。だが、監督がヨアヒム・レーヴになると、方向性は大きく転換する。攻撃的に一変した。
それに伴い、サイドアタッカーの数も各1人から各2人に変化。2トップの一角だったポドルスキーは、左ウイングに役割を変えることになった。とはいっても、元来はストライカー。ウイングのポジションにいながら、持ち前のキック力を生かし、強シュートを狙った。
もちろん、メンバー交代などがあると、センターフォワードに移動することもしばしばで、つまり多機能な「ウイング兼ストライカー」となった。
単なるストライカーでも、単なるウイングでもない。ポドルスキーの特殊性はそこにある。そしてそれはドイツサッカーの変化とも密接に関係している。ポドルスキーの登場と時を同じくして、ドイツは攻撃的サッカーに生まれ変わった。それを境に成績は上昇。ユーロ2008準優勝。2010年南アW杯準優勝。ユーロ2012準優勝。2014年ドイツW杯優勝。高位安定を維持した。多機能性を武器に活躍したポドルスキーが果たした役割は大きい。
ウイング兼ストライカー。ウイングでありながら高い得点力を備えたアタッカーは、ポドルスキーだけではない。ロッベンしかり。ベンゼマしかり。ネイマールしかり。グリーズマンしかり。枚挙にいとまがないが、そのど真ん中に位置するのがC・ロナウドでありメッシだ。
ストライカーなのに、ウイング的な技量を備えた選手。真ん中しか出来ない選手。サイドしかできない選手に、スター選手の素養はないとさえ言いたくなる。いまの時代を端的に映し出す選手たちなのだ。
他方、日本代表の左ウイングとして不動の地位を確立しつつある原口元気はといえば、昨季、ブンデスリーガでわずか1ゴールしか奪っていない。ボールを受けても、シュートを決める姿はもとより、放つ姿さえ、連想できない。ストライカー的な魅力はほぼゼロだ。
売り出し中の乾貴士も同様だ。昨季終盤のバルセロナ戦で2ゴールを挙げ、ハリルホジッチのお眼鏡に叶い代表入りを果たしたが、昨季の通算ゴールは3。バルサ戦以外では1点しか入れていない。26試合も出場しているのに、だ。ポドルスキー的な魅力は、一切ない。
センターフォワードはどうだろうか。最近スタメンが続く大迫勇也。彼にウイング兼ストライカー的な魅力があるかといえばノーだ。サイドでボールを受けたとき芸がない。ポドルスキーのように、相手を縦に外して前に出る推進力がない。
唯一、見込めるのは岡崎慎司になるが、彼の場合は、マイボールではなく相手ボール時に限られる。相手のサイドバックの攻め上がりを抑止するというウイングに課せられた、裏のテーマは備えているが、表のテーマ、すなわち、突破力、ドリブル力、フェイント力はない。
真ん中しか出来ない人。サイドしかできない人。日本のアタッカー陣はほぼ真っ二つに大別される。機能性の低い集団だと言わざるを得ない。得点力が上がらない大きな原因だと言える。
無い物ねだりを承知で言えば、ポドルスキーこそ日本代表に、最も欲しい選手。日本サッカー界にとって希少なタイプなのだ。単なるストライカーではない。ウイング兼ストライカー。ポドルスキーに学ぶ要素は多い。