ロックが伝えるメッセージ:イジメられていた自分へ送る手紙のような曲、BACK-ON「Dear Me」
日々ニュースで、イジメや自殺が社会問題となっている。そんななか、先日、渋谷のライブハウスRUIDO K2でおこなわれたBACK-ONのライブで、ラップ担当のTEEDAによるMCに心を打たれた。彼が、いじめられていた過去を振り返って書いた「Dear Me」という楽曲の存在に衝撃を受けたのだ。そこで、当日のMCを掲載しながら、歌詞をてがけたTEEDA本人に、なぜいまこの楽曲を世に出したのかを聞いてみた。
2016年2月7日(日):BACK-ON@渋谷RUIDO K2
〜ライブ中「Dear Me」前のTEEDAによるMCを全書き起こし〜
次の曲なんだけど、あの、前のツアーでさ。「Dear Me」って曲をやったんだけど。YouTubeにしかPVが出てないんだけど。(それを観た)高校の先生から電話がかかってきて。イジメで悩んでいる生徒がいて、その子に、「Dear Me」のURLを教えて聞かせてあげたらしくて。それで、イジメの問題が無くなったわけじゃないけど、すごい前向きになれたって聞いて。俺は少しでも、この曲で前向きになれたら、ポジティブになれたらと思って作ったんだけど。やっぱりCDになってないと聴けない(人もいる)じゃん? 今回アルバムの『PACK OF THE FUTURE』に入れることにしたのね。
「Dear Me」を知らない人もいると思うので説明するけど。おれ、こういうナリしてるからさ、あまりイメージつかないかもしれないけど。……小さい時、小児アトピー性皮膚炎がすごいひどかったわけ。血と膿みが出て、一日シーツを3回とか変えなきゃいけなくて……。すごい痒いし、つらかったんだけど。でも、友達に「気持ち悪い」とか「うつる」とか言われて、いや、うつんないんだけどさ。友達と遊んでいても、友達のお母さんが「うちの子と遊ばないでくれる? うつるから」って。いや、だから言ったからうつらないって。そんなことを小さいときから言われていて……。すごい、悔しくて……悲しくて(沈黙)。
母ちゃんには「そんな体で産んでごめん」って言われて……。すごい、悔しくて。だからなんとか、ぜってー負けねぇって思って、いままでやってきて。今はなんとか、やれてて。……だけど、俺だけじゃなくて。もっといろんな、辛い思いをしてるヤツがいっぱいいて。そいつらの背中を、俺の経験だけど押せたらと思って、この曲作ったんだよ……。今の俺が、あの頃の俺に送った手紙みたいな曲です。聴いてください「Dear Me」。
●なぜいま、「Dear Me」という楽曲を世に出そうと思ったのですか?
TEEDA:最初は悩みました。弱い自分を見られたくない思いと、過去をフラッシュバックする辛さで……。だけど、音源化を決めてなかった前回のツアーでやってみたら、泣いてくれたお客さんがいたんです。それこそ僕と同じ小児アトピー性皮膚炎でイジメられていたとか、友達の輪に入れずハブかれていたとか。人間関係で悩んでいたとか。いろんな悩みを持っている子たちに共感できる部分があったみたいで。それで、いま現在戦っている子たちの、少しでも背中を押せるように届けられたらと思って、「Dear Me」をレコーディングしました。
●YouTubeにアップされた、手書きによるリリックビデオ(※歌詞が表示される映像)もご自分で?
TEEDA:僕とマネージャーで作りました。画用紙にマジックで歌詞を書いて、マネージャーが上から撮影して編集して。撮り直しもいっさい無しで。漢字を間違えてるんですけど、でもなんか一回で書きたくて。「間違ったって良い」という思いを込めて一発撮りで「Dear Me」の映像を作りました。
●TEEDAさんが、イジメを乗り越えられたのはどうしてだと思いますか?
TEEDA:幼稚園から小学生と、小児アトピー性皮膚炎がひどくて、一日3回とかシーツを変えなくちゃいけなかったんです。友だちからは「気持ち悪いって言われて、いじめられて。母親からは「ごめんね」と言われて。「なんでこんな体で産んだんだよ!」って反抗したこともあったし……。だけど、親父には「負けて帰ってくるんじゃねぇよ!」としか言わなれなくて。で、どうすれば打破できるかをずっと考えてました。イジメてくる奴に媚びたこともあったし。でも変わらないんですね。じゃあ喧嘩を強くなろうと思って。ひとりで筋トレして鍛えて。高学年くらいになったとき、イジメられていることが頭にきて、とうとう爆発して、相手を倒してしまって。「あ、俺でも勝てるんだ」って気がついて。でも、その結果、自分がイジメる側にまわる悪い方向にいっちゃったんですよ。いままでの反動で「全員にリベンジしてやろう!」みたいな気持ちになってしまって。でも、結局イジメる相手と以前の自分がダブってしまって。虚無感ですね……。そこから変わりました。それに、後々ちゃんと向き合って話してみたらみんないいヤツらだったんです。
●紆余曲折がありながら、人とつながれた経験があったんですね。
TEEDA:このままだと、またイジメの連鎖がはじまると思いました。そもそも、子供の頃って、変なこじれた関係性があって。グループ内の一部の人の特権意識なのか、素直になれないというか。問題は、グループならではの空気感ってヤツですよね。それがイジメに向かわせていくんだなと思って。
●それをストップする気持ちを持てたのは、両者の気持ちがわかったからなんでしょうね。
TEEDA:それこそ、イジメられていた相手へリベンジしていた時、たまたま自分の母親が自転車で通りかかって、俺が相手を馬乗りにして殴っていたので、それを見た母ちゃんがブチぎれたんです。その場で俺が母親にボコボコにされて(苦笑)。「お前そんなことして気持ちいいのか?」って言われて。ふと我に返って。
●いい家族ですね。
TEEDA:でもけっこうハードな家庭だったんです。……母ちゃんはその後、自殺しました。……じいちゃんから暴力を振るわれて、それから逃げるようにお酒を呑むようになって、アル中になって精神的に病んでしまって……。小さい頃から親父は仕事一筋でした。姉ちゃんと妹がいて、姉ちゃんはすごい不良だったんですけど、朝飯と晩ご飯とか全部作ってくれて。全部、自分たちでやらなきゃいけなかったんです。母ちゃんはもういないですけど、家族は大事で、いつも連絡を取りあって乗り越えてきた感じです。
●すべてを乗り越えての「Dear Me」なのですね。
TEEDA:いまでも、イジメなどで自殺のニュースって多いですよね。俺が何か言えるとしたら、今でこそ音楽やっていて、それこそ家族もいるんですけど。でも、当時は、一生このままイジメが終わらないんじゃないかなって思っていました。小児アトピー性皮膚炎もひどかったから、前向きなことなんて全然考えることが出来なくて……。服を着替えようとしても皮膚に張り付くんですよ。着替えるだけでも痛くて……。それこそ、恋愛や結婚だって難しんだろうなって思ってました。しかもイジメられて。夢なんてまったく持てなかったですよ。
●それは辛いですね……。
TEEDA:でも、今から思えば、イジメられていたのは人生のほんの一瞬の時間だったりするんです。もちろん、その当時は相当長く感じられましたけどね。でも、自分の体験として乗り越えられた時に、ぜんぜん景色が変わって見えたんです。「ああ、こんなに世の中って楽しいんだ!」と。だから自殺を選んでしまうのはもったいないなって。逃げていいと思うんですよ。もちろん、狭いコミュニティの中にいる子は、選択肢が無いように感じていると思う。でも、避難場所はあるはず。逃げてから考えればいいと思う。そうじゃないと、ちゃんと考えることすらできないから。嫌なところにいる必要はない。それこそ、悩んでるヤツがいたらBACK-ONのライブ……というか俺のとこに来てほしいと思ってます。
●小中学校は特に狭いコミュニティーですよね。もっと世界は広いんだけど、それに気がつけない環境ってあるのかもしれません。
TEEDA:誰にも相談できないし、逃げられない。他人が簡単に言う様には、イジメの相談なんて当事者はなかなか出来ないんですよ。親を悲しませたくはないし、引け目というか、恥ずかしい思いだってあるし。悪循環の中にいたら心もゆがんでいくだろうし。どこかで爆発した時には、加害者になってしまうかもしれない。だから逃げる勇気を持って欲しいなと、いじめられた経験のある俺は思います。
●イジメられた時、守ってくれた子とかいました?
TEEDA:いましたね。すっげぇ嬉しくて……。その子には大人になってから、地元の呑み会で会えたんです。でも、俺は中学、高校と悪かったので、強いイメージを持っていたみたいで。「あんときさ、助けてくれてすっげぇ嬉しかったんだよね!」と言ったら、「えぇ? そんなことしたっけ?」って。ぜんぜん覚えてないんですよ(苦笑)。それこそ他の同級生と話しても「イジメられてたっけ?」って言われたりとか。俺からしたらすごく大きな出来事だったんですけど、周りからしたら気がついてもなかったのかなって。いま思えば、短い時間だったのかなって。生き延びれたから笑って話せるんですけどね。だからこそ、死んでしまうのは本当にもったいないと言いたいんです。なので、ちょっとでも勇気を与えられたら、そいつは変われるんだと思っていて。それで「逃げちゃおう!」って思えるきっかけを作れて、再スタートがきれればそいつは楽になるだろうし。……『Dear Me』は、そんな過去の自分へ向けた、手紙のような楽曲なんです。
●「Dear Me」という楽曲があるということを、多くの人に伝えたいと思いました。「Dear Me」が聴けるアルバム『PACK OF THE FUTURE』は、今回完全にセルフ・プロデュースだそうですね?
TEEDA:そうですね。いままでいろんな方から吸収してきたことを活かして、期待に答えられるように全力で作りました。純度100%、BACK-ONな楽曲たちです。
●「Dear Me」のトラックはデモの段階から、近い雰囲気なのですか? ピアノのカノン的なフレーズが印象的で。
TEEDA:この曲はデモをギターボーカルのKENJI03が持ってきて、聴いてメンバーで意見出しあって固めていきました。元はループものっぽい感じで、これじゃピアノ・バラードすぎるなと思って。でも、このトラックにメッセージを乗せたら響く楽曲になるんじゃないかなって。もともと、音楽で世界を変えられるって思っていたんです。でも、だんだん世の中を知って、音楽で世界は変えられないなって思うようになった時期もあって……。だけど、音楽で人の心を動かす事ができるんだし、それで人が動けば結果的に世界を変えることも出来るんじゃないかなって今はまた思えていて。これからも背中を押せるような音楽をBACK-ONで届けていきたいと思っています。
●「Dear Me」は、TEEDAさんの熱量の高いラップでのメッセージはもちろん、KENJI03(ヴォーカル&ギター)さんによる、未来から届く自分の声のような表現力の高さなど、BACK-ONのバンドとしての奥深さを感じました。
TEEDA:ありがとうございます。「Dear Me」、届いてほしい大切な楽曲です。
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