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「思わぬ危険」チェック 年末年始の帰省先でお風呂やハザードマップの総点検(29日16:45追加版)

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
思わぬ危険をチェック。家族でお風呂や水害対策の総点検をしてみては(写真:アフロ)

 年末年始、帰省先で家族に再会して楽しい時を過ごしていますか?大切な家族にはいつまでも元気でいてほしい。今年は、せっかくのタイミングですから、帰省先のお風呂や周囲の水辺の安全、さらに水害対策を家族で総点検して、溺水の「思わぬ危険」のチェックをしてみませんか。

 高齢化社会、元気で健康な高齢者が増えているにもかかわらず、突然の事故で命を落とす危険度が増しています。例えば65歳以上で増える転倒事故。その数とともに急増しているのが浴槽溺水と用水路やため池への転落溺水です。さらに、台風などによって引き起こされた水害で今年犠牲になった人の多くが高齢者でした。

お風呂

 「入浴中に寝てしまうことが増えていないかどうか」について、65歳以上の方には特に注意して聞いてみてはいかがでしょうか。また、浴槽から立ち上がる時に、「立ちくらみを感じたことがなかったかどうか」についても聞いてみるとよいでしょう。

 それまで健康に全く問題がなかったのに、急なめまいなどで意識を失い、浴槽でそのまま溺れる。本人も家族もそのような心配を全くしていなかったのに、ある日突然、急に命を失う溺水事故が全国で多発しています。その総数は交通事故で命を失った人3,532人(2018年)を大きく上回ります。

 厚生労働省の発表では、家庭内浴槽にて、溺れて命を失う人は2018年の年間で5,398人、そのうち65歳以上の方の数は5,029人でした。最近は5年間で1,000人以上のペースで増えています。

【参考】家庭での浴槽溺水 浴槽の形状と溺れる年齢層の知られざる関係

 帰省時のチェック事項としては、浴槽の構造と前述したお風呂に入っている時の体の調子です。

 昔は垂直壁面で肩まで浸かる深さ60 cmほどの和式浴槽を多くの家庭で使っていました。和式浴槽では座位にて少し前かがみで入浴することが多く、意識を失うと顔面がまず水に浸かります。溺水の危険性が極めて高いのです。逆に深さ45 cmほどの洋式浴槽なら仰向けのような姿勢になるので、意識を失っても後頭部から沈み、溺れるまでに時間を稼ぐことができます。

 浴槽が和式で、意識を失う機会あるいは立ちくらみを感じる機会が多いようであれば、洋式浴槽でしかも保温性の高いユニットバスにして、滑り止めや手すりを適切に設置することを検討する時期にきているかもしれません。

用水路・ため池

 「最近、転びやすくなったかどうか」についても、65歳以上の家族には特に注意して聞いてみてはいかがでしょうか。帰省先周辺で用水路やため池が多くみられる地域では、そういった灌漑施設への転落の危険性が高くないかどうか、周辺をよく観察します。

 用水路やため池で溺れて、全国で例年100人くらいが命を落としています。多くが65歳以上で、事故は歩行中の転倒と切っても切れない関係にあります。用水路事故の多い富山県では、調査の結果、65歳以上の方が「自分は用水路に落ちない自信がある」と答えた割合が、それよりも若い年代でそう答えた割合よりも高くなりました。要するに、「ここまで用水路に落ちずに生きてこられたから、大丈夫」と思いたいところですが、体は年齢を重ねるとともに急速に衰えてきています。本人には、なかなか気が付かないものです。

【参考】防げ、用水路の水難事故 来年度から国が予算化を検討

 「最近、転びやすくなった」という答えは、運動機能の衰えを示しています。よろけたり、つまずいたりして、その先に用水路等があり溺水する例が用水路等の事故の多くを占めています。運動機能の衰えは、家族がまず気が付かなければならないことでもあります。

 雪国では、図1のように、屋根から落とした雪を排除するのに流雪溝や用水路を使います。水の流れを使って雪を流して始末します。よくある事故は、雪の塊が水の流れをせき止めてしまった時。詰まった雪を排除しようとしてスコップを突っ込んだり、足を突っ込んだりして、急に水が流れた時にその水に体ごともっていかれます。毎年やっている除雪作業。歳を取ったとしても例年のことなので運動機能の衰えに気が付かずに作業に入ります。年末年始の帰省時に家族でそういった事故情報の共有を行ってみてはいかがでしょうか。

図1 雪国の用水路と家屋の位置関係。庭のすぐ先に雪が排除できる水路がある。屋根の雪も水で消す工夫も見られる(29日16:45追加、新潟県湯沢町にて、筆者撮影)
図1 雪国の用水路と家屋の位置関係。庭のすぐ先に雪が排除できる水路がある。屋根の雪も水で消す工夫も見られる(29日16:45追加、新潟県湯沢町にて、筆者撮影)

 用水路等の事故防止について、都道府県が主導する対策について、国の来年度予算案に全額補助が盛り込まれることになりました。地域ごとに危険度判定を行い、それを自治体で集計して、対策の優先度を決めて、ハードとソフトの両面で事故対策事業が行われると思われます。前もって、家族の力で危険箇所の炙り出しと危険度をチェックしてみてはいかがでしょうか。危険箇所のチェックも一人で行うのではなく、複数の人で安全を確認しながら行いたいものです。

ハザードマップ

 「帰省先の浸水想定は何mか。」最新のハザードマップポータルサイト(29日16:45追加)をこの機会に確認されたらいかがでしょうか。想定される最大浸水深さを参考に、洪水が予測される時には2階に避難すればよいか、隣近所の建物あるいは高台に行くべきか。車で避難するなら、どのようなルートを使って避難所に向かうべきか。自治体の出す避難情報に従って行動すべきことについてメモを残して、判断に迷った時でも的確に行動できるようにしておきたいものです。メモのコピーが手元にあれば、災害時に離れた家族が今どこにいるのか推測がつくようになります。

 台風などによる水害で、今年も多くの方が命を落としました。もちろん、早めの避難にこしたことはないのですが、夜中で雨が激しかったところではついつい避難が遅れた人も。平屋に住んでいて垂直避難が不可能だったとか、2階があるにもかかわらず1階で就寝していて2階に避難できなかったとか。避難所に向かう・家族を迎えに行く途中で低い土地に入り込み、車ごと流れにのまれたとか。特に高齢者が犠牲になる例が目立ちました。こういったことを参考にされたら、より具体的にイメージが湧くと思います。 

【参考】愛車、流されます 洪水時に車内は避難所にならない現実

まとめ

 年末年始に帰省して再会した家族。全員、歳は確実に重ねています。そして65歳以上で急速に訪れる運動機能の衰えや判断の衰え。それに合わせた安全対策をみんなで話し合ってみてはいかがでしょうか。

 1人の知識や知恵でなくて、家族全員の知識や知恵の総力を駆使できる機会が、帰省です。皆の総力で対策し、新しく迎える1年が安全・安心に過ごせるようにしていきたいものです。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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