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センバツ出場校決定! 波乱の選考会を詳報

森本栄浩毎日放送アナウンサー
選考会は波乱が。東北と北信越は同県2校になったが、近畿は地域性で市和歌山が大逆転

例年より難解な地区が多く、選考結果をご覧になって、「あれっ」と驚かれた方も多かったのではと察する。また、21世紀枠が一般枠の選考に大きく影響することもはっきりした。難航が予想された地区を中心にふり返ってみたい。

東北と北信越は実力でアベック出場

東北は青森山田と八戸学院光星の青森独占となった。県大会では光星に軍配が上がっていたが、ワンステージ上の東北大会では山田が雪辱した。地区小委員会委員長の杉中豊氏は、「山田の気迫が見事だった。両校に力の差はなく、地域性を上回った」として、仙台育英(宮城)と盛岡大付(岩手)を補欠に回した理由を説明した。

敦賀気比の山崎は、昨夏の甲子園でも好投。将来性豊かな大器に連覇の期待が膨らむ
敦賀気比の山崎は、昨夏の甲子園でも好投。将来性豊かな大器に連覇の期待が膨らむ

北信越も、敦賀気比と福井工大福井の同県2校で決着した。ここは、県、地区とも気比が勝っていて、工大福井は失点が多いなど不安材料もあったが、「県大会からの成長と攻撃力を評価」(松元泰・地区小委員長)して、佐久長聖(長野)を退けた。気比はあと一歩で神宮大会優勝を逃したが、「攻守に高いレベルでまとまる。守備も良く、188センチの山崎(颯一郎=2年)の粘り強い投球に連覇の期待がかかる」(松元氏)と福井勢の充実ぶりを強調した。

近畿は地域性で逆転現象が

2校枠の地区で一県独占が続いたのと対照的だったのが近畿だ。昨秋の4強までと、エース村上(頌樹=2年)が高い評価を受けた智弁学園(奈良)まではすんなり決まった。最後の1校は、近畿大会で最も評価の対象となる準々決勝で滋賀学園と延長14回の熱戦を演じた報徳学園(兵庫)ではなく、明石商(兵庫)に7回コールド負けを喫した市和歌山が選ばれた。近畿大会を実際に観た人なら即座に判ると思うが、滋賀学園と報徳の熱戦は今近畿大会のハイライトとも言うべき内容で、「(市和歌山が)コールド負けしたとは言え、6回までは互角で、代打で勝負を懸けた後の救援投手が崩れただけ。6回までの戦いぶりを評価した」(杉中氏)と説明されても簡単に納得のいくものではない。もとより野球は9回まであるし、終盤にこそ力量差が出るものではないか。補足として、「両校は同等の実力だが、和歌山だけが選ばれていなかった。21世紀枠で兵庫の長田が選ばれたことを斟酌してはいない」(杉中氏)と『地域性』が差を分けたと説明した。長田が21世紀枠の選に漏れていたら同じ結果になっただろうか。

21世紀枠に左右された?

以前から述べているように、21世紀枠の選考は一般枠の選考が始まる前に終わっている。選に漏れた学校は一般枠でも選考対象になるから、どこが選ばれたかは一般枠の選考委員にはすぐわかる。

報徳は滋賀学園と延長14回の大熱戦。わずか1点に泣いた。試合内容は十分だったが
報徳は滋賀学園と延長14回の大熱戦。わずか1点に泣いた。試合内容は十分だったが

昨年、33年ぶりに『センバツゼロ』の憂き目にあった兵庫から一挙3校の可能性もあると思っていたから、この報徳の選外は残念でならない。一般枠での同一都道府県3校はルールとして禁じているが、21世紀枠は特別枠なので、この場合の兵庫3校はルールに抵触しない。単純に、「いくら何でも3校は多すぎ」との考えが働いたのではないか。近年の選考は、地域性よりも実力を重視する傾向が強く、前述の東北と北信越は実力と試合結果がそのまま反映された。同じ大会で、地区によってここまで大きく異なった選考がなされると違和感を覚えてしまう。特に近畿は、これまでから当事者を疑心暗鬼にさせるような選考が多かったため、今回、「好例」として兵庫3校を断行してほしかった。

何のための神宮枠か

同じように難解な選考が中国・四国でもあった。高松商(香川)が「神宮枠」を得たため、基準枠数は、中国2、四国3で、中国の3番目と四国の4番目を比較することになっていて、四国は3番手に土佐(高知)が入った。高校野球界随一の人気校、文武両道校として先年、21世紀枠でも出場した名門中の名門だ。四国の準決勝は試合内容が濃かったため、済美(愛媛)とどちらを上にするかは、選考委員の判断によるし、実際に試合を観ていないのであまり詮索しない。かなり微妙だった中国の3番手が開星(島根)になったのも同様だ。問題はこの後である。四国は21世紀枠の小豆島(香川)が選ばれた段階で、4校選出が確定していた。これで抱き合わせの1校も取れば四国5、中国2となり、数的不公平感は拭えない。これも兵庫3校と同様、単純に「多すぎ」ということなのかと思ってしまう。それよりも強調したいのは、四国にもたらされた「神宮枠」は一体何だったのか、ということだ。「仮定の質問には答えられない」(小川信幸・地区小委員会委員長)と跳ね返されたが、両地区の準決勝以降の内容を見る限り、神宮枠がなくても抱き合わせの1校が四国にもたらされた可能性が極めて高い。この論法なら、四国4、中国2にならないと神宮枠の意味がないわけで、極論すれば、「四国の神宮枠で中国が得をした」ことになる。かつて関東・東京が神宮枠を得たときも問題になったが、抱き合わせの選考をされる地区が神宮枠を得た場合は、実にややこしい。21世紀枠も巻き込んだ今回はなおさらだ。選考委員の苦労は重々承知の上で、敢えて述べさせていただいた。

二松学舎の大江は無念

関東・東京の最後の1枠(抱き合わせ)は、花咲徳栄(埼玉)になった。徳栄の高橋昂也(2年)、二松学舎大付(東京)の大江竜聖(2年)はともに全国屈指の左腕であり、両者に差異を見出すのは困難と思われたが、「打線も含めた総合力。攻守にバランスがいい」(磯部史雄・地区小委員長)という理由で決着した。そのほかの九州、東海は無風だった。

21世紀枠はバランスよく

21世紀枠は、大方の予想通り、東の釜石(岩手)、西の小豆島がまず選出された。最後の1校は、宇治山田(三重)、長田、八重山(沖縄)に絞られ、多数決で長田になった。

選考委員会総会は、地区別小委員会を経て、午後に再開。3時から出場校が発表された
選考委員会総会は、地区別小委員会を経て、午後に再開。3時から出場校が発表された

選考理由は、釜石については、東日本大震災の津波被害を受けた地域にあり、親を亡くした部員もいること。「震災のとき、一生懸命に生きた子どもたちが甲子園出場することは被災地にとって大きな喜びとなる」という特別選考委員の意見も添えられた。小豆島は、17人の部員で、神宮優勝の高松商に土をつけていること。「生徒減に悩む学校の希望の星」(選考委員)としての期待感が込められた。同校は来春、土庄(とのしょう)との統合で、「小豆島中央」になり、新しい校舎、グラウンドで野球をすることになる。すでに両校の1年生は同じ制服を着用しているようである。長田は、兵庫公立トップの進学成績を誇る文武両道の伝統校であり、21年前の阪神大震災で最も被害が大きかった地域にあって、防災教育にも力を入れていること。併設される定時制、通信制高校とのグラウンド共用など、厳しい練習環境での頑張りが評価された。私なりに付け加えるなら、先に決まった東西の2校は、いずれも困難な環境を克服しての「地域の希望」的存在であり、性格が似ている。残る1校は、文武両道の伝統校というカラーが濃いチームなる方がバランスがいい。今回、長田と性格が似通っているのは長野、宇治山田(三重)、出雲(島根)と4校もあったため、その中から長田にスポットライトが当たったとみる。震災からの復興途上で、地域に対する支援や、現役生の防災教育への取り組みが、他校との差になったのではないか。9校中、最も困難な環境で好成績を収めた八重山には、少し気の毒な結果になったと思う。選ばれた3校は、一般枠選出校と同じスタートラインに立ったわけだから、本大会での健闘を願ってやまない。ただ、いくら選考委員が否定しても、時系列で先に決まった21世紀枠校によって、一般枠に影響がなかったと納得できるファンがどれだけいるだろうか。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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