世界レベルに力負け。00ジャパンが「日本ではあり得ない」パワーに屈した「幸せ」
第2戦にして事実上の決勝戦
「国内ではまずあり得ない圧力と迫力だった」というU-16日本代表・森山佳郎監督の言葉は、選手に言わせるとなお実感がこもった。「正直、日本では絶対に味わえないフィジカル」と悔しそうな表情と共に振り返ったのは、その圧力にさらされたCBの菅原由勢(名古屋U18)だった。
U-16インターナショナルドリームカップは6月24日に大会の第2試合を迎えた。日本、ハンガリー、マリ、そしてメキシコの4カ国総当たりでの対抗戦だが、第1試合を観た印象からもマリの力が抜けているのは明らかだった。昨年のU-17W杯で準優勝し、U-20W杯でも3位に入るなど、近年の育成年代で飛び抜けた実績を挙げている国でもある。第2戦にして事実上の決勝戦。そういう覚悟は選手にもあった。DF監物拓歩(清水ユース)は試合前日、「マリはこの大会で一番強い相手。でも、ここで負けるようでは世界と戦えない」と意気込んでいた。
「まったく何もさせてもらえない」
だが、2000年生まれ以降の選手たちで構成される“00ジャパン”の面々が試合開始後に味わったのは、「ホントの未体験ゾーン」(森山監督)だった。とにかくボールホルダーに対して厳しく強くプレッシャーをかけてくるマリに対して、なかなかボールを運べない。
「アジアの中では常に3点、4点決めて勝ってきたし、今年に入ってから1敗もしていないチーム。その彼らがまったく何もさせてもらえないくらいのプレッシング、ボールを奪いに来る迫力、足が伸びてくるところがあった」(森山監督)
それでも強い追い風を背に受けた前半は何とか粘り強く戦って、38分には先制点も奪い取った。MF久保建英(FC東京U-18)が右サイドで華麗なドリブルを刻んで折り返し、MF平川怜(FC東京U-18)が中央で合わせる青赤軍団のホットラインが繋がる形でゴールネットを揺らしてみせた。43分にはFW中村敬斗(三菱養和ユース)が決定機を迎えるシーンも作るなど、日本ペースの時間帯もあった。ただ、「ラスト10~15分の(日本が押していた)時間帯にもう1点取らないといけなかった」(菅原)という見方もできるかもしれない。
風下に立った後半は防戦一方だった。記録したシュートがわずか1本という数字が後半の内容を雄弁に物語る。「ボールが前に進まないというゲームは初めてだった」と森山監督を瞠目させたマリのプレッシャーは強烈で、MFモハメド・カマラ、シビリ・ケイタを軸にしたプレッシャーは日本の中盤を機能不全に陥らせた。「一人ひとりの頭がパンクしている感じだった」(菅原)。
52分にはGKのキックミスの流れからMFママドゥ・サマケが中央突破から3枚をかわされて失点。さらに56分にはケイタにワンツーを使った中央突破からのシュートを許し、さらにこぼれ球から強烈な再シュートを見舞われる形で2失点。これには、「失点シーンはもう何も言えなかった。観たことないような形」と森山監督も愕然とするほかなかった。
敗北と収穫
結局、試合は1-2のまま終了。喜びを爆発させるマリの様子と、茫然自失の日本というコントラストが試合内容を象徴していた。フィフティーボールを取れない、相手の強烈な個人突破を止められない、プレッシャーをいなせない……。課題を挙げていけば切りがないような試合だったが、森山監督はそうした課題を若い選手たちが痛感したであろうこと自体をポジティブに解釈する。
「よくぞこの相手とやらせてもらえた。これを経験せずに『世界基準』とか『上を目指す』とか言っていたらダメだな、と。僕らも結構自信を持ってやっていたけれど、薄っぺらい自信だったなと分かった。予選に向けてここでバキッと鼻をへし折られて、このままでは世界大会に出たところで話にならないぞというところをみんなと共有できた」
積み重ねてきたものを「かなりぶっ壊された」(森山監督)のは間違いないが、それもまた収穫。菅原は「この一戦はホントにデカい。後で『負けといて良かった』と思えるようにしないと」と前を向いた。残すはメキシコとの第3戦。マリが負けない限りは優勝の可能性もないのだが、「これがワールドカップのグループリーグだったら、2位に入れるかどうかの戦いになる」と森山監督は新たな意識付けを選手たちに行って必勝の構えで臨む考えだ。
若い選手たちが進化するには刺激が必要で、この日の鳥取には間違いなくそれがあった。結果は残念だったし、大いに悔しがってもらいたいとも思うのだが、日本にいながら強烈な「世界」と対峙し、目指すべき舞台の高さを知ることができた選手たちは幸せ者だったという見方もできるかもしれない。