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新型コロナで首都封鎖!?:小池都知事:自粛疲れとリスクコミュニケーションの心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
新型ウイルス肺炎の世界流行で3/23に行われた小池都知事の会見(写真:REX/アフロ)

首都封鎖。インパクトのある言葉です。

■首都封鎖!? 東京封鎖!? 小池都知事

「首都の封鎖あり得る」。インパクトのある言葉です。オリンピック延期容認につづき、都知事の言葉として注目が集まっています。

東京都の小池知事は、新型コロナウイルスの大規模な感染拡大が認められた場合は、首都の封鎖=ロックダウンもあり得るとして、都民に対し、大型イベントの自粛などを改めて求めました。

 「この3週間オーバーシュートが発生するか否かの大変重要な分かれ道であるということです」(小池百合子 東京都知事)

出典:新型コロナ、小池都知事「首都の封鎖あり得る」:TBS 3/23

■新型コロナウイルス感染への適切な不安、正しく怖がる

私たちは、「適切な不安」を持たなくてはなりません。よく言われるように「正しく怖がる」です。

もしも不安がなければ、どんなに危ない道も用心しないで走って転んでしまいます。不安が全くなければ、試験勉強もしないし、ドアに鍵をかけることもなくなってしまいます。これでは、生活していけません。

ただし、不安は私たちの心を蝕むこともあります。試験に落ちる不安が高まり過ぎれば、かえって試験勉強に手がつきません。試験本番では上がってしまって、実力を発揮できません。不安な状態が長く続けば、心も体も病気になってしまいます。

不安が高くなりすぎると、動けなくなることもありますし、暴走してしまうこともあります。これでは困ります。

必要以上に人々を怖がらせてはいけませんし、油断させてもいけないのです。

■自粛疲れとリスクコミュニケーション

正しい行動のためには、適切な「リスクコミュニケーション」が必要です。専門家や政治家のメッセージが、正しく人々に届かなければなりません。

世間では、「自粛疲れ」などという言葉も出てきました。テレビも新聞も、毎日毎日コロナコロナでは、気が滅入ります。客は減るし、景気は悪い、仕事もひま。こんな状態がいつまでも続いては困ります。

学校の生徒たちは、突然の休校、部活もなし。カラオケもダメだと言われるし、繁華街に出ると白い目で見られることもある。これでは、息が詰まります。

人の心も体も、適度に活動するようにできています。活動が制限され、人との交流が制限されれば、よくうつ状態が出たり、子供若者などはイライラし始めます。

また、ヨーロッパなどと比べると、日本の生活は安定しています。医療崩壊も起きてはいません。

自粛生活にも疲れたし、ストレスはたまるし、もうそろそろ活動を再開しても良さそうだと、少なくない日本人が感じ始めています。

繁華街や観光地にも、少し人が戻ってきたようです。外国人がいないので空いていて、今がチャンスといった宣伝もあるようです。

大阪のライブハウスですら、若い人が集まっているところもあります(地下アイドルのライブ活動などが再開したと大阪の人に聞きました。決してライブハウスが悪者ではないのですが)。

公園などに行くことは、良いことでしょう。必要以上の自粛はよくありません。経済が死んでも困ります。本当に正しい行動は何なのかは難しいのですが、疲れや油断が出てきた面はあるかと思います。

この現状で、適切な緊張感を保つための、「首都封鎖」の発言とも見られます。効果はあるでしょう。

政治家は、必要に応じて、人々を安心させたり、また用心させたり、覚悟させたり、勇気を持たせたりしなくてはなりません。政治家による扇動ではいけませんが、ウイルスに関する正しい知識に基づいて、必要なメッセージを届けることが大切です。

事実や数字だけでなく、気持ち、感情を伝えることが大切です。人は数字では動かず、感情で動くからです。

■新語、カタカナ言葉の問題とリスクコミュニケーション

以前の新型インフルエンザ騒動のときに、一般の人も知った新語が、「パンデミック」や「フェーズ」です(「フェーズ」は、もう忘れた人もいるかもしれません)。

今回の新型コロナウイルスに関しては、パンデミックに加えて、「クラスター」「オーバーシュート」「ロックダウン」です。

マスコミも、私たちも、新語、カタカナ語が好きなので、これらの言葉は注目されやすい良い面があります。

一方、カタカナ言葉は苦手な人もいます。

私は、新型インフルエンザ騒動の時に18を対象に調査しました。これだけ大報道がされていても、「パンデミック」の意味のわからない若者が数パーセントはいました。

また意味は分かったとしても、漢字よりもかえって実感が持ちにくい場合があることも忘れてはいけません。

感染症以外の日常生活でも、アルファベット表記やカタカナ言葉がスマートでカッコ良くても、結局日本語、漢字が、最も直感的に理解できることは、よくあることです。

新語カタカナ語は、時には日本語、漢字以上に、不気味な不安感を呼び起こすこともあります。また時には、カタカナ言葉の意味がわからなかったり、本来感じて欲しい適切な不安感情を導きにくいこともあります。

今回の記事の見出しも、「首都ロックダウン」ではなく「首都封鎖」でした。

新語やカタカナ言葉が悪いわけではありませんが、きちんと正しいメッセージが伝わるリスクコミュニケーションのためには、様々な工夫と配慮が求められています。

本当に首都封鎖などにならないように(本当に首都ロックダウンなどにならないように)、

怖がりすぎず油断せず、新型コロナウイルスと戦っていきたいと思います。

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新語解説

  • パンデミックとは:パンデミック(pandemic)は「広範囲に及ぶ流行病」「感染症の世界的な流行状態」のことです。
  • フェーズとは:フェーズ(phase)とは、局面、一側面、位相、段階、「変化する過程の一区切り」です。フェーズは、分野業界によって使い方が異なりますが、医療業界では、 パンデミックの警戒段階を「フェーズ」で表したりします。
  • クラスターとは:クラスター(cluster)とは、房、集団、群れの意味で、これも分野や業界によって使い方が異なりま。心理学の人間だと統計手法の「クラスター分析」を思い浮かべます。感染症に関しては、「小規模な患者の集団」です。
  • オーバーシュートとは:オーバーシュート(over shoot)とは、これも分野や業界で意味が違って、経済分野では為替や株価が過剰反応して行き過ぎたことを指します。感染症に関していえば、「爆発的患者急増」です。
  • ロックダウンとは:ロックダウン(lockdown)は、「封鎖」という意味ですが、IT分野ならセキュリティを強化するためにOSやアプリケーションの機能を制限する仕組みです。建物の内部の人を守るために外部の人が入れないようにするのもロックダウン。緊急事態に人の移動や情報を制限することもロックダウン。感染症で外出禁止もロックダウン。小池都知事は、「感染の爆発的な増加を抑え、ロックダウン(都市封鎖)を避けるために不便をお掛けするが、ご協力をお願いしたい」と呼び掛けました。

カタカナ言葉って、難しいですね。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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