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ヤフー宮坂社長は藤代氏をスルーしてもいいのではないか ジャーナリズムとは何なのか問題

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

アポがとれないくらいで「嘘つき」呼ばわりするのはやめなさい

悩んだが、やっぱりYahoo!個人でも触れておこう。藤代裕之氏によるこのエントリーの件である。

取材に対してウソをつく組織「Yahoo! JAPAN」が信頼と品質など担保できるわけがない

http://bylines.news.yahoo.co.jp/fujisiro/20160224-00054718/

これに対する疑問を、私は個人ブログに書き、それがBLOGOSにも配信された。このエントリーだ。

Yahoo JAPANは嘘つきなのか ジャーナリストってなんだ みんな残念だ

http://blogos.com/article/162835/

少しでも場を和ませるために、パフェを食べる写真、最後の方はギャグなどをかましたが、それが揶揄されるキッカケとなってしまった。私なりの配慮だったのだが。誤解を解くためにも、そして、日本のウェブジャーナリズムを少しでも健全な方向に持っていくためにも、ここは藤代裕之氏と、ヤフーと宮坂社長をちゃんと厳しく批判しなくてはならない。両氏に対する批判だけでなく、日本のウェブジャーナリズムに対して、檄を叩きつけなくてはならない。以下、一切の冗談も、慈悲もなく、徹頭徹尾冷徹に斬りつけるから、心して読むこと。すでに不愉快になっている人は、この記事を閉じて、他の記事を読むがいい。その方が無難な週末が過ごせるはずだ。

BLOGOSに配信された前出のエントリーでも触れたが、この件については藤代裕之氏が大変に残念だったと思う。要するに広報に打診してアポがとれなかったという、記者としてぶち当たる初歩的な壁について、ヤフーのポリシーを引き合いにして、愚痴を言っているだけにしか見えない。拝読する限りは、初期段階の悩み、しかも新聞社の大卒1年目の新人が言うような愚痴にしか聞こえない。

まだ「嘘つき」呼ばわりする段階ではなかったのではないか。仮に「ジャーナリスト」と名乗るからには(あるいは呼ばれているからには)、あるいは大学教員という立場にあるからには、より粘り強く取材対象、研究対象を追うべきではなかったか。宮坂氏がベストな取材対象だったのかどうかにも疑問が残る。ヤフー社の対応は極めて常識的な範囲だったのではないだろうか。あらゆる手段を使って取材依頼を繰り返す、ヤフーや宮坂氏が応じざるを得ない、企画を持ち込むべきだったのではないか。

ヤフー社は、日本で時価総額において40位以内に入る企業であり、その社長は暇じゃないし、別にニュース事業ばかりやっているわけではない。取材対象は選ぶべきである。たとえ、あのようなメディアポリシーを出したとしても、有象無象のブロガーに取材対応するわけではないし、そのオープンかつフェアなポリシーの中で、社長への取材依頼に全て応じるとは書いていない。

それをいきなり「嘘つき」呼ばわりするとは、雑ではないだろうか。いや、いままでどのような取材をしてきたのだろう?

この藤代裕之氏の言動に対して、民間人、素人ならともかくメディア関係者が「さすが藤代さんはジャーナリスト」「これぞジャーナリズム」「これを載せるヤフーもすごい」などと言っているのを見かけた(すべてを追ったわけではないが)。私はあなたたちを全力で軽蔑する(あくまでその言動に対してであり、人格は否定しないのだが)。もっと、粘り強く、丁寧な取材依頼を続けたのならわかるのだが。

こんな言動が礼賛されているのもどうかと思うのである。ただでさえ、メディアのあり方が問われている時代だし、報道に対する圧力のようなものが散見される時代である。そこで、藤代裕之氏とそのフォロワーが、このような言動をしていると、ジャーナリズムはますますナメられるのではないかと、私は曖昧な不安を抱くのだ。

片手で握手して片手で殴りあうのが記者と広報の関係ではないか

前出の私のエントリーが藤代氏やそのフォロワーに読まれているかどうかは知らない。一応、BLOGOSの総合ベスト10には入ったが、コメント数が盛り上がったわけでも、拡散したわけでもなかった。

しかし、個別に大手企業の広報担当者などから賛同のコメントを頂いたりした。

盟友中川淳一郎も応援のツイートをしてくれた。

これは常見が圧倒的に正しい。記事作成にあたっては、エラい順番があるのよ。【1】取材相手【2】編集長【3】読者【4】編集者【5】ライター https://cakes.mu/posts/1491  ここにも書いた。取材相手がいなくちゃ何も作れん

出典:中川淳一郎Twitter(@unkotaberuno)

中川淳一郎の言動はいちいち賛否があるだろうが、私は彼はウェブ関係者として、間違いない知見を持っていると信じている。その彼から応援して頂き、心強かった。

ただ、この中川論は、現場で働くメディア人の処世術としては極めて正しいと思うが、私はこれに対して同意しつつも、全面的に賛同するわけではない。というのも、取材される側とメディアの関係性というのは、偉い順なるものをいったん置いておいて、「片手で握手して、片手で殴りあう」くらいの関係がちょうど良いと思うし、健全だと思っている。互いに都合の合うものしか取材が成立しない、そうじゃない場合は拒むというのもまた違うと思うのだ、広報としても、取材する側としても。

だから、藤代氏とヤフーも、もっと片手で握手し、片手で殴りあうべきだったのではないか、藤代氏が「嘘つき呼ばわり」する前に。両者のやり取りを一般化するわけではないが、ここにジャーナリズムと広報の劣化を感じてしまうのである。

なお、広報に関する私の考えは、ここにまとめたので、お時間のある方はこちらも読んで欲しい。

次世代のPRパーソンは『戦略PR』だとか言ってないで黙って仕事しろ、結果は後からついてくる!!/常見陽平さん

http://blog.pr-table.com/interview/tsunemi_yohei/

宮坂社長はオーサーを戦場に連れていってくれるのか

一方のヤフー、および宮坂社長にも苦言を呈さなくてはならない。PVよりも中身を評価する、オーサーを育てると言いつつも、この一連の騒動の残念な感じをどう捉えているのだろう。

何度も書いているが、私が宮坂社長の言動において、決定的に違和感を抱くのは「ピュリッツァー賞をYahoo!個人のオーサーから出す」という発言である。藤代裕之氏が取り上げた、朝日新聞の記事でもそのような趣旨のことを言っていた。

新しい書き手を発掘していきたい ヤフー宮坂社長に聞く

http://digital.asahi.com/articles/ASJ2H46Y3J2HULFA014.html

社長はステークホルダー(株主「だけ」ではなく、顧客と従業員と社会だ、たとえば)に対してアピールしていかなくてはならない。その意味では、時に「できっこないこと」を言ったり、アジテーションを行うことも必要だ。しかし、私はこの「ピュリッツァー賞」という発言だけは納得がいかないのである。率直に、彼がこの言葉を発するたびに、虫酸が走るのだ。申し訳ないが、現状のYahoo!個人とのギャップがありすぎるのである。ジャーナリズムをなめるな、と。

「育てる」なる言葉を使っているが、「使っている」「場を提供する」くらいが正しいのであって「育てる」という行為をどれだけ行っているのか。たしかに担当者からはありがたいアドバイスを頂いているが、どちらかというと書き方に関するものであって、そもそもこのテーマを追うべきだ、このような切り口もあるのではなどという提案はほぼない。このあたりは、3月第1週に担当とミーティングがあるので、議論するが。

私が連載の機会を頂いている「東洋経済オンライン」の武政秀明氏には、育ててもらっている感じがする。いちいちアドバイスは的確だし、全力で応援してくれるし、スキル面でもマインド面でも優しく厳しく指導してくれているからだ。

今のレベルでのサポートで「育てる」とか、ましてや沢木耕太郎氏や立花隆氏の名前を出すのはお願いだからやめて頂きたい。もし、仮にピュリッツァー賞が出たとしても、美味しいところを持っていったようにしか見えないのである。たしかに、Yahoo!個人でブレークした書き手はいるが、彼ら彼女たちもその前の努力があるのである。内田良氏も、藤田孝典氏も、Yahoo!個人が彼らをブレークさせたようで、利用したとも言えないか。Yahoo!個人以前の努力が大きいのは明らかだからだ。

だから、宮坂社長とヤフーは、どこまで本気なのか、大言壮語ではなく普段のサポートで証明してほしいのである。

たとえば、ヤフーが取材費をプラスアルファで出すというスキームも発表されたのだが、担当から提示された額を見て、私とアシスタントは愕然とした。この程度の額で、ヤフーの手柄を増やしてしまうのだろうか。

本気でピュリッツァー賞を出すというなら、極論だが私達に戦場に取材に行く費用と機会を提供してくれるのか。北朝鮮に連れていってくれるのか。ウクライナに連れていってくれるのか。大規模調査をするための資金を出してくれるのか。オリンピックやワールドカップ、グラミー賞に連れていってくれるのか。

「育てる」というが、今のライター陣と担当編集者たちは合格点なのか。Yahoo!個人には復帰したが、率直に戸惑うのは逆立ちしても勝てっこない書き手と、一緒にしてほしくないアマチュアたちである。自分はここにいていいのかと思ってしまう、いろんな意味で。

どこまで本気なのかを見せて頂きたいのだ。煽りだけでは、信用しないのだ。

この騒動の一連のやり取りが、日本のジャーナリズムがいかに未熟かを可視化している。私たちは、ウェブで楽をしすぎてしまった。もっと汗と涙と血を流さなくてはならない。

私は今回の件で、失望はしても絶望はしていない。希望はある。

上を向いて歩かなくていい。前を向いて進もう。

末端の一ライターからの問題提起である。

さあ、明日からウェブジャーナリズムを再起動しよう。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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